土居征夫・公益財団法人 国策研究会理事長

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戦後78年が経ち、国の制度設計とともに教育の在り方も大きく見直されようとしている。日本の近代化が始まった明治維新から約150年余、欧米に追い付け追い越せで人材教育は始まる。日本は経済大国にのし上がってきたが、「何か大事なものを見失っていないか」という反省機運が生まれてきた。日本の精神文化、伝統、はもちろんのこと、歴史の中で培われてきた倫理、道徳、さらには情感、情緒そして共生の思想などもっと根本的なものを学び直すときと土居征夫氏は訴える。参考になるのは日本の江戸期まで受け継がれてきた寺子屋教育。「精神教育も上から目線で教えるのではなく、子どもたちが気付くような教育を寺子屋教育から学ぶべき」という土居氏の訴えである。


日本人の精神性を取り戻す

 ─ 今、人材の育成は日本の課題ですが、人材育成の根本は何だと考えますか。

 土居 例えば江戸期まであった寺子屋教育です。これらは明治から廃止されました。それはそれでいいんです。小学校制度にして近代国家にするために科学技術を導入して、それでやってきたのです。その裏に、江戸時代まで全国に2万近くあった寺子屋を全部廃止したという背景があります。

 ─ 寺子屋は全国2万もあったのですね。

 土居 普通の寺子屋が私塾として商人、農民も含め庶民の教育を担っていました。石門心学で有名な石田梅岩も含めた私塾がありました。

 これには徳育、精神教育が入っていました。その精神教育も上から目線で教えるのではなく、子どもたちが自ら気付く機会がたくさんありました。親もそこに参加し、地域社会も参加して、先生がいて、その社会の中で子どもは学ぶと。単なる先生が教科書で教え込むという世界でありませんでした。

 それがあったので、ものすごく深い人格を育む教育ができていました。

 ところが明治5年の学制発布以後、江戸時代までのそういう寺子屋、私塾、藩校を全廃してしまったので、近代化の名のもとに型にはめる教育になり、特に昭和に入って悪い面が出てきました。明治維新期の西郷隆盛、大久保利通らはそういうことをわかっていて、調整しながら海外とも交流していたわけですけどね。

 しかしその後、日清日露両戦役で勝ったおごりもあり、どちらかというとそういう深い精神性とかが忘れられてしまった。昭和の時代に育ってきたリーダーは頭でっかちで官僚的になってしまったのです。

 ─ 伝統文化や精神性がなくなって、上っ面の教育だけになってしまったと。

 土居 ええ。明治から大正期にかけては幕末までの啓発教育で育った優れたリーダー達が多かったので日本は興隆期を迎えますが、昭和になって官僚的なリーダーが増え戦争で大失敗をしてしまいます。戦後は、軍事では失敗したけど、われわれ日本人はまだまだ経済ではやれるんだと、松下幸之助さんのような人もたくさん出てきました。経済の領域では頑張ろうではないかと。私が通産省に入った頃1965年(昭和40年)もそういう雰囲気がありました。

 日本は戦争で大きな失敗をしてしまったので深い反省が必要だが、一方で精神文化を含めて、日本も捨てたものではないのだという思いや見方もありました。

 しかし戦後になってからは、教育や社会環境の変化が進み、世代を重ねるごとにそうしたプラス面の思いも薄れていきました。占領政策で捨てさせられた面もあります。


IQ教育よりEQ教育を

 ─ それによって失ったものは何だと思いますか。

 土居 人間性、要するにスピリットです。昔で言えば「道」であり、徳育です。人間性、人間の生き方というのは知識や論理ではないのです。これらを非認知能力といいます。