こうしたテーマを思いつくことができれば、いろいろな発想ができます。私なんかよりも、若い人たちがどんどん発想してくれています。マラソンというと「辛い」、「苦しい」というイメージを持つ人もおられると思いますが「楽しい」と思ってもらえる企画を、日本の観光資源を活用しながらできればいいなと思っているんです。





社員の「ロイヤリティ」を どう考えるか?


 ─ 創業者・鬼塚喜八郎さんの「頂上作戦」から発想した「Cプロジェクト」で開発したシューズがアシックスを牽引しているわけですが、それを担う「人」の育成にはどう取り組んでいますか。

 廣田 非常に力を入れています。先程、無形資産が大事という話をしましたが、重要なのは人的資産だと考えています。優秀な人たちに来てもらって、ここで働くことによって育っていくことが必要です。今、急激に業容が拡大したこともあり、中途採用にも注力しています。

 ─ 人の流動性が高まる時代ですが、ロイヤリティ(帰属意識)をどう考えますか。

 廣田 ロイヤリティは必要だと思います。会社で仕事をしている間は、その会社のこと、その会社の商品を愛することが必要だと思いますし、会社をもっとよくするための提言をしてもらうことも大事です。

 一方で、世の中には多くのチャンスがあるということで、そちらにチャレンジしたいならばチャレンジしてもらった方がいい。しかし、当社では辞められる方に、3年以内だったらいつでも戻ってきていいという話をしているんです。

 ─ 実際に戻って来る人もいる?

 廣田 います。そういう人は、よりアシックスに対する愛着心が強いですし、会社としても歓迎しています。

 ─ 産業界では処遇改善、賃上げが課題ですが、どう考えていますか。

 廣田 当社でも初任給を30万円に引き上げたり、従業員の賃上げを行っています。賃上げについては17%とすることで早々に組合とも合意しました。

 そして当社では賃上げだけでなく「プロフィットシェア」という考え方を持っています。儲けた単年度で従業員に返していくということです。資本コストを超えた税引き後利益のうち、10%を社員に返します。一般社員だと昨年の実績で1人当たり50万円程度になりました。

 昨年、中期経営計画の達成で1人10万円を配ったのですが、地域を含めて差を付けないようにしました。するとインドの店舗からCFO(最高財務責任者)に驚いて電話が入ったんです。物価調整などはせずに、一斉に配りましたから、現地では給与の2カ月分に相当する金額だったからです。

 お金は、やはり1つの尺度だと思うんです。利益は我々の付加価値をお客様に認めていただいて得ているものですから、それが上がれば株主に還元をし、いい商品を作るための投資をしますが、従業員にもきちんと還元をしていこうということです。





スポーツを「支える喜び」


 ─ やはりオリンピックなどを見ていても、スポーツには感動がありますね。

 廣田 あります。スポーツをする喜び、見る喜びなど様々ありますが、私たちが広めていきたいのは「支える喜び」です。25年は9月に東京で「世界陸上」、11月に聴覚障害者の方々のスポーツ大会「デフリンピック」が開催されます。

 私たちは両大会を社員がボランティアでも支えます。社内には年に1回はボランティアをやろうと呼びかけていて、私も「神戸マラソン」ではゴール地点でのタオルかけのボランティアをやっています。そうして支えることでゴールしてきた人たちと思いを共有するわけです。

 共生社会と言われますが、言うだけでできるわけではなく、実行することによってできるんだと思うんです。24年に神戸でパラ陸上が開催され、私も応援やボランティアで参加しました。その場ではボランティアリーダーの号令に私も「はいっ」と返事をして、若い人たちと一緒に動きました(笑)。

 また、私も含め役員は年に1回、店舗研修を行っています。入荷した商品を箱から出して陳列するという仕事を、みんな大汗をかきながらやっている。店舗の皆さんの仕事を共有することで販売の現場を知ることができますし、現場の皆さんも役員が現場を知っていると思ってくれる。

 ─ 経営と現場の距離が離れている企業が多いという指摘もある中、重要ですね。

 廣田 商品を売ってくれるのは現場ですから。お客様にどういう商品が、どういうタイミングで、どういう形で売られているかを知ることが基本中の基本です。