「ADHDで境界知能」の人はどう生きるか…大学生活と就活で直面した「厳しい現実」

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7人に1人、日本に約1700万人いるとされる「境界知能」の人たち。

言語化が苦手、仕事の段取りを覚えられない、行動がワンテンポ遅い、対人関係の距離感が極端、金銭管理ができない、ダマされやすい……困っているのに気づかれなかった人々の実態とは?

注目の新刊『境界知能の人たち』では、当事者を見てきた第一人者の医師が、全体像をわかりやすく解説する。

(本記事は、古荘純一『境界知能の人たち』の一部を抜粋・編集しています)

ADHDの併存--忘れ物が多く、気が散りやすい

アキエは21歳の大学生。卒業の単位のめどは立ったものの、就活がうまくいかないという状況でした。そもそもエントリーシートが書けず、大学に相談をしても指導されたことを忘れてしまう、繰り返し説明されても意味が理解できないといった様子がみられたため、「ADHDではないか」とアキエ本人が外来を受診しました。

ADHDは就学前後に診断されることが多いのですが、その特性があっても、特に女子の不注意の症状は、中学生のころまでは目立たずに見過ごされることがあります。

そのため、高校進学以降に、忘れ物が多い、規則を守れないなど生活態度が悪いということで、教師や仲間からの過小評価を受けたり、からかわれたりすることも少なくありません。

アキエは、中学の成績は振るわず、自由度の高い通信制高校を選びました。そこでは、家族がサポートしやすい環境だったこともあり、忘れ物や学校で気が散る心配もなく、友だちとの約束を忘れることも目立ちませんでした。

大学は自宅から通学できる便利な場所でしたが、人間関係や行動範囲が複雑化した際に対処しきれなくなり、不注意や多動・衝動性が表面化してきました。

アキエの育った環境を振り返ると、小学生のころから、忘れ物やなくし物が多く、優先順位をつけて行動することが苦手で、気が散りやすく、今やっていることに集中しにくいという特徴がありました。

中学校までは家族がアキエをサポートしていました。大学進学や就労を機にADHD症状に気づき、診察を受けるケースも増えているのですが、思春期までにその特性が確認できれば診断できます。アキエもその特徴がありADHDと診断しました。

就職活動をめぐる困難

アキエは薬物治療で現状を何とか改善したいと考えていましたので、薬物治療を開始しました。

気が散りやすい、忘れ物をしやすいなどの症状はある程度改善していきましたが、相変わらず大学で指摘されたことを理解できない、繰り返しやっても覚えられないという症状は続きました。

そこで知能検査を施行しました。IQは80でしたが、言語理解に比べて処理速度が遅かった。話の内容はわかっていても、それを行動に移すのに時間がかかるということです。

余談になりますが、境界知能の大学生の事例をいくつも見てきました。中には軽度知的障害と診断できるケースもあります。

一見しただけでは何も問題なく、多様な入試方法や進学希望者数に対して大学の定員に余裕があることが関係しているのでしょう。しかし大学では配慮を受けられませんので、卒業や就職で他の学生以上に困難さに直面しています。

さて、アキエの差し迫った課題は就職活動です。ADHDの診断があれば、障害者枠で就労支援を受けることはできます。

しかし、実情は複雑です。不注意や多動性など診断基準にある特性については配慮をしながら就労支援を受けられますが、境界知能の支援は受けられません。

アキエも母も手帳の取得前に、できれば一般就労でチャレンジしたいということで、民間の発達障害者支援企業に相談することにしました。そこでは学生プログラムがあり、手帳のないボーダーラインの発達障害の就労も手伝ってくれるということで、週1回通っていました。

しかし、そこでも支援内容が抽象的でよくわからない。自分のこれまでの経験を書くよう言われているが書けない、エントリーシートが書けないということで、アキエも母も次第に焦りを感じるようになりました。

そのような中で、アキエはアルバイトをはじめました。アキエは就労で苦労するよりはアルバイトを続けたいと言っていますが、母は就労以外の支援も受けられる精神障害者保健福祉手帳取得を希望しており、手続きを開始することにしました。

【解説】ADHDの人は、アルバイトを含めて就労がうまくいかないことがあります。不注意や多動などの特性に加えて、境界知能領域の知的機能であればミスも多くなり、雇用されても長く継続しません。アキエのようなケースは、就労時には公的な支援を受けた方がよいでしょう。

さらに「日本に1700万人いるとされる「境界知能」の人たち…当事者を見てきた医師が明かす「その実態」」では、7人に1人いるとされ、知的障害と平均値のボーダーにある境界知能の実態に迫っていく。

【つづきを読む】日本に1700万人いるとされる「境界知能」の人たち…当事者を見てきた医師が明かす「その実態」