記事のポイント
AIで生成した偽の損傷写真を使った返品詐欺が急増し、ブランド各社が対応を迫られている
EC返品詐欺の年間損失は1000億ドル超。AIにより手口はより手軽・巧妙になっている
各社は追加確認プロセスの導入などで対策を強化するが、誠実な顧客への影響も課題となっている


2、3週間前、ホームグッズブランドであるボル・アンド・ブランチ(Boll&Branch)のCEO、スコット・タネン氏は、最近のカスタマーサービスへの問い合わせ票のなかに奇妙な点があることに気づいた。

ある購入者が、シーツのセットが破れた状態で届いたと主張し、証拠として写真を提出してきたのである。

しかし、タネン氏はほぼ即座に、何かがおかしいと察知した。

裂け目は、実際の綿がほつれる様子とは似ておらず、画像の1つには人工知能のウォーターマーク(透かし)さえ入っていた。「損傷」はAIによって生成されたものと思われた。

「あまりにも露骨なAI生成画像だったので、信じられなかった」とタネン氏は話す。

過去の問い合わせを見直したところ、AI生成と思われる画像が複数見つかった。タネン氏はその経験についてLinkedInに投稿し、2000件の「いいね!」を集めた。

AIツールの普及で返品詐欺はより簡単に



返品詐欺は今にはじまった話ではない。オンライン販売業者はこれまでも、商品が損傷した状態で届いた、あるいは配送中に紛失したと虚偽の申告をしたり、明らかに着用済みの商品を返品したりする購入者に悩まされてきた。

だが今、ChatGPT、Gemini、Claudeなど手軽に使えるAIツールの登場により、悪意ある利用者がブランドを欺くことがこれまで以上に容易になっている。

小売業者は、正規の顧客を遠ざけることなく、迅速に返金を行い、事前にどれほどの確認を求めるべきか、再考を余儀なくされている。

ボル・アンド・ブランチは、489ドル(約7万3500円)の掛け布団セットや高級リネン製品を販売している。

今回の詐欺未遂は、カスタマーサービスチームが詐欺師にFaceTimeで損傷状況の確認を求めたことで、阻止できた。顧客は結局、応答してこなかった。

EC返品コストは2026年に3790億ドルへ拡大



タネン氏は今回の試みを見破ったが、AIツールはまだ比較的新しく、今後もさらに精度が上がっていくとみられる。小売業者にとっては多額の損失につながりかねない問題だ。

オンライン小売業者は返品の抑制に取り組んできたが、eマーケター(eMarketer)の推計によればECの返品コストは2026年に3790億ドル(約57兆円)に達すると予測されており、前年から5.7%増となる見込みだ。

虚偽の返品は、オンラインショッピングの拡大とともに全体として増加傾向にある。

全米小売業協会(NRF)とハッピー・リターンズ(Happy Returns)によれば、小売業における全返品の約14%が詐欺とみなされ、年間損失額は1000億ドル(約15兆円)以上に達する。

オンライン返品の拡大が詐欺の温床に



現在は多くの返品手続きがオンラインでできるが、数年前は購入者が店舗に商品を持参してはじめて返金を受けられた。インターネットの普及により便利になったが、悪意ある利用者は人的審査が減ったことを逆手に取っている。

調査会社フォレスター(Forrester)のバイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト、スチャリタ・コダリ氏はこう指摘する。

「かつては、物事が素早く進み、クレームをすぐに処理して高い顧客満足度を同時に実現できると考えていた時期があった。だが今、詐欺師がそれを台無しにしてしまっている」。

急増するAI詐欺の手口



タネン氏の経験は、決して孤立した事例ではない。

Modern Retailの取材に応じた複数のインターネット詐欺専門家が、過去1年でAIツールを使った虚偽返品申告の急増を目撃していると述べた。

数千のブランドと取引する不正・悪用防止プラットフォームのヨフィ(Yofi)のCEO兼共同創業者、ジョーダン・シャミール氏は、「一夜にして爆発的に増えた」と語る。

「散発的に見られた事例が、今では加盟各社で毎日のように発生するようになった。非常に急速に拡大している」とシャミール氏は話す。

シャミール氏はいくつかのケースのスクリーンショットをModern Retailに共有した。

あるケースでは、有名な美容ブランドのリキッドメイクアップコスメが輸送中にこぼれたと主張した。別のケースでは、別の商品が届いたと訴えた。

最初の例では、液漏れしたはずなのに写真に写っている箱が乾いているように見えたため、シャミル氏のチームは画像がAI生成であると判断した。2つ目のケースでは、複数の箱の角に同じ傷が写っており、AIが商品画像を複製したと思われた。

