ヴァンス副大統領も異例の加勢…EUの「目の上のたんこぶ」ハンガリー・オルバン首相再選で懸念される欧州対立の行方
ハンガリーの国益を最優先に
ロシア・ウクライナ情勢に引き続き、多くの人々が、固唾を飲んで中東情勢の行く末を見守っている――。だが、世界を見渡したときに、安心して日々の生活が送れる国ばかりではないことを知る。
いま、“欧州の巨大な存在”に睨まれている国があることをご存じだろうか。ハンガリーだ。
ハンガリーはソ連の衛星国だったため、今でも石油の8割以上、ガスもほぼ7〜9割をロシアに依存している。それが迂闊だったといえばその通りだが、かといって、EU(欧州連合)の言う通り、今、ロシアのエネルギーをボイコットなどすると、実際問題として経済が破綻する。だから、ヴィクトル・オルバン首相はEUのロシア制裁には頑として加わらない。
EUの欧州委員会は、当然、エネルギーの代替先を探せと圧力をかけているが、石油に関しては精製設備がロシアの重質原油用なので、そう簡単に輸入元は変えられない。
つまり、オルバン首相がウラジミール・プーチン大統領に対して協調姿勢を取っているのは、単純にロシアが好きだからではない。強大な隣国とうまくやっていくための、いわば平衡感覚である。もっと正確に言えば、ロシアとうまくやっていけるかどうかに、ハンガリーの国益がかかっているのだ。
だから、ハンガリーのオルバン首相のことを親露派などと片づけていると、状況を見誤る。オルバン首相は、現在のEUの首脳の中では、群を抜いて優秀な政治家だと私は思っているが、その信条は「祖国愛」だ。ハンガリーの伝統や家庭を守る、移民による国家の融解を防ぐ、キリスト教などヨーロッパの文化遺産を継承する等々、つまり、国家と国民を守ることが自分の務めだと思っている。ところが、それらは悉くEUの推し進めるグローバリズムに反するため、欧州委員会(EUの内閣に相当)にとってオルバン首相は、すでに長らく目の上のたんこぶなのだ。
現在、激しく対立しているのは、EUがウクライナへ送ろうとしている900億ユーロの無利子の追加資金援助に関して。欧州委員会は金欠になっているウクライナに一刻も早くお金を送り、戦争を継続させようとしているが、オルバン首相は、「ウクライナはすでに敗北しているのだから、両国の犠牲をこれ以上増やしてはならない」という意見だ。つまりEUは、戦争を長引かせるための資金援助ではなく、戦争を終わらせるための努力をすべきというのが、オルバン首相の主張だ。
“自分たちで決める”ハンガリーに不満なEU
欧州理事会(欧州委員長と全カ国27の首脳の集まり)は全会一致が原則なので、オルバン首相が反対すると、いくら欧州委員会が重要だと思っていても決まらない。
ここ数年、ハンガリーは、中東難民の受け入れは拒否するわ、LGBTで足並みを揃えないわ、と左派の支配するEUの欧州委員会と頻繁にぶつかり、その度に、EUから貰えるはずの巨額の補助金が凍結されたり、EUの裁判所から制裁金の支払いを命じられたりを繰り返してきた。しかし、どんな圧力をかけられても屈しない。
特に移民・難民については、「自国に誰を入れるかはハンガリーが主権国として自分で決める」と頑張ったため、EUの裁判所により、2億ユーロ(現行レートで370億円)の罰金プラス、それを是正するまで1日につき100万ユーロ(同1.85億円)という途方もない額の支払いを命じられた。
それに対しハンガリー側は、「EU加盟時には難民を受け入れなければならないという決まりなどなかった」として支払いを拒否しているため、フォン・デア・ライエン欧州委員長は、この額をハンガリーの貰えるEUの予算から差し引こうと画策している。そんなことになれば、ハンガリーにとっては重大な打撃で、EUにいる理由がなくなるのではないかと思うほどだ。
そうでなくてもハンガリーは補助金が断たれたことで、学術や文化交流の場でもすでに村八分になりつつある。近年、ハンガリーが中国と接近していたのは、実は、こういう背に腹は変えられない事情も絡んでいたと思われる。
オルバン首相にはドイツ・メディアも否定的
そのハンガリーで2026年4月12日に総選挙がある。2010年以来、4期続けて政権を担ってきたオルバン政権は、これまで国民の間では絶対の人気を保っていた。彼の人となりを一言で表せば、あの恰幅の良さと相まった安定感だ。国家を自由奔放や多様性に委ねるのではなく、治安と規律を重視し、秩序を守る。その知性とバランス感覚は大したものだ。
しかし、欧州委員会にはそれが気に入らず、今度こそ、オルバン首相を葬り去ろうと張り切っている。ちなみにEUが応援しているのは、新興野党「ティサ(尊重と自由)」のペーテル・マジャル氏(45歳)。
