@AUTOCAR

写真拡大 (全5枚)

風洞実験を経た世界初の乗用車

ランチアを創業したヴィンチェンツォ・ランチア氏が直接的に関わった最後のモデルが、1936年のアプリリアだ。スタイリングは、1920年代のラムダも描き出した、バッティスタ・ファルチェット氏が担当。風洞実験を経た、世界初の乗用車といえた。

【画像】戦前クラシック唯一の魅力 ランチア・アプリリア 1930年代のモデルたち 全133枚

イタリア・トリノの実験では、空気抵抗を示すCd値は0.47と示された。約90年前は、前例がないほど滑らかに空気を受け流すボディだった。


ランチア・アプリリア(1936〜1949年/欧州仕様)

流線型で、当時は突き出ていることが一般的だったリアの荷室も、ルーフラインから緩やかにカーブを描く。ドアはセンターピラー・レスで、観音開きを採用している。

1939年までのアプリリア・ファーストシリーズのエンジンは、半球形の燃焼室が与えられたバンク角19度の1352ccV型4気筒。ブレーキは油圧で動作し、アルミ製ドラムには冷却フィンが備わった。

1939年以降のアプリリア・セカンドシリーズには、新しい狭角V4エンジンが搭載されている。バンク角は17度へ更に狭まり、排気量は1486ccへ拡大された。

アプリリアのもう1つの特徴が、シャシーとボディが一体で成形されたモノコック構造。
全長は3962mmから4153mmとコンパクトながら、ホイールベースは2750mmから2850mmと長く、ボディの四隅にタイヤが配置されている。

サスペンションは洗練された独立懸架式で、運転した印象は今でも驚くほどモダン。辛口だったヴィンチェンツォ自身も、プロトタイプの試乗で感銘を受けたらしい。「なんと素晴らしいクルマなのだろう」。と、言葉を残したという。

優秀なサスとブレーキが支える楽しい走り

ランチアは、コーチビルド・ボディ用のプラットフォーム・シャシーも提供した。ホイールベースは、通常のアプリリアより約100mm長い。販売数の約3割を占めている。

当初は、カロッツエリアのスタビリメンティ・ファリーナ社によって、アプリリア・トランスフォーマビル・カブリオレが作られている。またランチアは、市場を問わず右ハンドル車にこだわった。左ハンドル車の存在は知られていない。


ランチア・アプリリア(1936〜1949年/欧州仕様)

生産初期の英国仕様のアプリリアは、関税を小さく抑えるため、ボディトリムやバンパーを省いた状態でグレートブリテン島へ輸入された。内装は標準ではクロスだったが、レザー張りでもあった。

ルッソと呼ばれるラグジュアリー仕様には、ボディサイドのランニングボードのほか、時計と温度計、燃料計などのメーターが追加。ランチアの品質や技術に対するこだわりは細部まで抜かりなく、バンパーのラバーモールも先進的な機能といえた。

第二次大戦後の1949年まで生産されているが、戦後の英国では販売されていない。近年、クラシックカーとして流通する殆どは、オーストラリアから輸入されたもの。今回ご紹介する例も、10年前に南半球からやってきた。

アプリリアは、ランチアらしく運転が楽しい。好ましい乗り心地と操縦性は、優秀なサスペンションとブレーキが支えている。加速力も、今でも充分に力強く感じられる。

オーナーの意見を聞いてみる

ランス・バット氏の父、ジェラルド・バット氏は、英国のランチア・モーター・クラブを創設したメンバーの1人。素晴らしいコレクションを有し、その情熱は息子へ受け継がれたようだ。

「幼い頃からランチアへ関わってきましたが、最近徐々に好きな気持が増してきました」。とランスが話す。「このアプリリアは、オーストラリアで見事にレストアされた車両で、走りは新車のようです」


ランチア・アプリリア(1936〜1949年/欧州仕様)

「アプリリアは、かなり過小評価されていると思います。現代の交通に紛れても快適に運転でき、1950年代のアウレリアより軽く、魅力に溢れています。2022年には、これでスコットランドへドライブしました」

「ツインチョーク・ウェーバーキャブへ改造していて、100km/h程度でも快適に走れます。トランスミッションにはシンクロメッシュがありませんが、心配不要。シフトレバーをゲートへ倒すだけで、滑らかに変速できます」

「家にはルッソ仕様もあります。プラットフォーム・シャシーをベースにしたスパイダーも。2023年には、グッドウッド・フェスティバルへそのクルマで参加しました」

英国で掘り出し物を発見

ランチア・アプリリア(英国仕様)

登録:1949年式 走行:−km  価格:4万5995ポンド(約832万円)

最終年式の英国仕様。セカンドシリーズで、僅かにパワフルな1486cc V4エンジンを搭載する。2012年に以前のオーナーがアメリカへ運び、ワシントンで当時6万ドルを費やしレストアされている。


ランチア・アプリリア(1949年式/英国仕様)

エンジンは、最近リビルド済み。バンパー下のウインカー・ユニットはカッコ良くないものの、完璧な状態にあるといっていい。

ランチア・アプリリア・アルデンヌ(欧州仕様)

登録:1938年式 走行:9万6600km 価格:1万1000ポンド(約199万円)

フランス・パリ郊外で眠っていた、初期のファーストシリーズ。英国のランチア・コレクターが2013年に購入し、フロアやサイドシル、ドアなど、大部分のボディのレストアは完了しているという。降ろされたエンジンも、回転する状態にある。

インテリアはチェック柄のクロス。こちらも大部分が組み上がっているといい、最後の仕上げに関わるのも悪くなさそうだ。

中古車購入時の注意点などは、ランチア・アプリリア 英国版中古車ガイド(2)にて。