■3日間で500万円を集めたストリップ劇場

戦後間もなく産声を上げ、かつては日本各地の温泉地や歓楽街に点在していたストリップ劇場。最盛期には全国で300軒以上あったが、風営法の改正や娯楽の多様になどによって激減し、現在では20軒ほどを残すのみとなっている。

そのうちの1軒が、松山市の道後温泉にある「ニュー道後ミュージック」だ。廃業の危機に立たされ、2025年11月にクラウドファンディング(CF)を利用して補修費の寄付を呼び掛けたところ、わずか3日間で目標の約500万円を突破した。支援の輪はその後も広がり続けている。風前の灯火にある「昭和のエロス」に、なぜ多く人々が魅了され、熱いエールを送るのだろうか。

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松山市の道後温泉にある「ニュー道後ミュージック」 - 筆者撮影

ニュー道後ミュージックは、国の重要文化財「道後温泉本館」に近い飲食店が立ち並ぶ一角にある。店名は変わったものの、半世紀にわたって同じ場所で営業を続けてきた。今では、中四国に残る最後のストリップ劇場となった。

重い扉を開くと、円形のステージや花道を囲む40ほどの客席が目に入る。2階は全国の劇場を行脚する踊り子たちが、出演期間中に住み込む場所だ。板張りの外壁が印象的だが、裏に回ると外壁がはげていたり、トタンで修理をしたりした箇所も目につく。この劇場内で雨漏りが深刻化し始めたのは、2025年夏のことだった。

■「女性に楽しんでもらえる場所に」

「これまでも雨漏りがある度に、その場所を修理して営業を続けてきました。しかし、屋根全体が老朽化して腐食が進み、手に負えない状態になってしまいました。このままでは漏電して照明などの電気器具も壊れてしまい、営業ができなくなる。まさに窮地に追い込まれたのです」。そう話すのは、ニュー道後ミュージックの運営会社社長、木村晃一朗さん(61)だ。

木村さんは20年ほど前に、知人からニュー道後ミュージックの経営を譲り受けた。同業者が次々と廃業していく中、ストリップ劇場を「いやらしいイメージから一新させ、女性に楽しんでもらえる場所にしたい」と試行錯誤を繰り返してきた。アーティストが踊り子にペイントする「裸体アート」やバンドとの共演、オリジナルの怪談話を演じる「怪談ストリップ」など、趣向を凝らした異色のステージも展開し、女性や若者といった新たな客層を獲得してきた。

もちろん、舞台上で踊り子が音楽に合わせて服を脱いでいく、定番のショーも健在だ。10日周期で3人の踊り子が出演し、午後5時からの4公演で、オリジナルのパフォーマンスを披露している。全国各地から駆け付ける、踊り子の「追っかけファン」の姿も珍しくない。

だが、経営は赤字続きで、雨漏りを止めようにも、補修費用を捻出するのは難しい。そこで頼ったのがCFだった。「目標金額に達しなければ廃業しかない。ストリップを見たいお客さん、そして踊り子のためにも、劇場をなくしたくない」。木村さんは危機感をストレートに訴えた。

■コロナ給付金は支給されなかった

ニュー道後ミュージックがCFで寄付を募ったのは、実は今回が3度目になる。最初は2017年で、劇場内に女性用トイレを設置するための資金を集めた。さらに2020年には、コロナ禍で売り上げが激減したものの、業種を理由に国の持続化給付金が支給されなかったことから、踊り子の給与や家賃を支払うために支援を求めた。だが、今回は存続自体が危ぶまれるという、最大の危機が目の前に立ちはだかった。木村さんは「背水の陣でCFに望みを託した」と話す。

現在残っているストリップ劇場は、いずれも新規出店や移転が事実上不可能になっている。1985年の風営法改正で、営業禁止区域などの規制が強化されたためだ。建て替えなどの大規模な工事を行うには行政の届け出が必要だが、認可を受けるのは困難なのが実情だ。そのため老朽化が進む施設は、補修を繰り返すことだけが生き残る唯一の道となっている。

支援の訴えには、道後の舞台に立つ踊り子たちも協力した。1998年にデビューし、現在も第一線で活躍する踊り子の牧瀬茜さんは「道後には数え切れないほどたくさんの思い出があります。大好きで大切な劇場を守るために、恩返しをしたい」と、SNSなどを通じて寄付を呼びかけた。そうした動きもあり、CFには木村さんの予想をはるかに超える反応が寄せられた。

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一見するとストリップ劇場には見えない、ニュー道後ミュージック。 - 筆者撮影

■「中年男性が見るもの」はもう古い

11月13日にCFが開始されると、支援の呼びかけがSNSを通じて拡散して次々と寄付が集まり、15日には早くも目標額を達成した。30日現在での寄付額は、400人以上から約670万円にのぼっている。

この動きからわかるのは、ストリップは「中年男性が見るもの」というのは、一昔前の古びた考えということだ。今回、寄付をした人の約4割が女性で、まだストリップを見たことがない人からの激励も少なくない。今や、女性や新たなファンがストリップを下支えしていると言っても過言ではない。