ただ、EUの内部では、万が一、オルバン首相が再選したら、欧州理事会での投票権を剥奪すべきだという声が出たり、ドイツの緑の党の議員が、「オルバン首相が勝っても、EUはそれを認めるべきではない」などと言い出したり、これが民主主義の組織かと疑問に思うような動きが盛んだ。主要メディアも軒並み、すでにマジャル氏が勝利したかのような書き方をしている。
元々、オルバン首相については、ドイツメディアは悪いことしか書かない。オルバン政権は自分たちの汚職を誤魔化すために、司法を都合の良いように改革し、メディアの自由を奪い、EUの法律にも従わず、要するに政治体制をどんどん独裁に変えていく等々。
16年間も同じ政権が続くと、国のあちこちでさまざまな組織と権力との癒着が進むのは避けられないことなので、汚職に関しては全くの作り話ではないだろう。オルバン首相本人は潔白でも、関係者や親族などが甘い汁を吸う構造ができてしまっている可能性は十分にある。それを許してはいけないが、しかし、オルバン首相が国家にもたらす利益と鑑みて冷静に判断する必要はある。
LGBTに関しては、ハンガリーでも同性愛は認められているし、同性婚と異性婚の権利はほぼ同じだ。しかし、例えば、18歳以下の子供の目に触れるところで同性愛をアピールすることを、オルバン政権は禁じた。
EU、特にドイツでは、裁判所はどんどん左寄りになっているし、公共放送は必ずしも中立ではない。要するに、ハンガリーに向けられている批判は、よく見れば、他の国でも同様だ。ただ、違うのは、ハンガリー政府は保守(右派)なので、振れる方向がEUやドイツとは正反対だということ。EU側はそれを、ハンガリーが国家主義的で三権分立を侵していると言っているわけだが、これは全く当たっていない。
それどころか私は、多大な利権をめぐって一番ひどい汚職が蔓延っているのは、実はEUではないかさえ思っている。コロナワクチン然り、GX(グリーントランスフォーメーション)然り、ウクライナ戦争然り。
オルバン首相再選なら…「どうなるか」
昨今のEUは、国家という単位を葬ろうとしており、権力を欧州委員会に集中させ、各国の憲法を骨抜きにしていく傾向が強い。そして、それに従わない国は反民主主義的だとして、平気で制裁の対象にする。つまり、問題はハンガリーではなく、独善的なEUではないか。
なお、前述のウクライナに対するEUの支援金をハンガリーが拒否している理由だが、実は、ウクライナがパイプラインの故障を理由に、ロシアからウクライナへの石油の輸送を止めてしまっているという背景がある。ちなみに、ハンガリーの使っているロシア産の石油やガスは、ウクライナ経由のパイプラインで運ばれてくる(ウクライナにとっては、そのパイプラインの使用量が、ソ連崩壊後から今日まで非常に大きな外貨収入となっていた)。
2025年8月にも、そのパイプラインの一部が、ロシアの攻撃によって故障したとされ、石油の供給が一時止まった。そして3月、また故障で、供給が極度に不安定になっている。ハンガリーは、修理がなされ次第、EUの支援金にOKを出すと言っているが、一方のウクライナは、支援金にOKを出せば修理すると言っているらしく、埒が開かない。
選挙前なので、オルバン首相の弱体化を図った作戦の可能性は高い。ハンガリー国民に、オルバン首相を支持し続ければどうなるかを思い知らせる狙いである。ウクライナはハンガリーのライフラインを握っている。
2026年4月7日、そこへやってきたのがJ.D.ヴァンス米副大統領だ。ブダペストの巨大な競技場で、大々的にオルバン首相の応援をした。途中でケータイでトランプ大統領を呼び出してコメントを取ったのは、まさにショーだった。
選挙結果では「最悪の事態」にも?
冒頭に、「オルバン首相が親露派だと思うと状況を見誤る」と書いたが、オルバン首相がプーチン大統領のみならず、米国の共和党政権とも連帯しているということは、彼らの絆は、目下のところ反グローバリズムという括りだろう。これがハンガリー国民の気分にどういう影響を与えるのかは、私にはわからない。
ただ、ヴァンス氏が、自分がハンガリーの選挙にすっかり干渉しているのを棚に上げて、EUが干渉するのはけしからんと言っていたのは少し笑えた。米国はいつもながら自分勝手だ。EUはEUで、あらゆる手段でオルバン再選を妨害するだろうから、12日の総選挙の翌日、選挙結果によってはブダペストにはとんでもない暴動が起きるかもしれない。
青山学院大学の福井義高教授によれば、「このままEUの移民政策が進めば、20年後には東ヨーロッパにしかヨーロッパ文化は残らないだろう」とのこと。それも、ハンガリーなど数少ない東ヨーロッパ諸国が、グローバリズムに負けないという前提の話だ。
ハンガリーはヨーロッパの誇り高き一員であり、オルバン首相は必死でハンガリーと、そしてヨーロッパを守ろうとしているように見える。私が応援しても何の役にも立たないのは承知だが、それでもオルバン首相を心から応援したい。
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