山口廣秀・日興リサーチセンター理事長

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「今の日銀の物価に対する見方は慎重過ぎるのではないか」─。日銀が目標にしている物価目標2%を上回る状況に「高齢社会の日本では人々から強い不満が出てくるのではないか」という山口氏の懸念。インフレに悩む欧米が高い政策金利を取る中、日銀の政策変更が時期を失したものになりかねないという難しい状況にある。いずれにせよ、10年債の金利などで「市場の自由に委ねる形が大事」という山口氏の認識。日本の成長を図るには何が大事か。


日銀の物価に対する見方は慎重過ぎる

 ─ 今の世界経済を見ると、米国のインフレ、中国経済の低迷など、様々な不透明要因があります。現状をどう見ますか。

 山口 世界経済は今、非常に難しい状況に立ち至っていると思います。元々、グローバリゼーションの後退、それと同時に経済のブロック化、国際的な安全保障環境の悪化もあり、経済の供給面にかなり強い下押しの圧力がかかっています。

 つい数年前までのディスインフレ、あるいはデフレの時代から、供給不足に伴うインフレの時代に変わってきているというのが、大きな流れについての私の認識です。

 地域別に見ると、欧米の景気はともに減速しています。ただ、減速していても、底堅いということで、金融引き締めにも関わらず、物価がなかなか下がっていません。

 一方、中国は何よりも不動産バブルの崩壊が大きいと思います。景気ははっきりと後退していると思いますし、この先も金融機関やノンバンクの不良債権問題も加わって、さらに景気後退が進むと見ています。

 ─ そうした情勢に囲まれる中、日本経済の現状は?

 山口 日本はコロナ禍からの脱出が他の主要国に比べて遅かったこともあり、今何とか持ち直しつつあるということだと思います。ただ、今申し上げた欧米、中国の状況を考えると、タイムラグはあっても、いずれ日本も景気後退に向かう可能性が高いと思っています。

 物価の状況を見ると、出発点は輸入インフレでした。しかし、時間の経過とともに実際には国内要因による物価上昇にもなってきています。物価を押し上げる力が国内全般に波及しています。ですから、景気後退に向かうことがあっても、物価上昇は続くといった難しい状況になるのではないかと見ています。

 ─ その意味では、日本銀行による金融政策が非常に重要になってきますね。

 山口 日銀の物価に対する見方は慎重過ぎるのではないかと思っています。私自身は、国内の物価は上昇圧力が高まってきているという見方です。上昇のスピードは次第にダウンしていくとは思いますが、日銀が目標にしている物価目標2%を上回る状況は、今後も続くのではないかとみています。

 そうなると日銀が目標にしている2%程度にはなかなか落ち着いていかない。仮にそういう状況になってくると、高齢社会の日本では、人々から相当強い不満が出てくるのではないかということを懸念しています。

 ─ こうした情勢の中、日銀はYCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)の修正を行いましたね。

 山口 ええ。ただ、あのような政策対応では十分ではないとみています。今お話した物価についての見方からするとYCCは撤廃すべきです。既に遅きに失した感じはありますが…。

 それでも撤廃すべきですし、状況によってはマイナス金利政策についても見直す余地が出てくるのかもしれません。

 難しいのは、海外情勢を考えると景気がいずれ下押ししていくだろうということです。そうなると、日銀の政策変更が時期を失した不適切な政策になりかねないという問題があります。ですから、日銀は今、非常に難しい状況に立たされています。こうなっているのは、振り返ってみるとそもそも後手に回ったことが原因です。