トランプ大統領と習近平・国家主席

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 アメリカが今年に入って相次いで行った2つの軍事攻撃――3月のイラン、1月のベネズエラ攻撃は一見、それぞれの間に明確な関係性がないように映るものの、注意深く見るとその背景には、トランプ大統領の外交戦略が色濃く出ているのだという。19日には高市早苗首相が訪米し、日米首脳会談を行う。世界各国から「国際法違反」と非難する声も上がった驚きの攻撃の、「本当の狙い」はどこにあるのか。豊富な人脈で国政、外交の中枢を取材し続けてきたジャーナリスト・市ノ瀬雅人氏が読み解く。

【市ノ瀬雅人/政治ジャーナリスト】

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【写真を見る】“変わり果てた姿”でアメリカに移送されるベネズエラ・マドゥロ前大統領

ハイレベルな地政学的オペレーション

 米国によるイラン攻撃は、中東の安全保障や核開発の問題として取り上げられることが多い。とりわけ日本では、中東情勢や核兵器に関する報道は、個別的、専門的な位置付けで語られがちだ。

トランプ大統領と習近平・国家主席

 しかし、地政学あるいは地経学といった視座に立った時、今回のオペレーションについて、米国による中国に対する牽制戦略という本質的側面が次第にクリアになってくる。単なる個別の地域紛争ではないということだ。

 特に重要な点はエネルギーである。年明けに米国は、南米ベネズエラに軍事行動を起こし、反米であったマドゥロ大統領の身柄を拘束した。このベネズエライランという二つの大規模産油国、反米体制国家をめぐる米国の軍事作戦は、実質的に連動していると見るのがふさわしい。

 つまり、狙いの核心の一つには、オイルの蛇口を絞ることで、中ロを抑制しようという「ハイレベルな地政学的オペレーション」(専門家)という性格があるわけだ。

 とりわけ、14億の人口を擁する中国は、実は、世界最大の原油輸入国である。長年にわたり、石油をイランベネズエラからの輸入に頼ってきた。CNNの試算によれば、両国からの輸入は総輸入量の15%にも上るという。その一方で、中国は両国に対し、石油開発や社会インフラを中心に、巨額の投資を続けている。

イラク戦争との違い

 米国の軍事行動は、中国の石油資源確保にくさびを打ちこむだけでなく、中国による投資そのものを事実上無効化する目的もある。イランで親米政権を打ち立てることができれば、中国による両国への投資を、いわば没収したことになるのだ。

 こうした思惑は、米国がベネズエライランともに「占領」を目指していないことからも読み取れる。米国は現時点で、イランベネズエラに大規模な地上軍は投入していない。

 これは、政治体制を親米的な方向へ転換させることを目的としているためだ。大規模な地上戦を敢行した、かつてのイラク戦争との大きな違いである。

 領土の支配ではなく、統治とエネルギー供給のコントロールを掌中に収めることで、中国に圧力をかける構図なのだ。イランベネズエラが仮に親米政権に転換したとすれば、中国は石油採掘などに実質的に関与できなくなる。

 それだけではなく、中国が築いてきた両国への影響力の基盤自体が弱体化する。そうなれば、エネルギー面だけでなく、中東地域における外交的な立場が変わってゆく。

消耗戦の色彩も

 実際、米国はイランにおける作戦の初期に、政府高官を狙った精密なオペレーションを行った。最高指導者のアリ・ハメネイ師もその過程で死亡したとされる。

 一方、イランではその後、ハメネイ師の次男、モジタバ・ハメネイ師が後継指導者となった。反米体制が継続する可能性があり、米国の目論見通りに政権が転換するかどうかは予断を許さなくなりつつある。

 もし、イランの新政権が中国との関係を維持すれば、米国の戦略は失敗する可能性が否定できない。

 実際、モジタバ・ハメネイ師は現地時間の12日、米国の攻撃に対して徹底抗戦する旨の声明を発出した。原油輸送に欠かせない交通要路のホルムズ海峡の封鎖を続ける意向も明らかにした。

 また、イランにおいては、戦いの様相に複雑化の兆しがある。トランプ米政権が何としても回避したい消耗戦の色彩ものぞかせつつある。

 戦闘が長期化すれば、戦費のコスト負担の増大は免れない。トランプ大統領からはイランからの撤退を示唆する発言も出ているという。

「国自体が要塞」のイラン

 例えば、イランによるドローン作戦である。

 近年の戦争では、製造コストが比較的安いドローンが、高価な兵器を破壊するケースは当たり前となった。数百万円のドローンが、数十億円の戦車を爆破するといったことが起こり得る。

 とりわけイランは、ドローン製造大国である。通常の自爆ドローンに加え、大量の「ダミードローン」を同時に飛ばすことで、迎撃側のミサイルを浪費させる戦術を採用しているようだ。

 トマホークなどの巡航ミサイルや地対空迎撃ミサイルの金額は数億円が相場という。ダミードローンの迎撃は、経済的にも戦略的にも大損害だ。米国にとって、近年の特徴であるドローン戦への対応は、手探り感が否めない。

 こうした消耗戦が進行すれば、米国にとって、ホルムズ海峡の制御やエネルギー掌握といった戦略目標への影響は必至だ。短期決戦による決着という目的を達成できるかどうかは、まさに正念場に差し掛かってきた。

 イランは山岳と砂漠に囲まれており「国自体が要塞」とも呼ばれ、防御する側に有利な地形を持つ。ゲリラ戦ともなれば、米軍にとって容易ではない展開となる。とはいえ、こうした難攻不落の荒野での軍事作戦の遂行となる一方、新しい兵器や戦術を実戦で検証する機会になり得る。

 実際、1月のベネズエラでは、通信網の遮断や制空権の確保を組み合わせた多領域における統合作戦が、初めて行われたとされる。

米中首脳会談で主導権を握る

 しかし、米国にとって、一連の背後により大きく横たわるのは、何といっても今春に実現を模索するトランプ大統領の訪中である。トランプ氏にとって、来るべき習近平国家主席との米中首脳会談において、主導権を完全に持った上で臨むことは極めて重要な課題となる。

 イランベネズエラという一連のオペレーションにより、トランプ氏は、中国のエネルギーの「チョークポイント」(戦略的要衡)の掌握を狙った。米国が石油生産の主要エリアに対する影響力を増せば、交渉における強力なカードとなる。例えば、中国が世界生産の多くを占めるレアアースなどに対抗できる、戦略的ツールを確保したいというわけだ。

 イランベネズエラからの石油供給が大きく制限されれば、中国の軍事活動は重い制約を受けかねない。軍艦や航空機は、膨大な燃料を消費する。エネルギー供給が不安定になれば、長期間の行動を継続することは難しくなる。

 いずれにせよ、年初からの一連の動きが示すのは、世界の安全保障は地域、分野ごとに切り分けられているわけではないという事実だ。全ては影響し合う一つの構図の中にある。

 極東では台湾情勢が焦点となっている。つまり、エネルギーを含む地政学的な洞察は、日本にとっても、不可欠であるのは言を俟たない。

 イラン情勢について「出口の見えない戦い」という紋切り型の視座を超越した先に、見据えるべきものはあると言ってよいのだ。

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市ノ瀬雅人(いちのせ・まさと)
大手報道機関にて20年近く国政、外交・国際関係などの取材、執筆、編集を務めた。首相官邸、自民党、旧民主党、国会のほか外務省などの官庁を担当した。

デイリー新潮編集部