配送保険会社、オーダープロテクション(Order Protection)のCEO、タナー・チャタリー氏は、同社のようなビジネスはとくに被害を受けやすい。

同社は商品損傷や紛失パッケージに対する迅速な解決を約束することで、販売業者に代わってリスクを引き受けているからだ。

最近のケースでは、ある転売プラットフォームの顧客が、600ドル(約9万円)以上する高価なナイキのトラビス・スコットモデルのスニーカーが激しく汚れた状態で届いたと申告。チャタリー氏のチームが損傷を確認するための動画を要求したところ、顧客は「箱にガラスが入っていたので捨てた」と答えた。

これまでも、顧客や詐欺師はニセの画像を使って返金を得ようとしてきた。レビューサイトから商品の損傷写真を無断で使ったり、Photoshopで画像を加工したりなどの手口だ。AIを使えば素早く簡単にできてしまう。

「AIによって、こうした詐欺のユニークで多様なバリエーションを生み出すことが誰でもできるようになった。AIが詐欺を加速させている。『破損した写真を確認ください』が、かつてないほど簡単になったからだ」とシャミール氏は語る。

AI生成の偽写真で返品を装うケースも増加



鮮やかな色の穴あきEVA樹脂製トートバッグを製造するボッグバッグ(Bogg Bag)も、カスタマーサービスの問い合わせのなかでAI生成の偽写真に遭遇しはじめている。

ボッグの商品は耐久性が売りで、ボッグバッグは倒れにくく損傷に強い設計になっているため、返品率は低く、本当に不良品が届くことはまれだと、ボッグのカスタマーエクスペリエンス担当マネジャー、マギー・クワスニカ氏は説明する。

最近、ある購入者からバッグのストラップがねじれている苦情が寄せられた。これは製品不良ではなく、ストラップが時々ねじれることがあるため、カスタマーサービスチームは修正方法を案内した。

すると顧客はさらに欠陥を主張し、素材に破れがあるとして「証拠」の写真を送ってきた。

しかし画像はAI生成と思われるものだった、とクワスニカ氏は言う。最初に送られてきた写真とまったく同じ画像に、損傷が付け加えられていた。素材の「破れ」がEVAの実際の破れ方とも一致しなかった。

こうしたケースはまだ月に数件と比較的まれだが、ボッグは今後の増加に備えて監視を続けている。

「ありがたいことに、それほど頻繁ではない。ただ、増加していないか目を光らせていく必要がある」とクワスニカ氏は話す。

配送伝票や警察レポートまで、AIで作られる偽証拠



破損品だけではない。詐欺師たちはAIを使って偽の配送伝票を作成し、UPSやUSPSに返品を持ち込んだように見せかけて返金を得ようとしていると、返品管理スタートアップであるトゥー・ボックス(Two Boxes)の共同創設者兼CEOのカイル・バーティン氏は語る。

ヨフィのシャミル氏は、輸送中に荷物が紛失したと主張し、小売業者から証明書類の提出を求められた後に、AIを使って警察の報告書(ポリスレポート)を作るケースもあるとも述べている。

画像の加工にとどまらず、悪意ある利用者はほかのやり方でもAIを駆使して小売業者を欺こうとしている、と不正防止ソフトウエアスタートアップのシグニファイド(Signifyd)のチーフカスタマーオフィサー、J・ベネット氏は指摘する。

詐欺師は大規模言語モデル(LLM)を使い、高度に最適化された怒りのメールやチャットメッセージを大量生成し、カスタマーサービスの担当者を欺いている。彼らはカスタマーサービスに何を言えば、返金や無償提供に応じるかわかっているのだ。

AI詐欺は増加中だが、依然主流は従来型の返品詐欺



AI生成の偽造画像は増加しているものの、専門家によれば、現時点ではまだもっとも一般的な詐欺手法ではない。

別の確立された手口としては、「偽のID追跡(fake ID tracking)」と呼ばれる方法がある。

これは、詐欺師が返品ラベルを改ざんして空箱を小売業者の倉庫付近に配送されたように見せかけ、追跡情報に荷物の到着が記録されたタイミングでカスタマーサービスに返金を求めるものだ。組織的なグループが詐欺を請け負って実行するケースもある。