全国に数多くのストリップ劇場があり、激しく競争していた時代には、性的行為そのものを見せるといった演出が横行していた。経済的な理由から、不本意に舞台へ出されていた女性がいたことも否定できない事実だ。しかし、法的な規制が厳しくなる中でそうしたことは通用しなくなり、ストリップ劇場は過激さから洗練された身体表現や音楽、照明へと、見せ方のポイントを変えていく。そうした中で徐々に増えていったのが女性ファンだった。

■なぜ女性がストリップにハマるのか

現在ではストリップ劇場で客席に女性がいるのは日常的な光景で、多いときには半分を占めることすらある。客としてステージを見たのをきっかけに、踊り子になった女性もいる。筆者がニュー道後ミュージックを訪れたときも、3割ほどが女性客で、中には祈るような表情で踊り子を見つめていた人もいた。

女性がストリップに感じる魅力とは何なのだろうか。

性に関する取材や執筆を手がけるライターで編集者の三浦ゆえさんは、ストリップの鑑賞歴が10年以上になる。最初は「よろしくない印象」を持っていたが、実際に舞台を見て「女性が堂々と自らの裸を見せる姿に気持ちが楽になり、気が付けば号泣していた」と、ストリップの初体験を振り返る。

三浦さんは、落ち込んだときほど劇場に足が向く。「裸という“生”そのものに触れることで、枯渇していたものが満たされる感覚がある」というのが、その理由だ。「一人一人の踊り子が自分らしい表現や、新たな技巧に挑戦している姿はまぶしいし、刺激を受けるのです」と話す。

だが、ストリップに対して「いかがわしもの」というイメージは根強い。ショーの内容が「公然わいせつ」に当たるとして、劇場側や踊り子が警察に摘発されるなど、社会からの逆風も吹く。

そうした空気に、踊り子の牧瀬茜さんは「ストリップ劇場という空間には、無理やり出演させられている人も、無理やり見させられている人もいません」と反発する。

まさご座にて/牧瀬茜さん提供
牧瀬茜さん - まさご座にて/牧瀬茜さん提供

■警察の摘発は「弱い者いじめ」

1998年にデビューした牧瀬さんは、現在も第一線での活躍を続けている。「舞台の上で行われている踊り子たちの生や性の表現が、公権力の言う『いかがわしさ』の定義に丸め込まれてしまうことに抵抗を感じます」。その言葉には、自らが選び、続けている仕事を否定されることへの強い拒否感がにじむ。

ストリップを「公然わいせつ」とする見方に疑問を呈する意見も少なくない。東京・武蔵野市議の藪原太郎さん(53)も、そうした偏見に異議を唱える一人だ。

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武蔵野市議の藪原太郎さん - 筆者撮影

表現の自由といった問題に関心のある藪原さんは、自治体議員の有志を連れ立って、神奈川県内のストリップ劇場に出向いた。同行した議員の1人は女性だったが「初めて見て感激し、すっかりファンになって帰って行った」という。

そこで実感したのは「踊り子が自らの意志で舞台に立ち、観客も節度をもってその表現を受け止める。単なる『性の消費』ではなく、ストリップが文化として確立している」ということだった。それだけに、警察の摘発には「被害者はおらず、必要性は極めて疑問です。弱い者いじめとしか思えません」と批判的だ。

■劇場が残らなければならない理由

ストリップ劇場が消えれば、その街はどう変わってしまうのか。

藪原さんは「社会全体に大きな影響はないかもしれません。でも、踊り子が技を磨いて表現し、それを観客が見る場がなくなってしまう。それはとても寂しいことではないでしょうか」と話す。

同じ質問を、踊り子の牧瀬さんにも投げかけると、静かにこう答えた。「街は、まるで夢だったかのように、何もなかったかのようになってしまうと思います」

ニュー道後ミュージックのCFは2026年1月9日まで行い、集まった寄付金で屋根のほか、水道管や外壁なども補修する予定という。木村さんは「劇場がなくなってほしくないという多くの人の気持ちに胸が熱くなりました。ストリップの灯を消さないよう、踏ん張っていきたい」と、感無量の様子だった。

古典的なエロスの世界を取り巻く環境は厳しい。だが、それを支えるファンの底力は強く、そして厚みがある。目障りなものを排除しようとする「正義」に抗いながら、ストリップ劇場は存在し続けているのだ。

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佐藤 大介(さとう・だいすけ)
共同通信社 編集委員兼論説委員
1972年、北海道生まれ。明治学院大学法学部卒業後、毎日新聞社を経て2002年に共同通信社に入社。韓国・延世大学に1年間の社命留学後、09年3月から11年末までソウル特派員。帰国後、特別報道室や経済部(経済産業省担当)などを経て、16年9月から20年5月までニューデリー特派員。21年5月より現職。著書に『13億人のトイレ 下から見た経済大国インド』(角川新書)、『オーディション社会 韓国』(新潮新書)、『ルポ死刑』『韓国・国家情報院』(ともに幻冬舎新書)などがある。
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(共同通信社 編集委員兼論説委員 佐藤 大介)