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円安進行をはじめ、複合的な要因からインフレ傾向にある昨今、「会社として現物資産を保有しておけば、財務基盤の強化と節税の一石二鳥になるのでは」と考える人もいるかもしれません。実際、キャッシュを現物資産に変えることで節税につながるケースもあります。そこで、税理士・公認会計士で税理士法人グランサーズ共同代表の黒瀧泰介氏が、現物資産で経費にできるものの線引きと、経費計上する際の注意点を解説します。

現物資産を経費で買ったら節税できる?

近年、金価格の高騰や円安を背景に、会社の利益を現物資産に変えて保有しようと考える経営者が増えています。

通貨価値の目減り対策としては合理的ですが、現物資産ならなんでも経費になるわけではありません。そこには税務上の明確なルールが存在します。

「金(ゴールド)」を会社のお金で買っても、税金は1円も減らない

結論から述べると、会社名義で金(ゴールド)を購入しても1円も経費にはなりません。

理由は、税制における「減価償却」の考え方にあります。減価償却の対象は、時間の経過や使用で価値が減る資産に限られるからです。

たとえばパソコンや車などは、劣化して価値が下がります。しかし、金は腐食せず、価値が自然に減少しない資産です。むしろ昨今のように、価格が上がり続けることもあります。

そのため会計上、金を買う行為は「現金」が「金」という別の資産に形を変えただけとみなされるのです。たとえば1,000万円で金を買っても、貸借対照表上の現預金が減り、同じ額の資産が増えるだけで、会社の純資産額は変わりません。費用が発生していない以上、節税効果はゼロです。

ただし、金は世界共通の価値を持つため、インフレや円安から財産を守る「資産保全」としては非常に優秀な手段といえます。

高級腕時計は?

ロレックスやオーデマ・ピゲ、パテック・フィリップなどのいわゆる「高級腕時計」も、原則として経費にはなりません。

最大の壁は「業務に直接必要である」という客観的な証明が困難な点です。税務署からは「個人的な趣味」と判断されるのが一般的で、福利厚生費や備品として処理しても、税務調査で否認される可能性が極めて高いでしょう。

たとえばある社長が、「商談の成功率を上げるための投資だ」と300万円のロレックスを買ったとします。これ自体は社長の自由です。

しかし、もし社長が「これ、経費で」と言ったとします。その場合、税理士から即座に諫められるでしょう。

それでも強行して経費計上した結果、税務調査などで否認された場合、その購入代金は「社長への役員賞与」として処理されます。

すると、会社側で経費にならないだけでなく、社長個人に多額の所得税や住民税が課せられる、つまり、個人で買うより重い「二重の税負担」を負うリスクがあるのです。

経費に計上できる意外な高額商品とその条件

一方、たとえば絵画や壺のような美術品は、条件を満たせば減価償却資産として経費に計上できる場合があります。

具体的には、1点100万円未満の美術品(明らかに骨董的価値が高いものを除く)であれば、原則8年かけて経費計上することが可能です。

さらに「少額減価償却資産の特例」を活用すれば、1点30万円未満の物品は購入年に一括で全額経費に落とせます。またこの上限は、2026年4月以降40万円未満に引き上げられました。

ただし「事務所の応接室に飾る」など、事業用の装飾としての実態が不可欠であり、自宅に飾るようでは当然否認されます。

出口戦略としての「手数料」と「譲渡所得」

現物資産は、売却時の出口が重要です。美術品は売却時に2〜3割程度の手数料が発生することが一般的とされています。

つまり30万円で買った絵が同額で売れても、手数料を引けば手元には20数万円しか残りません。節税額より手数料のほうが大きくなり、トータルでマイナスになるケースもあるのです。

また、金を売却する際の税制も法人と個人で異なります。法人は売却益が利益に合算されますが、個人の場合は「譲渡所得」扱いとなり、年間50万円の特別控除があります。さらに5年以上保有すれば、課税対象が半分になる優遇ルールが適用されます。

「いますぐ利益を消したい」のか「将来に備えたい」のか。目的と出口のキャッシュフローを分けることが、現物資産戦略の鉄則といえるでしょう。

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士