年金月16万円・金融資産1,900万円の66歳祖母。〈孫の学費援助〉を続けた末、娘夫婦から告げられた「衝撃の一言」
子や孫のために経済的援助を行う高齢世代は少なくありません。住宅取得資金や教育費の援助など、家族間の資金移転は日本の家計構造の中で一定の役割を担ってきました。しかし老後期に入った親世代にとって、援助は生活余力の中から行われるものです。支えるつもりの行為が長期化すれば、家計や老後設計に影響を及ぼすこともあります。家族間の善意の支援は、ときに当事者の認識のずれを生み、関係性に思いがけない影を落とすこともあるのです。
「少しでも助けになれば」孫の学費援助を開始
「自分たちのときは苦労したから、孫には同じ思いをさせたくなかったんです」
そう語るのは、関東地方に住む真由子さん(仮名・66歳)です。夫を数年前に亡くし、現在は一人暮らし。年金収入は月約16万円、金融資産は約1,900万円あります。持ち家はなく賃貸住宅ですが、生活費は年金の範囲にほぼ収まり、取り崩しは緩やかな状態でした。
転機は、長女の子どもが高校に進学したときでした。娘夫婦は共働きでしたが、教育費の負担が重くなっている様子が見て取れました。
「塾代もかかるし、大学も考えると大変そうで…」
真由子さんは自ら申し出ました。
「少しだけでも援助しようか」
最初は年間20万円ほどでした。入学費用の一部、教材費、模試代などを負担しました。娘夫婦は「助かる」と感謝し、真由子さんも「役に立てている」という実感を持ちました。
援助はその後も続きました。学年が上がるにつれ塾代は増え、大学受験期には年間40万円近くになりました。
「無理しているつもりはなかったんです。まだ貯金もあるし、大丈夫だと」
孫は第一志望の私立大学に進学しました。真由子さんは入学金や前期授業料の一部として50万円を出しました。
「ここまで来たら最後まで支えたいと思ってしまって」
しかし大学進学後も援助は続きました。通学費や教材費、生活費補助などの名目で、年間30万円前後の支出が発生しました。
「大学って思ったよりお金がかかるんですね」
気づけば援助開始から6年が経っていました。総額は約200万円を超えていました。
金融資産は1,900万円から1,600万円台に減っていました。大きな減少ではありませんが、真由子さんは初めて不安を覚えました。
「老後資金として考えると、減り方が少し気になり始めて…」
総務省『家計調査(2024年)』によれば、高齢単身無職世帯の消費支出は月平均約15万円で、年金だけで生活が完結しない世帯も一定数存在します。単身高齢者にとって金融資産は生活補完の役割を担う重要な基盤でもあります。
娘夫婦からの「衝撃の一言」
ある日、真由子さんは娘にこう伝えました。
「これからは少し援助を減らそうと思って」
すると娘は沈黙しました。その後、娘の夫が口を開きました。
「正直に言いますね。援助がある前提で教育計画を立てていました」
真由子さんは言葉を失いました。
「お義母さんが出してくれると思っていた部分があって…正直、減ると困ります」
さらに続いた言葉は、真由子さんにとって衝撃でした。
「祖母が学費を支える家庭って、周りでも普通にありますよ」
その瞬間、真由子さんは自分の中で何かが崩れるのを感じたといいます。
家族間の教育費援助は珍しいものではありません。文部科学省や家計関連調査でも、祖父母からの教育資金援助が一定割合で存在することが示されています。2013年には「教育資金の一括贈与非課税制度」も創設され、高齢世代から子・孫世代への教育資金移転が制度的にも想定されています。
しかし継続的な援助の場合、支援と家計計画の境界が曖昧になりやすい側面があります。受け取る側が生活や教育設計に組み込めば、援助は「任意の支援」から「前提資金」へと性質を変えていきます。
真由子さんは振り返ります。
「私は“できる範囲で”のつもりでした。でも向こうは“続くもの”だと思っていた」
真由子さんは援助を段階的に減らすことにしました。娘夫婦との関係はぎくしゃくしました。
「冷たいと思われたかもしれません」
しかし同時に、こうも感じていました。
「老後資金は自分の生活のためのものでもあるので…」
高齢期の資産は医療費や介護費、住居費変動などの不確実性に備える意味を持ちます。老後後半ほど資産の安全余力は重要になります。
「孫は大事。でも、自分の老後も現実なんだと実感しました」
親世代にとって援助は「余力からの支援」であっても、子世代にとっては「家計の一部」として受け止められることがあります。継続すればするほど、その認識差は広がりやすくなります。
老後資金と家族支援。その境界は、必ずしも双方で共有されているとは限りません。援助をめぐる認識のずれは、気づかないまま関係の前提を変えていくこともあるのです。
