記事のポイント
エルフビューティーは、ChatGPTやGoogleなどLLM上での製品発見に対応する体制づくりを進めている。
TikTok Shopの拡大により、美容ブランドには商品力だけでなくエンターテイメント力も求められている。
アルタがTikTok Shop、セフォラがChatGPT連携へ進むなど、大手各社のAI、販路戦略は分かれはじめている。


化粧品企業のエルフビューティー(E.l.f. Beauty)が設立された20年以上前、消費者がオンラインで美容製品を購入する考えは、まだ目新しいものだった。

しかし2026年現在、消費者はデジタルプラットフォームで喜んで化粧品を購入しており、さらにそのオンライン行動は、ほとんどの企業が予測するよりも速く進化している。

エルフ・コスメティクス(E.l.f. Cosmetics)やスキンケアブランドのナチュリウム(Naturium)、ヘイリー・ビーバーのロード(Rhode)を傘下に持つエルフビューティーは、TikTok Shopのようなソーシャルeコマースプラットフォームに積極的に参入し、人工知能やChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)を活用することで、時代の変化に追いつこうとしている。

一方で、これらの技術の利用は消費者のあいだで依然として議論の的となっている。

消費者の発見行動を変えるLLM



「たしかなことは、発見のほぼ60%がLLM、とくにChatGPTとGoogleで起きている」と、エルフビューティー最高デジタル責任者のエクタ・チョプラ氏はショップトーク・スプリング(Shoptalk Spring)でGlossyに語った。

「購入手続きだけの話ではない。消費者の購買プロセスの一部としてそこにいることがより重要だ。なぜなら、購買ファネル全体が崩壊しつつあるからだ」。

新しいテクノロジーへの適応は消費者向けの取り組みに限ったことではない、とチョプラ氏は付け加えた。

同氏によると、エルフビューティーはLLMに対して企業への製品認知度を高めるための社内チームを立ち上げており、消費者がChatGPTのようなプラットフォームで顧客が製品を検索する際に、より具体的な検索語句で製品が表示されるよう、AIを使ってデータをスクレイピングしている。

「これは単に『消費者がこれを検索しているから、このコンテンツを作ろう』ではない。コピーライティングチームとプロダクトマーケティングチーム全体の、マインドセットの転換が必要だ」とチョプラ氏は述べた。

「短期的な問題を解決しようとしているのではなく、将来の労働力のありかた。それこそが我々が解決しようとしていることだ」。

TikTokが加速させる美容業界の競争



しかし、消費者や企業がAIの台頭にいまだ適応している最中であっても、TikTokが美容業界へ与えた影響は明らかだ。

2018年に米国に上陸して以来、このソーシャルメディアプラットフォームは美容のトレンドを加速させ、新たなインフルエンサーやコンテンツクリエイターの層を生み出し、2023年のTikTok Shopの開始とともに、消費者がひとつの画面で美容製品を発見し購入できるルートを導入した。

大手ブランドも動きに注目しており、TikTok Shopにおける年間売上3000万ドル(約45億円)以上のブランドの売上は、2025年に前年比97%増となった。2026年3月には、化粧品小売大手のアルタビューティー(Ulta Beauty)がこのプラットフォームへの参入を発表した。

エルフビューティーにとって、プラットフォーム上での競争激化のなかで時代に追いつくことは、単にマスカラやリップスティックを売る以上の存在として自社を考えることを意味する。

「世界は我々のために進化している。もう自分たちをビューティーブランドとは呼んでいない。本当に考えてみれば、我々はエンターテイメントだ」とチョプラ氏は語った。

「これらのプラットフォームにいるためには、エンターテイメントの筋力が必要だ。TikTokでは、トレンド、流行の曲、そういったものからエンターテイメントが生まれる。だから、カルチャーと同調し続けなければならない。カルチャーはスワイプの速度で動いている」。

アルタ対セフォラ、異なるAI戦略



すべての大手ビューティー企業が、新たなコマースチャネルの導入に同じアプローチをとっているわけではない。アルタビューティーがTikTok Shopに投資した同じ月に、化粧品小売大手のセフォラ(Sephora)が自社アプリとChatGPTの連携を発表した。

チョプラ氏は、セフォラの動きを、LVMHが所有するこの小売企業がChatGPTを消費者にとって信頼できるプラットフォームと信じていることのシグナルだと見ている。

「いつもアルタ対セフォラの戦争だ。アルタがTikTokに行き、セフォラがLLMに行った」とチョプラ氏は述べた。

「セフォラは、8000万人のロイヤルティ会員とChatGPTを連携させ、パーソナライゼーションを実現しようとしている。AIをめぐる信頼性の問題などを考えれば、これは正気の沙汰ではない」。

ChatGPTのようなLLMに賭けているのはセフォラだけではない。Shopify(ショッピファイ)やウォルマート(Walmart)も、ここ数カ月でOpenAIが所有するチャットモデルとの連携を発表している。

チョプラ氏によると、エルフビューティーはGoogleをニューヨークのオフィスに招き、チームがAIをよりうまく活用する方法を学ぶのを支援してもらった。

しかし同氏は、エルフビューティーがAIを使って効率を高めているとはいえ、人間の関与への依存がなくなることはないと主張している。

「クリエイティブにおいてAIを使うことはある。『ねえ、このショットがあるんだけど、50通りの切り方をして、背景を変えてくれる?』といった具合だ。もちろん、それは効率化につながる」と同氏は語った。

「LLMを学習させることは可能だが、ブランドとして人間の関与の価値をどこまで重視するかは、ブランド次第だ。エルフビューティーは、人間の関与を非常に重視している」。

[原文:'Culture is moving at the speed of swipe': Why E.l.f. Beauty considers itself an entertainment company as much as a beauty brand]

Emily Jensen(翻訳、編集:藏西隆介)