YouTube収益化にNFTアート販売 バスケ日本代表経験者が“コート外”の活動にも全力を注ぐ理由
島根の谷口大智、Bリーガー初のNFTを設立
バスケットボールB1リーグの島根スサノオマジックに所属する谷口大智は、日本人ビッグマンとしてチームに欠かせない役割を果たす一方で、個人によるYouTubeチャンネルでの活動や、「Bリーガー初」となるNFTの設立を果たすなど、一見バスケットボールとは関係のない発信や活動も精力的に行っている。トム・ホーバス体制での日本代表も経験したプレーヤーが、「コート外」にまで全力を尽くす。一体、何が彼を駆り立てているのだろうか。
谷口は、広島ドラゴンフライズに在籍していた2020年から、YouTubeチャンネル「DT times」を立ち上げた。趣味であるアクアリウムの様子や、オフの日に立ち寄った店での食事やショッピングなど、バスケットとある程度、距離を置いた発信をするスタイルは、4年が経とうとする今も変えていない。
「今でこそ、いろんな選手がオンラインサロンを開いたり、ブランドの立ち上げをしたりという動きがあります。当時、自分も30歳になって、バスケットの世界でも、いつ、何が起こるか分からない。『バスケットボール選手』という肩書きが自分からなくなった時、何ができるかと考えると、怖くなったことがありました。自分が1人になっても、全力で取り組めることを作ろう、というのがYouTubeを立ち上げたきっかけです」
プロアスリートであるがゆえに、ファンからの反発を感じる瞬間がなかったわけではない。コート上の谷口が「日本人でビッグマン」という貴重な存在であったことも、もしかするとその裏にはあっただろう。
「当然、最初は『動画を上げていないで練習しろ』と言われることもありました。当時はチームもB1に昇格したてで勝てなかった頃でしたし、そうした声が響かないわけではなかった。ただ、バスケットに全力な姿をコートで見せることで、そうしたことは言われなくなるはずで、だからこそ、バスケットがどれだけ好調でも不調でも、オフはオフで切り替えて取り組むと決めました。そうしているうちに、自分で撮って、編集をしていくのには限界も見えて、これではバスケットに影響が出てしまう……という別の課題が出てきました」
現在は島根で単身赴任中の谷口も、YouTubeでの活動当初は広島で家族と暮らし、基本的には子どもたちを寝かしつけてからが自分の時間だった。そうでなくとも、チームから資料として渡されるスカウティング映像やレポートなどにも目を通す必要がある。時間は有限。ならば、どう折り合いをつけるか。谷口は、全力であり続けるための選択肢を探った。
「幸いにして、YouTubeの収益化ができたので、そのお金を元手に編集を任せることにしました。それもあって、撮影にも集中できるようになったかもしれません。バスケットやチームのために必要な時間は、ちゃんと当てられるようになりましたしね」
NFTアートのキャラクターに込めたメッセージ
編集体制に目処もつき、その後に茨城ロボッツ、そして島根に移籍してからもYouTubeへのコンスタントな投稿が続く。この間、谷口は日本代表にも招集され、FIBAワールドカップ予選のコートにも立った。昨季は自身初となるBリーグチャンピオンシップに出場するなど、徐々にコート内外が「両輪」となって充実し始めている。
活動の幅が広がるなかで、谷口は画家の左右田薫氏と出会った。左右田氏は、シーホース三河のホームコートMC・小林拓一郎氏が運営するバスケットコート「グレープパークコート」の一角に、NBAレジェンドのコービー・ブライアント氏の壁画を描き、そこを谷口が訪れたのが出会いのきっかけだった。谷口と左右田氏が、お互いの愛犬たちをキャラクター化して商品化にこぎ着けると、交流のある選手たちから「うちで飼っている犬や猫も描いてほしい」と、話が広がっていく。そうした活動が、今度はオファーにつながった。
「キャラクター事業としてNFT制作へ大きくなりつつあったところでオファーをいただいたのですが、作ってきたコンセプトや世界観についてはブレさせたくなかった。あくまで、僕と左右田さんがキャラクターやストーリーを作りつつ、技術的な部分だけで参画いただけるなら、という条件を受け入れていただきました」
こうして谷口がファウンダーとなって、NFTプロジェクト「WAN」が始まった。WANは「WORLD ANIMAL narrative.」の略で、それを訳した「世界動物モノガタリ」という副題が付く。犬や猫だけでない、様々な動物を登場させる思惑があったのと同時に、谷口は制作にあたっての「モノガタリ」を、自分自身に当てはめた。
「僕は小学生の頃にすでに身長が190センチあって、『その体格でバスケットをやっていて、うらやましい』と言われることもありました。だけど、僕自身は何をしていても友だちよりも目立ってしまうし、やっていないことで叱責されたこともある。注目を浴びるのが嫌になる時期もありました」
バスケットの世界ではこの上ない武器である身長も、見方が変わればコンプレックスになることもある。それを谷口自身が感じながらも乗り越えたように、自らの「特徴」や「個性」であると解釈し直して、アートの世界を練った。WANでの第1号のキャラクターは、体の大きさや首の長さが注目を集めるキリンがモチーフ。ネーミングにおいては、バスケット界で自らの高さを存分に活かし続けた、NBAの名選手になぞらえて「ジャバー」と名付けた。
「キャラクター作りのところから動物たちの特徴も意識していて、デザインができ上がるなかで『この子はどんな生活を送って、どんな風に特徴と向き合っているのだろう』と考えています。世の中には自分の特徴に悩んだ結果、亡くなってしまう人もいます。個性は悪いことではない、その人が悪いことをしたわけでもないのなら、『違っても良い』というのを伝えたい。そうしたメッセージを盛り込んだ形にしたいんです」
オフを全力でやるから「バスケットにも全力で取り組める」
昨年12月には、閉店を間近に控えた島根・松江市の一畑百貨店の催事場で、「WAN」をテーマにした展覧会の開催も果たす。谷口や左右田氏もしばしば足を運んで在廊するなか、展示と同時に販売されていた絵画が早々に「品切れ」に。急遽、期間中に追加で制作・販売するという珍事にも見舞われた。追加した作品も含めて、最終的に100点を超えるアート作品が完売となり、アパレルなどの記念グッズも300点以上を売り上げるなど、盛況のうちに展覧会を終えた。
「(アートが期間内に品切れになりかけたのは)予想以上のことでした。左右田さんと話をしていて『サイン会がある最終日までもたない!』と持ちかけたら、すぐに追加の手配をしてくれました。けど、嬉しい誤算ではあって。百貨店の人たちも、驚きつつ喜んでくれましたね」
NFTアートの販売枚数も伸び、展覧会が成功を収めたりと、徐々に「WANの輪」も大きくなりつつある。WANでは現在、第2弾となるNFTアートのリリースを控え、同時に登場する動物たちによる絵本などについても、計画が進んでいるという。「水面下での出来事もあるけど、それは後々」と、今後の計画を朗らかに伝える谷口の姿は、どこか無邪気にも映る。全力であり続け、それを隠さないからこそ、人目に触れ、反応を起こし続けていく。これまでのコート外での活動を振り返りつつ、谷口は「これから」についても話した。
「『バスケットだけをしてきた人生』と比べれば、ビジネスも含めた視野や自信には確実につながっていると思います。そして、それがバスケットに対するリフレッシュにもなる。オフを全力でやるから、バスケットにも全力で取り組めると実感しつつあります。ここからの計画もいろいろあるのですが、『手に取って喜んでもらえるもの』も作れたらと思いますので、楽しみにしていてほしいです」
(荒 大 / Masaru Ara)

