Netflixシリーズ『ポケモンコンシェルジュ』©︎2025 Pokemon. ©︎1995-2025 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.

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 Netflix配信のアニメシリーズ『ポケモンコンシェルジュ』は、ポケモンのための離島の施設「ポケモンリゾート」を舞台に、都会から来た主人公ハル(のん)が新人「ポケモンのコンシェルジュ(お世話係)」として日々を過ごす物語が描かれる作品だ。そんな本シリーズ『ポケモンコンシェルジュ』に、新エピソード4本が追加された。

参考:『ポケモンコンシェルジュ』は“時代”を象徴する一作 “バトル”ではなく“癒し”を描く試み

 ここでは、本シリーズ第5~8話の内容を追っていきながら、ハルの立ち位置がどのように変わったのか、そして、彼女の変化が示すものが何なのかを考えてみたい。

 本シリーズが特徴的なのは、人形を少しずつ動かしながら一コマごとに撮影する「ストップモーション・アニメーション」という手法が取られているということ。イギリスの『ひつじのショーン』シリーズや、日本のアニメシリーズ『PUI PUI モルカー』などのストップモーション・アニメーションが、日本の多くの視聴者に親しまれている。アニメ業界で主流の3DCGやデジタル作画に比べ、あたたかみのある作風となるのが特徴だ。

 制作スタジオは、NHKのマスコット「どーもくん」のアニメや、「ゼスプリ キウイ」CMNetflixシリーズ『リラックマとカオルさん』などで知られるドワーフスタジオ。株式会社ポケモンとの綿密な擦り合わせがおこなわれ、いろいろなタイプのポケモンに合わせて人形の材料を変えるという、本シリーズならではのこだわりが、今回反映された。

 ポケモンリゾートでは、熾烈なバトルも劇的な冒険もない。ポケモンたちはリラックスしてめいめいに休日を楽しむのだ。ハルは島を訪れるポケモンや人々の困りごとに寄り添い、ときに失敗しながらも解決し、静かで温かい日常を繰り返していく。そして、現代の働く女性の日常の癒しを題材としていた『リラックマとカオルさん』と同様の表現で、同様の層を対象に“癒し”を提供するのだ。

 既存のエピソード(第1~4話)は、新米コンシェルジュとしてのハルが描かれていた。都会での仕事に疲弊し、島に移り住んだ彼女は、おっちょこちょいながらもポケモンと真剣に向き合う姿勢によって、先輩のアリサ(ファイルーズあい)やタイラ(奥野瑛太)、上司のワタナベ(竹村叔子)から認められ、コダックとも相棒といえる関係を築いていく。その点では、仕事を通して自分の居場所を見つけていく成長譚だったといえる。

 新たに配信された第5~8話では、物語のトーンがやや変わっている。新人の奮闘記を卒業し、すでになくてはならない一員として働くハルが描かれているのだ。第5話「ポケモンの手も借りたい!」では、他のスタッフが不在となり、ハルが一人で業務をこなす羽目になる。電気タイプのレントラーやコリンクが騒ぎを起こし、ベビーシッターのように右往左往するハル。しかし最終的に、ポケモンたちの力を借りることで解決に至る。ここでは、ハルが自分の特性を利用しながら役割を果たせる存在に成長していることが示されている。

 第6話「一番のしあわせって」では、仲間の一人、タイラの親戚でベテランの船乗りであるダン(山路和弘)が登場。進化して大きく成長したトドグラーを連れて島を訪れる。手狭な自宅では世話しきれないと悩む彼は、ポケモンの幸せを思うがゆえに島に置いていこうとする。ハルはその判断に疑問を投げかけ、「本当に幸せかどうか」を問い直していく。ポケモンの立場になって、ものごとを繊細に考えることのできる彼女だからこその発想だ。

 新たなエピソードでは、このように、ハルがどのように島の暮らしや仕事に馴染んでいくかではなく、一定の順応を果たした上で、ハルがポケモンや人々のために何ができるか、というフェーズに移行しているといえるだろう。以前のエピソードの配信から、2年弱。ハルの頼もしさと一段高くなった課題は、新人がちょうどそのくらいの時間を経て実力を発揮し始めるようになった局面だと考えられるのではないだろうか。

 第7話「先輩になりました?」で、ハルは先輩として、ある新人の教育係を任される。新人ながら人生経験豊富で威厳ある彼に圧倒され、失敗続きのハルは自信が揺らぐことに。それでも彼は、「あんなに本気でポケモンにぶつかるとは」と、ハルのことを評価していた。第5話同様、ハルの持ち前の個性や、これまでの積み上げは、しっかりと身を結んでいることが示される。

 そして第8話「今、私はここにいます」では、元恋人のケント(町田啓太)が登場する。彼は出世を果たしたものの、日々の緊張に疲れ果て、かつてのハルと同じように消耗していた。その姿と、現在のハルを対比することで、本エピソードでは、ハルの成長と達成を明示するのだ。

 ハルが仲間の働きぶりを、「好きだから一生懸命になれる」と評価したように、ハルもまた自分の共感力や感性が活かせる仕事だったからこそ、同じように忙しい日々にあっても、いきいき仕事できていることが理解できる。都会と田舎という対立軸というよりは、自分に合った場所で働ける日々が幸福感や健やかさに繋がることを表現している。

 日本経済が上向いていた時代、多くの人々に共通していたのが、豊かさへの希求だった。そのために市民は、より多く稼ぐための上昇志向を必要としていた。しかし、現在までに経済が下降していく過程で、各人の目標が下方修正されることはあっても、根本的な価値観を代替するものがなかったといえる。いや、なかったというより、意図的に目を背けてきたのではないのか。そのことで、多くの人々が理想とギャップのなかで苦しむことになったのかもしれない。

 この4話を通じて浮かび上がってくるのは、そんな競争社会の上昇の物語から、“充足の物語”への転換だ。かつての日本社会では、出世して上へ進むことが、一つの“大きな物語”として共有されてきた。本シリーズが描くのは、そこから逸れていく展開だ。昇進や競争を前提にせずとも、人は仲間と支え合い、健やかに働き、幸せを感じる考えにシフトできる。この作品は、そういった価値観を、あたたかみのある質感や、ウインディやトドグラー、コダックたちの姿、のんをはじめとするキャストの演技によって示唆しているのだ。

 本シリーズ『ポケモンコンシェルジュ』第5~8話は、新米の奮闘を描いた前半を引き継ぎつつ、ハルが自分の選んだ居場所で満たされ、充実している姿を描き出した。そこには“逃げ場”ではなく、“選んだ場所”としての島がある。もちろん、現実には存在しない島だ。しかし、それは大きな物語に疲れた現代の視聴者にとって、現実を変えるきっかけの象徴になり得るのかもしれない。

(文=小野寺系(k.onodera))