─ 金融政策の正常化に向けて、早めに手を打つべきだと。

 山口 ええ。もっと早く手を打つべきだったろうと思います。遅きに失した感はありますが、やらないよりはいいということもあります。まずはYCCを撤廃し、物価が日銀の思ったように下がってこないとすれば、10年債の金利が市場の自律的な反応によって上昇することで、物価の上昇への市場の反応がはっきりと表に出てくる。これが望ましいのではないかと思います。

 ─ 10年物国債の動きがカギを握るということですね。

 山口 大きいですね。もちろんYCCですから、日銀は全てのイールドカーブをコントロールしているつもりだと思いますが、キーになっているのは10年債の金利です。

 ですから、引き締めが必要な状況になるとすれば、時間を経ずに市場金利は上昇するはずですが、それでよいのではないか。仮に、逆に物価が上昇していかないとすれば、金利は低下していくかもしれませんが、それもそれでよいではないかということです。

 10年債の金利について、市場の自由に委ねる形にしていくことは、それ自体としては金融の引き締めでも、緩和でもないということだと思います。

 ただ、そのことが日銀から人々にうまく伝えられていないのが現状です。一方で金利が自由に動くことによって、市場が景気や物価に対してどういう見方をしているのかが、日銀にもはっきりと伝わるようになります。日銀にとって非常に重要な情報源だと思います。

 ─ その意味で日銀としては市場との対話が重要ですね。

 山口 YCCは、その性質上日銀と市場とのコミュニケーションを封じています。景気、物価に対する市場の見方が金利を通してあらわれてくることが大事で、それを日銀が政策を判断するうえでの重要な材料にしていくことが重要です。


「企業は守らないが雇用は守る」

 ─ 日本の成長に向けて、民間企業の役割は非常に重要ですが、一方で国、財政の役割との関係でどう捉えていますか。

 山口 成長との関連で最近、政府の役割が重視されるようになってきていると思います。特にESG(環境・社会・ガバナンス)、気候変動対応については、民間企業の行動だけに任せていては、適切な対応ができないかもしれません。その意味では政府が主導して対応を考える、あるいは企業行動に対して政府が関与していくことが必要だと思います。

 また、日本経済を活性化するためにはイノベーションが欠かせません。そのためには企業のリスクテイクがどうしても必要ですが、今は企業の姿勢は消極的に見えます。そうした観点からは政府が企業のリスクテイクの背中を押していくことが非常に重要になります。

 ただし、日本経済の力、潜在成長力を高めていくためには、やはり企業の自由な行動を基本原則として大切にしていく。それを前提にして政府が規制改革や労働市場の流動化といったことを進めていくということだと思います。

 ─ この時、既得権益との衝突は避けて通れませんね。

 山口 ええ。私は、政府が既得権益との調整を上手にこなしていくことで、経済全体の新陳代謝を促していくことが重要だと考えています。そこで大切なのは「企業は守らないけれども、雇用は守る」という原則をしっかり頭に置き、それを明らかにしていくことが必要です。

 これによって初めて、新陳代謝が促されるようになり、労働市場の流動化とも絡んで、労働者が次の職場に移動することができる。これが可能になれば、経済全体も活性化されるのではないでしょうか。