アライアンス・フォーラム財団・原 丈人代表理事の「会社は社会の公器、豊かな中間層づくりを!」
「アメリカはお金次第というところがありますから。だから、ビジネスマンのみならず、音楽家でも、医者や学者でも、稼ぐ人は偉いんです。日本はそうじゃなかった。でも、今は段々そうなってきています」
今、米国と日本とを比べてみると、「まだ日本のほうが手段が残されているけれども、結構、日本も格差問題が生まれてきている」としつつ、原氏は次のように述べる。 「とにかく自社株買いをやれとファンドは言いますが、その分、その企業の社員、特に若い人の給料を上げろというふうに言わなければ。そして企業経営者は非正規雇用を止めて、正規雇用にしていくことが大事です」
日本で働く人の数は6千数百万人。うち約4割は、非正規雇用(パート、アルバイなど)が占める。この非正規雇用を正規雇用に替え、安定した働く場を提供して、働き甲斐を掘り起こしていく。そうすることで、生産性が上がり、日本の成長につながるという原氏の考え方だ。
起業家として、ベンチャー・ キャピタリストとして活動
原丈人氏は1952年(昭和27年)生まれ。大阪出身、慶應義塾大学法学部卒。父親はコクヨ元専務で、母方の祖父はコクヨ創業者・黒田善太郎につながる家系。
27歳まで中米の考古学研究に没頭し、研究資金を得るために起業しようと、米スタンフォード大学経営学大学院で学び、MBA(経営学修士号)を取得。
29歳で光ファイバー・ディスプレイの開発会社を設立したのを手始めに、最先端の情報通信・ライフサイエンス分野でベンチャー企業を起業。1980年代半ば、事業持ち株会社のDEFTA PARTNERS(デフタ・パートナーズ)を設立した。
社会に貢献する企業を育成しようと、ベンチャー・キャピタリストとしても活動し、1990年代にはシリコンバレーを代表する存在になった。
1985年に『アライアンス・フォーラム財団』を設立。現在、同財団の代表理事を務める。
同財団は国連経済社会理事会の特別協議資格を持つ米国の非政府機関。原氏は近年、このアライアンス・フォーラム財団を拠点に文字通りグローバルに活動を展開している。
原氏は、国連政府間機関特命全権大使、米共和党ビジネス・アドバイザリー・ボード名誉共同議長に加え、香港政府HKSTP特別顧問、アフリカ・ザンビア大統領特別顧問などを務めてきている。
国際会議への参加も多い。2025年3月12日にはHKSTP(香港科技園公司)主催のパネルディスカッションに参加。
「変革のためのテクノロジー」をテーマに議論した(右端が原氏)
日本国内では、政府税制調査会の特別委員、財務省参与、内閣府参与、経済財政諮問会議の専門調査会会長代理、法務省危機管理会社法制会議代表委員を務めるなど、経済・財政運営から国のセキュリティ(危機管理)まで、多岐にわたる領域に関わってきている。
大学関係では、香港中文大学医学部栄誉教授や大阪大学大学院医学系研究科招聘教授などを歴任。
著書には、『「公益」資本主義』や『21世紀の国富論』、『新しい資本主義』などがある。
安倍晋三、岸田文雄の両首相や石破茂・現首相といった日本の歴代首相にも〝アドバイザリー〟として助言。
「今、わたしが時間を使っているのは、アメリカの共和党と民主党、それと中国共産党です」
原氏はこう語りながら、「日本はアメリカと中国の中間にあるのだから、中国共産党率いる中国が日本の脅威にならないようにしていくのが重要だと思います」と語る。
日本と中国は隣り合う関係。日中の交流の歴史は、元をたどれば2000年とも3000年ともいわれる。
近代に入って、日中戦争(1937)もあり、戦後しばらくは交流が途絶えた。終戦から27年後の1972年(昭和47年)、日中国交回復が成立。しかし、両国間には尖閣問題などもあり、難しい問題を抱えているのは事実。
日米関係を基軸にしながら、日中間の国交を維持するために、日本側にも外交・安全保障面で一工夫、二工夫が求められる。そして、中国との経済交流も進め、〝失われた30年〟といわれる低迷期からの脱却、日本再生をどう図っていくか。
具体的に、日本再生に向けて、どのような手を打っていくか─。
〝公益国債〟発行による 日本再生・地方創生を!
