お茶碗1杯49円?コメの価格高騰に農家の本音は「大赤字でも作り続けなきゃ」「安い時は誰も騒がない」

「ごはんお茶碗1杯の価格は約49円」。そう書かれたJA全農山形のポスターが物議を醸している。菓子パンが約231円、カップ麺が約187円、ハンバーガーが約231円と並べて、「それでもお米は高いと感じますか?」と問う内容だ。
実際の生産者は、どう考えているのか。福島県いわき市のコメ農家、ファーム白石代表の白石長利さん(44)を訪れた。江戸時代から300年以上続く農家の8代目で、大学卒業後に農家を継ぎ、約20年のキャリアを持つ。東京ドーム1.5倍となる7ヘクタールの敷地で作るのはコシヒカリ。全国有数の日照時間を誇るいわき市で、ミネラル豊富な土壌と住んだ土で育つコシヒカリの特徴は、粘り気や甘み、香りの強さだ。
コメの価格は、白石さんの20年の農家人生で最高値を更新した。60kgあたりの全銘柄平均は、1993年に約2万3607円で、2003年に約2万2296円に一時上昇した以外は、2014年の約1万1967円まで右肩下がりだった。しかし2024年に約2万3191円となり、2025年3月には約2万5876円となった。
現在の価格は、コメ農家から見て、高いのか安いのか。「正直なところ、やっとコメ上がるんだと思った。確かに農協や米屋が生産者から買う金額も上がった。ただ正直、理想の水準までは、まだ達していない」。
「茶碗1杯49円」でも理想の水準に届かない理由のひとつが生産コストだ。ビニールハウス内は30度以上を維持し、光熱費が大きなコストになる。種から苗に育てる手順を「専用の箱に土を入れる。本来自分たちが食べるコメは、実は種だ」と説明する。「その種を10日間ぐらい水に浸してふやかして、土の上にまいてあげて30度ぐらいの温度、湿度100%ぐらいのところで3日間置いておくと芽が出る。種まきからここまで約1カ月間」。
農機具も安価ではなく、「稲を刈るコンバイン。このタイプは一番小さい機械で、もっとデカくなればウン千万円」かかる。加えて、「化学肥料の原料の鉱石は、ロシアやウクライナ産が多い。戦争が始まったときに、化学肥料が倍くらいになった」とのこと。これらの生産コストを考えると、いま高騰していると言われる価格でも、まかなうのがギリギリだそうだ。
田植えまでには、田おこし(荒起おこし)→畦塗り(防水)→基肥(堆肥を混ぜる)→田おこし(仕上げ)→入水→代掻き(攪拌)→田植えといった作業工程がある。田植えは白石さんの場合、田植機を使って、田んぼ1枚30分程度。カーブ部分は、田植機で植えるのが難しいため、いまも手で植えている人が多いという。
コメ作りは自然との戦いだ。東日本大震災の後には最安値となり、深刻なダメージに見舞われた。「震災後、原発事故が起きてから、一番安い金額を提示された。30kgで4000円切っていたと思う。計算できるようでできない職業だ」。
凶作などに備えて、いざという時の蓄えである“内部留保”が必要となるが、高騰と言われる現在の価格ですら、それを捻出するのは厳しいと、白石さんは吐露する。
田植え後には、農薬を散布して、水を管理し、除草なども行う。そして秋にようやく、田んぼ1枚から28袋分のコメが収穫できる。
白石さんのお米は、どんな味がするのだろう。使用している中華料理店・華正樓(かせいろう)を訪れた。2代目店主の吉野康平さん(46)は「甘みやうまみ、粘りが、うちの中華料理に合う。コメのうまさを初めて知った。コメの大事さというのも白石さんから教えてもらった」と感謝する。お笑い芸人のチャンス大城が、料理とともにご飯を食し、「うますぎる。うますぎてボケられなかった」とこぼした。
コメの“適正価格”は、どう決めるべきなのだろう。「本当に大赤字でも作り続けていかなくちゃいけないという、田舎の役割(がある)。来年も存続して、ちゃんとできる利益や価格は、当然必要なことだとは思う。正直に思うのは、高い時には騒ぐけれど、安い時には誰も騒がないということ」(白石さん)
(『ABEMA的ニュースショー』より)