AIを使った画像操作はほかの手口と比べてまだ洗練度が低いが、技術が進歩すれば返品不正はさらに一般化していくと、情報筋はModern Retailに語った。

「1年前、我々は皆、AIによる画像生成を笑いものにしていたが、今ではかなりのレベルになっている。あと半年もすれば、これはもっと大きな問題になるだろう」とベネット氏は語った。

「信頼しつつ、検証する」各社の対応策



ボル・アンド・ブランチのタネン氏は、高価格帯の商品を持ち、返品ポリシーが寛大なブランドほど、詐欺に狙われやすいと指摘する。

多くのオンライン小売業者と同様に、売上の約80%をオンラインで上げているボル・アンド・ブランチは、商品の不具合の写真が提出されれば、新品をすぐに発送するなど、迅速で手間のかからない返品・交換を優先している。

「小売業において、速やかに解決策を提示することがもっとも重要だ。すべての人を詐欺師だと疑うことはできない。顧客は購入した対価を得ようとしているだけの前提から出発しなければならない」とタネン氏は言う。

一方で、特にインフレや関税が小売業者の利益を圧迫するなか、人件費削減のためにAIによるカスタマーサービスへの切り替えが進んでいる。人的チェックが減るほど、AI加工画像が見逃されて貴重な収益が失われるリスクは高まる。

最近、多くの小売業者や転売プラットフォームが、偽造品対策に機械学習やAIツールを活用しているが、詐欺師側はそれらのシステムを打ち破るためにAIを使いはじめている。

フォレスターのコダリ氏は、問題に先手を打つためにブランドが取れる対策をいくつか提案する。

虚偽の返品申告を繰り返す悪質な利用者のデータベースを構築し、他社と情報を共有することを勧める。競合他社同士で協力するのは一般的ではないが、リソースの共有は業界全体の利益になると同氏は言う。

「ごく少数の詐欺師が、圧倒的多数のケースを引き起こしている」とコダリ氏は語った。

ディープフェイク写真に対する法整備も状況を変えうるとコダリ氏は言う。「郵便詐欺から我々を守るのと同じように、詐欺目的で画像を作成した者に刑事罰を科す法律を設けるべきだ」とコダリ氏は述べた。

タネン氏は、AIを悪用した詐欺への対応として、ボル・アンド・ブランチの返品プロセスを見直していると話す。

同社は、顧客の購入・返品履歴、たとえば初回購入者かどうか、購入証明を提出できるか、返品を繰り返しているかどうかなどを詳細に管理する計画だ。返金や交換の前に倉庫へ商品の発送を求める可能性もあるとタネン氏は言う。

AI詐欺対策が誠実な顧客の負担になる可能性



ボッグも疑わしい申告への対応プロセスを見直した。画像が加工されているように見えたり、保証ガイドラインの範囲外の要求に対応するための標準化された対応文書を整備した。

バッグは大きく送料も高いため、本当に不良品だった場合の返品を必須としないこともあるが、疑わしい欠陥の場合は、返金や交換の前に商品を返送してもらうとクワスニカ氏は述べた。

ボグのクワスニカ氏は、AIを悪用した詐欺が誠実な顧客にとって余計な手間を生み出しかねないことを懸念する。

「AI問題の最悪な点は、一部の人がポリシーを悪用することで、みんなにとっての不便につながるのだ。詐欺師から身を守りたい企業が余分な確認手続きを設けると、誠実な返品をしようとした顧客が、あおりを受けて余計なハードルを越えなければならなくなってしまう」とクワスニカ氏は語った。

ボル・アンド・ブランチは最近の案件を広く見直し、AI生成と思われる画像をほかにもいくつか確認した。ほとんどのケースでは、カスタマーサービスが追加確認を求めたところで申告が立ち消えになった。

それでもタネン氏は、「気づかないまま通ってしまったものもあるだろう」と認める。

事例数は「ごくわずか」だが、それは「問題がまだ初期段階にあることを示しているにすぎない」と同氏は付け加えた。

[原文:From Boll & Branch to Bogg, brands are battling a surge of AI-driven return fraud]

Allison Smith and Julia Waldow(翻訳、編集:藏西隆介)