原氏は、「公益資本による公的資本形成」という考えを示す。
〝公益国債〟を国が発行して、新しい国づくりへの財源にするというのがその一つ。例えば、南海トラフ地震などに備えての防災インフラ整備や、科学技術立国としての立場を強化するための人材育成、さらには医療・介護など社会保障制度を充実させるための財源づくりとしての〝公益国債〟の発行である。
「わたしは、そうした政策実現のために、財源を考えたんです」と原氏は次のように語る。
「財源については、日本の財務省は国債をこれ以上発行すると、もう既に財政危機であり、国の借金は国民の借金でもあると。そう言われているので、わたしは新しい公益国債という将来の国民のツケにならない国債を発明しました」
例えば、防災に関していえば、防災予算に関する公益国債を国が発行し、個人(国民)がそれを買う。個人(国民)が国債を購入した場合、それは個人の資産になる。
「個人の借金にならない国債です。しかも、個人のお金を、将来の国づくりに使っていると。国のためになっているから、これに関しては相続税をかけないようにします」と原氏。
国民の個人金融資産は約2200兆円(2024年9月末時点)にのぼる。うち現金・預金は全金融資産の中で55%強を占める。これらを活用し、国民の資産を拡大すべく、政府は新NISA(少額投資非課税制度)などを、特に若い世代に向け推奨している。
「新NISAよりも、公益国債のほうがいいのではないかと思います。多くの日本の個人投資家は新NISAを通じて外国のファンドに投資していますからね」
環境変化合わせた新しい国づくり、国民のためになる社会インフラ整備に公益国債は役立つという原氏の考えだ。
他にも、まだまだやるべき事はある。シンガポール政府などは、外国人が自国の土地やマンションを購入した場合、60%の不動産印紙税を徴収している。外国人が1億円のマンションを買えば、6000万円の税収になる。
「同規模の税金を日本が執った場合、年間の税収は15兆円になります」と原氏は試算する。
中国などの海外の富裕層が、自国以外の資産を手にしようと、日本の不動産・マンションを購入するケースが増えている。非居住者の外国人が日本の不動産・マンションを所有するというケースも散見される。マンションを購入しても、そこに住んでいないから住民税もかからない。マンション価格高騰の背景には、こうした現状もある。
「それから日本は世界で一番物価が安い。世界で一番安全。世界で一番人が親切。そして一番食べ物が美味しい。そんな国に入るんだから、(税金を)取るべきでしょう」
原氏は、「入国税と言うと嫌がられますから、これをウェルビーイング・フィーと言うんです。ウェルビーイング・タックスでは税金だといって嫌がられますからね」と言う。
こうした様々な日本再生案が出されるが、では、国づくりの基礎となる経済運営を担う経済人の使命と役割とは何か─。
経済人が果たすべき 使命と役割
「経済人が国全体の利益ではなく、自分の会社の利益のことだけを、あるいは業界の利益だけを考える傾向が今は強いです」
経済人の現状について、原氏はこのような感想を述べる。
前述のとおり、会社は誰のためにあるのか、何のために人は働くのかという根本から、企業経営を考え直す時。そこで、原氏はいま一番やるべきこととして、「会社法の改正」を訴え続けている。
「例えば、上場会社が利益を上げると、利益が出たら税金を払って、配当を払って、いろいろ余ったものを剰余金として資本に組み入れる。資本金に組み入れたものは、昔は株主たちへの配当とか、自社株購入の原資にできなかった。今、会社法を変えて、それもできるようにしているわけです」
原氏が続ける。
「わたしはそういったことができないような会社法をつくる必要があると思って、安倍政権の最後の時に、総理と当時の法務大臣と相談して、しっかり国民を守るための会社法に変えることが大事ですと。ファンドを守るためではなく、国民を守るための会社法にしようという提案をしたんです」
今、日本の国としての基本軸をしっかり構築していくことが大事という意識が少しずつ高まっている。
2020年夏には、危機管理会社法制会議が設けられ、原氏が代表委員に就任した。同会議には経済人の中から、関経連(関西経済連合会)会長の松本正義氏(住友電気工業会長)や岡素之氏(住友商事元社長・会長)らが参加してきた。
危機はいつの時代も存在し、不意に襲ってくる。戦争・紛争、自然災害など、環境が目まぐるしく変化する中、国民の命や生活を守るための危機管理。
日本は人口減、少子化・高齢化という特有の問題を抱え、移民に対する政策の立案も急務だ。米国ほどではないにせよ日本も経済格差が広がりつつある。
賃金引き上げによる所得向上で個人消費を活性化し、経済をデフレから適度なインフレ状況にするという政策も道半だ。
こうした状況にあって、いかに『豊かな中間層』をつくり上げていくかという国民的課題。
「自らの事業を通じて、社会に貢献していく」という日本古来の考えに立ち返って、公益資本主義を実行する時である。
