市川染五郎(本人インスタグラムより)

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 容姿端麗を指す言葉として使われる“二枚目”。もとは歌舞伎の芝居小屋に掲げられていた役者が描かれた看板の順番が語源で、一枚目は“主演”を意味する。

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 そんな歌舞伎界に“二枚目な一枚目”が現れたようだ。

「6月2日から歌舞伎座で始まった『六月大歌舞伎』の第二部『信康』の主演を市川染五郎さんが務めています。彼の祖父である松本白鸚さんとの共演も話題を呼びましたが、放送中のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも出演しており、その美男子ぶりに新規のファンが増加中。その影響か、普段は歌舞伎を見ない人も舞台に足を運んだことで、チケットの売れ行きは好調のようです」(スポーツ紙記者)

高校を中退、並々ならぬ努力を認められて

“歌舞伎界のプリンス”と言われた尾上右近に続く新たなスターの誕生。歌舞伎評論家の中村達史氏も、今回の舞台に熱視線を送る。

「染五郎さんはまだ17歳。その若さで、歌舞伎座という大舞台の主演を務めるのは、襲名公演や先代を称える追善公演など特別な興行を除けば、過去にも数例しかない大抜擢です。歌舞伎の主演は一興行を背負うのと同意。ましてや長い歴史を持つ歌舞伎の芸は、先人から長期間にわたる教えを受けて身につくものですから、人気がある大きな名跡の家系でも、主演を務めるようになるのはどんなに早くとも20代の中ごろが一般的です」

 10代の“一枚目”が極端に少ない背景には、歌舞伎界特有の事情もあるようだ。

「歌舞伎の世界では、11歳ごろから19歳ごろまでの間を古い用語で“中供”といいます。子役を務めるには大きすぎて、大人の役を務めるには芸が浅すぎるため、この時期の役者はできる役がなく、舞台出演の機会が減ることが多いです」(中村氏)

 これまでのジンクスを乗り越えたかのように見える染五郎。そこには、相当の覚悟があったという。

「彼は有名私立大付属の一貫校に幼稚園から通っていたのですが、高校3年生に進級する直前の今春に中退。本来であればエスカレーター式で大学まで進学できる環境でしたが、時間の多くを稽古や芸能活動に費やすため自ら退路を断ったそうです。興行主の松竹や白鸚さんが、そんな彼の並々ならぬ姿勢を認めたため、今回の主演に抜擢されたといわれています」(梨園関係者)

 一直線に歌舞伎道を邁進し始めた染五郎。なにが彼をそこまで突き動かすのか。

「彼の夢は自身の屋号である高麗屋の芸を継承すること。特に祖父・白鸚さんの十八番『勧進帳』の弁慶を自分のものにしたいと思っています。ただ、彼の場合は人並み以上の努力が必要になるでしょう」(同・梨園関係者)

 というのも、彼は高麗屋の歌舞伎俳優として、普通ならぜいたくな悩みとも言うべき“弱点”を抱えている。

「顔が小さいんですよ。一般的にはスタイルがよく見えるのでいいことなのでしょうけど、演技の迫力に欠けてしまい、デメリットになりかねないんです。それに高麗屋は豪快な芸を持ち味にしている家柄ですが、染五郎さんは細身。白鸚さんの芸を継承するなら、もっと貫禄をつける必要がありますね。ただ努力家の彼なら、いずれ弱点も克服できるでしょう」(同・梨園関係者)

 染五郎の挑戦は、まだまだ続くようだ。