会社経営に関わるステークホルダー(利害関係者)には、株主の他に、従業員、顧客、取引先、地域社会などがいる。大事なのは、企業とステークホルダーの関係という観点で見た場合に、公正に公平に、バランス良くその関係が築かれているかどうかということ。





米国も株主資本主義の 〝修正〟を宣言したが…


 米国の有力経済人の集まりであるBRT(ビジネス・ラウンド・テーブル)も1970年代末以降、『ガバナンス(企業統治)に関する原則』を議論してきた。

 本稿の冒頭、原氏が触れたように、BRTは1997年に「企業は株主のために存在する」という考えをまとめ、公表した。

 それから20年余が経った2019年夏、BRTは株主資本主義への批判の色をにじませ、〝ステークホルダー資本主義〟への転換を宣言。

 米国内にも、経済格差が生まれているのを鑑みて、株主資本主義に疑問を抱く経営者が少なからずいるということがBRTの宣言の背景にある。

 そうした世界の流れの中で、日本は、「1周遅れで、株主資本主義を追っている」という原氏の指摘である。


日本企業の〝稼ぐ力〟を 高める試みも…


 日本は1990年代初めにバブル経済が崩壊して以降、〝失われた30年〟といわれる長い低迷期に突入。経済の低迷から脱するために、経済を担う企業の〝稼ぐ力〟を高める試みがなされてきた。企業の〝稼ぐ力〟をみる指標づくりもその一つだ。

 具体的には、ROE(株主資本利益率)やPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)などの指標が重要視されるようになった。

 例えば、ROEは8倍以上の企業が優良企業だとか、PBRは1倍を割ればその企業の価値は解散価値を下回っており、会社の存在意義に〝赤信号〟が灯っているという判断がなされてきた。

 これも、欧米企業に比べて、日本企業の〝稼ぐ力〟が弱いということへの反省があってのこと。そのため、経済産業省や日本取引所関係者の間からは、株主の目を意識したコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革を進めようという考え方が出てきた。

 日本取引所傘下の東証(東京証券取引所)はガバナンス改革の一環として、2022年4月、上場市場区分を見直した(プライム、スタンダード、グロースの3市場に再編)。また、2023年4月に『コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム』を公表。

 世界的な流れでは、米国のBRTなどが株主資本主義の〝修正〟を宣言したものの、「実質は全く変わっていない」という原氏の問題意識。

 そして日本は、一周遅れで株主資本主義を追いかけているということ。その実態をどう読み解くか─。


自社株買いの資金を 社員の賃金に向けたら…


「例えば、昨年の上場企業の自社株買いはいくらかと言うと、合計17兆円にのぼります。自社株買いをやらず、これをもし従業員全部で割って、アルバイトも入れて皆に分けると、1人当たり200万円給料が増える勘定になります」

 1人当たり200万円という数字は、アルバイトなど非正規労働者も含めてのもの。正社員だけに絞れば、1人当たり2000万円にもなるという原氏の試算。

「日本企業の一般の給料はせいぜい800万円(年額)位しかもらっていないのが、2000万円増えるわけですからね」。こうした議論が日本国内でも、もっと増えるべきということである。

 原氏が、米国、欧州、香港、アジアなどの拠点で精力的に活動して20年余。この間、思う事とは何か─。