未来の“りくりゅう”誕生の機運と課題 フィギュア・ペア五輪初金メダルがもたらす意義
2月のミラノ・コルティナ五輪ではフィギュアスケート・ペアで金メダルに輝いた“りくりゅう”こと三浦璃来(24)と木原龍一(33)が一躍、時の人となった。フィギュアの最注目は個人種目シングルだったが、初めてペアが大いに脚光を浴びた歴史の転換点。“未来のりくりゅう”誕生へと期待は膨らむがハードルは低くない。今後の課題と2人の活躍がもたらした意味について深掘りした。(取材・構成 波多野 詩菜)
本格的にペアに取り組みたいなら、海外へ――。りくりゅうがカナダに練習拠点を置くように、今日まで日本のペア競技者の多くは、海外に練習環境を求めてきた。なぜ日本では難しいのか。ISUテクニカルスペシャリストでプロコーチを務める岡崎真氏(49)は「環境面」を大きな要因に挙げる。
ペアにはスロージャンプやリフトなど組んで行うアクロバティックな技があり、「慣れていないシングル選手と一緒の練習では危ない」面がある。一般営業中での練習は困難で、貸し切りでの練習を余儀なくされる。時間帯が深夜になることもあり、シェアする他のペアがいなければ金額は高額に。スポンサーなどの支援なしではハードルが高い。
全日本選手権出場組がゼロの年もあった日本では、指導者もシングルに比べて圧倒的に経験者が少ない。男性側に日本人選手には少ない高身長やパワーが求められるところも難関の一つ。いくつかの複合的な理由はあるが、やはり「リンクの環境が整っていないところが一番のネック」だという。
たとえば岡崎氏が現役時代に拠点とした米国の施設にはリンクが3面あり、ペアやアイスダンスにも各競技者だけが使用できる時間が設けられていた。「人数が多かったので、システムとして成り立っていた」。カナダでも3面以上ある施設は数十以上。2面でさえ限られる日本で経営を成り立たせ、ペアの環境を充実させるためには、なおのこと競技者の増加が先決だ。
りくりゅうの金メダルは、その機運を高める一筋の光となった。岡崎氏は言う。「やっとペアに注目して興味を持ってもらえたところは大きい。今までは何となく“シングルで通用しないからペアをやってみたら?”という逃げのようなイメージもあったかもしれないが、これでネガティブな部分が打ち消せた。やりたい選手が増えていく、いい起爆剤になる。大きな一歩だった」
実際に街中から変化は起きている。4月から世界を目指す選手を育成するアカデミーを開講する東京都東大和市の「東大和スケートセンター」には、「りくりゅうが凄かった」などと訪れる利用者が増えた。金メダル獲得直後の「初心者ワンポイントレッスン」には通常の2〜3倍の約40人が参加した日もあり、「ペアのレッスンコースはありますか」という問い合わせもあったという。
現在の日本では、一定の競技レベルを備えたシングル選手の中から適性のある選手を探して五輪へ強化を図るスケート連盟のトライアウトが唯一の公式なカップリング。今大会を機に志望者の裾野が広がれば、将来的にはより若い世代からの育成も実現するかもしれない。りくりゅうの金メダルは、日本のフィギュア界に未知の可能性を呼び込んだ。
≪りくりゅうの今後 25日に日本橋パレード≫“りくりゅう”こと三浦と木原はアイスショーやテレビ出演など五輪後も多忙な日々を送る。13日には所属先の木下グループ入社式にサプライズ登場。今後は17日に東京・元赤坂の赤坂御苑で開かれる春の園遊会に招待されており、25日には東京・日本橋で行われるミラノ・コルティナ五輪・パラリンピックの日本選手団による「応援感謝パレード」に参加する。3月の世界選手権は辞退。来季以降の去就については木原が「まだ決まっていない」と話している。
▽ペア日本勢の現状 全日本選手権に出場する組がいない年もあったペア種目だが、三浦、木原組に続く存在も注目される。“ゆなすみ”こと長岡柚奈、森口澄士組(木下アカデミー)は今年3月の世界選手権で4位と躍進。ミラノ・コルティナ五輪で最下位に終わりフリーに進めなかった悔しさを晴らした。結成1季目の籠谷歩未、本田ルーカス剛史組(木下アカデミー)は全日本選手権出場。来季はさらなる飛躍が期待される。
≪東大和スケートセンター 今月からアカデミークラス開講≫東大和スケートセンターでは、次世代のトップクラススケーターの育成を目指すアカデミークラスを今月新たに開講した。世界で活躍する選手の育成経験を擁するインストラクターを招聘(しょうへい)し、メンタル面もサポート。また、既存のフィギュア教室には世界選手権出場経験のある重松直樹氏ら、経験豊かな新指導者を招いた。
