公益財団法人 国策研究会理事長・土居征夫「IQではなく、情操・情感を取り込んだEQ教育を。日本の精神文化の深さを学ぶとき」
日本人の精神性を取り戻す
─ 今、人材の育成は日本の課題ですが、人材育成の根本は何だと考えますか。
土居 例えば江戸期まであった寺子屋教育です。これらは明治から廃止されました。それはそれでいいんです。小学校制度にして近代国家にするために科学技術を導入して、それでやってきたのです。その裏に、江戸時代まで全国に2万近くあった寺子屋を全部廃止したという背景があります。
─ 寺子屋は全国2万もあったのですね。
土居 普通の寺子屋が私塾として商人、農民も含め庶民の教育を担っていました。石門心学で有名な石田梅岩も含めた私塾がありました。
これには徳育、精神教育が入っていました。その精神教育も上から目線で教えるのではなく、子どもたちが自ら気付く機会がたくさんありました。親もそこに参加し、地域社会も参加して、先生がいて、その社会の中で子どもは学ぶと。単なる先生が教科書で教え込むという世界でありませんでした。
それがあったので、ものすごく深い人格を育む教育ができていました。
ところが明治5年の学制発布以後、江戸時代までのそういう寺子屋、私塾、藩校を全廃してしまったので、近代化の名のもとに型にはめる教育になり、特に昭和に入って悪い面が出てきました。明治維新期の西郷隆盛、大久保利通らはそういうことをわかっていて、調整しながら海外とも交流していたわけですけどね。
しかしその後、日清日露両戦役で勝ったおごりもあり、どちらかというとそういう深い精神性とかが忘れられてしまった。昭和の時代に育ってきたリーダーは頭でっかちで官僚的になってしまったのです。
─ 伝統文化や精神性がなくなって、上っ面の教育だけになってしまったと。
土居 ええ。明治から大正期にかけては幕末までの啓発教育で育った優れたリーダー達が多かったので日本は興隆期を迎えますが、昭和になって官僚的なリーダーが増え戦争で大失敗をしてしまいます。戦後は、軍事では失敗したけど、われわれ日本人はまだまだ経済ではやれるんだと、松下幸之助さんのような人もたくさん出てきました。経済の領域では頑張ろうではないかと。私が通産省に入った頃1965年(昭和40年)もそういう雰囲気がありました。
日本は戦争で大きな失敗をしてしまったので深い反省が必要だが、一方で精神文化を含めて、日本も捨てたものではないのだという思いや見方もありました。
しかし戦後になってからは、教育や社会環境の変化が進み、世代を重ねるごとにそうしたプラス面の思いも薄れていきました。占領政策で捨てさせられた面もあります。
IQ教育よりEQ教育を
─ それによって失ったものは何だと思いますか。
土居 人間性、要するにスピリットです。昔で言えば「道」であり、徳育です。人間性、人間の生き方というのは知識や論理ではないのです。これらを非認知能力といいます。
