落馬の後遺症と向き合いながら前を向く蓑島靖典の強さ 2年の休養経て今年2月から調教騎乗を再開「自分には競馬しかない」
10年中山大障害(バシケーン)など障害で重賞3勝を挙げている蓑島靖典騎手(43)=美浦・武市=が、24年2月10日小倉5R(障害オープン)での落馬により約2年の休養を余儀なくされたが、今年2月11日から調教騎乗を再開している。
落馬時は頭部負傷などの重傷を負い、小倉市内の病院に搬送され、目覚めたのは翌朝だったという。障害騎手だけあってか、ケガへの耐性は強い。その時も骨折はなく、体が動いたから「たいしたことはない」と思ったぐらいだ。ただ目が覚めて鏡を見ると、顔の左半分が真っ赤に腫れていたそうで「頭の血管が切れていて、中で出血していたみたいです」と当時を淡々と振り返る。
手術はせず、内出血も収まっていたが、騎手人生だけでなく、今後の人生に関わる後遺症があった。左耳の聴力を失っていたのだ。失意のどん底に落とされても、おかしくない状況。それでも蓑島は「右側も聴力を失わなくて良かったです」と笑顔で振る舞う。過酷な経験をどこか淡々と、時には笑い話のように語る姿に、その時は複雑な思いを抱かずにはいられなかった。
落馬後の約2年間は聴力を戻せないか、いろいろな病院に行くなど騎手復帰に向けて模索していた。しかし、どの病院に行っても聴力の回復は厳しいという現実を突きつけられたという。「このまま復帰しても周りに迷惑をかけてしまう」と心が折れそうにもなったが、昨夏に美浦で行われたファンとの交流イベントに参加した際にもらった温かい声に救われた。「自分には競馬しかないなと思いました」。そこからは乗馬苑に足を運んで、感覚を取り戻す日々。再び馬と向かい合い、努力を重ね、トレセンに戻ってきた。
今後については騎手復帰への思いを持ちつつ、一方で現実を見据えている。「乗れるのであれば乗りたいですけど、現状としては厳しいかなというところです。調教師や調教助手など、立場が変わっていくかもしれないですけど、馬に携わっていけたらなと思っています」。なぜ、事故当時の悲惨な出来事を笑顔で話せたのか、最後まで話を聞かせてもらって分かった気がする。聴力を失ったからといって何も諦めていない。逆に“新しい蓑島靖典”としての人生を歩む−。未来に向けて前向きだからこそ、起こったことは悔やんでもしょうがない、と。
もともと尾関厩舎のレッドファルクスやドゥレッツァなどG1馬の調教に騎乗していたが、「蓑島が調教に乗った後に馬が変わる」と関係者からの評価も高い。2月の復帰後、中山牝馬Sに出走したアンゴラブラックの調教にも騎乗し「いい馬ですね」と自然と笑みをこぼしていた。馬の話をしている時は実に楽しそうな蓑島。これからどんな道を歩むにしても、その姿を追い続け、応援していきたい。(デイリースポーツ・斎藤諒)
