モドリッチの絶妙アシストに見たアウトサイドキック復活の予感
【識者コラム】かつてアウトサイドキックは「一流選手の証明」だった
アウトサイドキックはルカ・モドリッチ(レアル・マドリード)のトレードマークだ。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝の第2戦でも、極めて重要な場面で精密なアウトサイドキックが出た。
後半35分、ロドリゴのゴールをアシストしている。レアル・マドリードはチェルシーに0-3とリードを許し、2戦合計スコアは3-4。モドリッチのピンポイントパスからのロドリゴの得点がなければ敗退していた。その後、息を吹き返したレアルは延長に入ってのカリム・ベンゼマのゴールで2戦合計スコア5-4と勝ち越し、ベスト4へ進んでいる。
左サイドから斜めに送ったモドリッチのアウトサイドのロブは芸術的だったが、現在このキックを使いこなす選手はあまりいなくなった。
1970年代、アウトサイドキックは一流選手の証明と言っていいぐらい、多くの選手が使っていたキックだった。
フランツ・ベッケンバウアーはアウトサイドの名手で、ショートパスから40メートル級のロングパスまで右足のアウトで蹴っていたものだ。カーブをかけ、あるいは逆回転でバウンドして転がりすぎないように。フリーキック(FK)でも壁を越えて枯れ葉のようにバーすれすれに落下するシュートを得意としていた。ただ、ベッケンバウアーはナチュラルなアウトサイドキッカーで、逆にインサイドを使うのが苦手だったそうだ。インサイドも使うけれども、足のつき方のせいでアウトのほうが自然だったそうだ。
ベッケンバウアーとワールドカップ3回(1966、70、74年)でコンビを組んだボルフガング・オベラーツもアウトサイドの名手だ。こちらは完全な左利き。ほとんどのプレーを左足1本でやっていた。自分の右前にあるボールを右ウイングへ蹴る時も、ステップを踏み変えて左足のアウトで飛ばすというアクロバティックなキックを使っていた。右足で蹴ったほうがずっと簡単そうなのだが、「怒りの芸術家」と呼ばれた職人気質だろうか。
オベラーツと西ドイツ代表のプレーメーカーの座を争ったギュンター・ネッツァーもアウトサイドが上手かった。大きくカーブするパスは疾走する味方の鼻先にピンポイントで届けられていた。
1990年代以降は徐々にアウトサイドキックが減少
ヨハン・クライフもアウトサイドを多用していた。FKを右足アウトで蹴り、左サイドからのクロスボールを右足のアウトで入れる。クライフは左足も上手い両足利きに近い選手だったので、わざわざ右のアウトを使うのはそれなりの理由があったわけだ。
アウトサイドを使う理由としては、第1にボールをカーブさせること。目の前の敵を迂回するパスを出す、あるいはFKの壁をまくシュートに使う。ペレやガリンシャの曲がるシュートは「バナナシュート」と呼ばれていた。第2の理由はタイミングの操作。アウトサイドは「前足のキック」とも言われていて、走る歩幅のまま少ない予備動作で蹴るからタイミングを相手に読まれにくい。クライフは「両足のインとアウトを使えれば4つのタイミングでプレーできる」と言っていた。早めることも遅らせることもできる、タイミングの操作ができるわけだ。
しかし、1990年代以降はアウトサイドキックが減っていった。
1980年代はミッシェル・プラティニが強いシュートを打つ時にアウトで変化させていたし、ディエゴ・マラドーナの足首の返しだけで飛ばしてしまうアウトサイドもあったが、あまり見られなくなっていった。
プレーのテンポアップが原因ではないかと思う。タイミングを読まれにくい利点よりも、読まれていても反応できないパススピードが要求されるようになった。左足でやれることをわざわざ右足で難しいキックをする必要がないというのも、もっともである。
ただ、アウトサイドキックは減ったとはいえ、なくなったわけではない。ポルトガル代表のウイング、リカルド・クアレスマは右足アウトでのクロスを得意としていたし、モドリッチは現在これの代表格だ。
前記のように「前足のキック」だから、自分の前にあるボールを押し出すように蹴るので、ボールと到達目標を結ぶ照準を合わせやすいという良さがある。予備動作の少なさもブレの少なさにつながる。あとは自分のボールの曲がり具合を分かっていれば、精密なパスを出しやすい。踏み込みもほぼないので、ボールをセットした瞬間に蹴り出せる。
なくなりかけたものが復活するというのは、サッカーではよく起こる。モドリッチの影響でアウトサイドキックもリバイバルするかもしれない。(西部謙司 / Kenji Nishibe)
