170種類の「雲」がある、岐阜・飛騨の古川町 町並みとグルメに癒される旅

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どこに行っても山また山。北アルプスにぐるり囲まれた、人口約2万の小さな飛騨市。縄文人が暮らし飛騨の匠を生んだ豊かな森は今、宇宙物理学や石棒の聖地となった。けれど人の暮らしは今も変わらない。飾らず、気負わず、自然体。飛騨は遠い。それでも行くのだ。

【白石あづさのワンダートリップ】日本全国の不思議な町を訪れる不定期連載の第一回は、岐阜県飛騨市へ。神岡のガッタンゴーや科学館、縄文人の愛した宮川、「飛騨の匠」の技術が光る古川を巡ります。

町人文化が息づく白壁の美しい町「古川町」

調和がとれた古川の美しい町並みの秘密は、“そうば”を守る人の心にあり?

さあ旅の最後の町、飛騨古川へ。白壁土蔵と柳並木の間を美しい瀬戸川が流れる。お隣の飛騨高山にも似た町並みだが、少し雰囲気が違う。バケツを持って歩くお母さんや、ひと息つくお惣菜屋のおじさん……。土産物屋が並ぶテーマパークっぽさはなく、そこかしこに生活感が漂っている。

造場と渡辺酒造店の2軒の蔵元が

そんな町でぜひ味わってほしい料理がある。河合町などで採れる薬草を使った『蕪水亭』の薬草ミニ会席だ。最近、新板長に就任した北平一樹さんが食後に顔を出してくれた。

『蕪水亭(ぶすいてい)』ランチ3300円

『蕪水亭(ぶすいてい)』

「脱サラして飛騨に来たのは遠距離恋愛だった妻、瑠実を愛していたからです(照)。でも料理の基礎も知らないのに和食どころか、義父から引き継がねばならないのは雑草を使った薬草料理!薬草ってゲームの世界のお助けアイテムでしか聞かない単語だったので大いに戸惑いました」と笑う。

派手さはないが山の恵みが存分に感じられる絶品小鉢の数々は、疲れた私のお助けアイテムとなって、すっかりライフポイントが回復した。

「飛騨の匠」の古川には170種類の「雲」がある?

再び、元気よく街歩きを開始するや、家の軒下に不思議な彫刻を発見。よく見ればその隣も向かいの家にも。

これは屋根を支える「肘木(ひじき)」に雲を模した古川の大工さんの“サイン”なのだとか。それぞれ微妙に模様が異なり、その数は約170種類ほど。

天正14年頃、金森家により城下町として整備された。「飛騨の匠文化館」には「雲形肘木」が一堂に

「ワシが建てたんじゃ〜」と声が聞こえてきそうで微笑ましい。同時代の建築なのかと思っていたら実はバラバラ。古川の人は周囲と調和しない“そうば(相場)崩し”を嫌うから、新築でも町の雰囲気に合わせて家を建てる。そのため年が経つほど調和のとれた町並みになるそうだ。

その家々には「飛騨の匠」の技術が今も受け継がれている。市内の9割を山林が占める飛騨市では昔から作物がとれず、朝廷へ租税が払えなかった。代わりに送り込まれたのが大工さんである。奈良時代、都の人は彼らを「飛騨の匠」と尊敬を込めて呼んだ。万葉集にもその名が登場し、江戸時代には大胆なSF小説『飛騨匠物語』まで出版された。主人公の匠が「からくり」で対決する奇想天外な話で、葛飾北斎の挿絵も冴えている。

話はそれたが普段は調和を重んじ静かに暮らしている古川の人々は、リオの人のように年に一度、春の古川祭で大暴れするのを楽しみに生きている。どんな祭なのかと聞いたら、「起し太鼓」と呼ばれるクライマックスの行事では、千人ものさらし姿の上半身裸の男たちが、酒を飲み続け深夜までもみ合うという。なんともカオスな奇祭である。

ああ、山に陽が落ちて、富山行きの最終便の時間だ。駅へと走りながら飛騨の魅力は何だったのか振り返る。三町三様、町ごとに性格が違うのもおもしろいが、歩けば歩くほど歴史と謎が沸き、地下から宇宙、縄文から果ては未来までネコ型ロボットとタイムマシンに乗って旅した気分であった。時空を漂う不思議な町、それが飛騨の魅力なのだ、と。

『蕪水亭(ぶすいてい)』

北平瑠実さんの父、北平嗣二さんが長年、研究していた薬草ならぬ“役草”料理を受け継いだ婿の一樹さん。今では自らイタリアンの調理法なども取り入れるなど工夫を凝らしている。この日のランチ「飛騨の薬草ミニ会席」は、ドクダミや桑、スギナの薬草出汁を使った飛騨牛の豆乳鍋や、えごまと桑の葉のエスプーマを添えたトマトの薬草出汁煮、メナモミのかき揚げなど全9品。全く薬草を感じないさっぱりとした味わい。これで3300円はお得(要予約)。1日3組の宿泊も。

『蕪水亭(ぶすいてい)』

[店名]『蕪水亭(ぶすいてい)』

[住所]岐阜県飛騨市古川町向町3-8-1

[電話]0577-73-2531

[営業時間]11時半〜14時、17時半〜21時

[休日]無休

[交通]飛騨古川駅から徒歩10分

『お箸処いなほ』

飛騨名物の漬物ステーキ「つけすて」と、味のついた油揚げ「あげづけ」は一度食べてほしい。すっかり古川になじんだ岡崎出身のご主人だが、「どて煮だけは八丁味噌」だとか。

『お箸処いなほ』飛騨名物の漬物ステーキ「つけすて」

『お箸処いなほ』飛騨名物の漬物ステーキ「つけすて」

[店名]『お箸処いなほ』

[住所]岐阜県飛騨市古川町金森町11-22

[電話]0577-73-0174

[休日]水

[営業時間]11時半〜14時、17時半〜22時

[交通]飛騨古川駅から徒歩2分

写真・文/白石あづさ…大学卒業後、地域紙の記者を経て3年間の世界一周後フリーに。著書に『逃げ続けていたら世界一周していました』(岩波書店)、『中央アジア紀行』(辰巳出版)、『佐々井秀嶺、インドに笑う』(文藝春秋)ほか

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【画像】その辺の“雑草”がごちそうに変わる! 飛騨・古川町の美しい町並みとおすすめグルメ(12枚)