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温泉旅館などでの混浴が激減する中、性別に関係なく入浴しやすい環境をつくり、湯治文化を残そうという動きが始まっている。

青森県の名湯、酸ヶ湯温泉の混浴では利用者全員が湯あみ着を着用する実証実験が行われた。混浴は女性から「男性の視線を感じてゆっくりできない」、「混浴に入る勇気はない」などの声が上がっていた。

実験は環境省の取り組みで、混浴に抵抗を感じる女性も湯あみ着でリラックスしてもらう狙いがある。温泉愛好家でもある小林裕彦弁護士(岡山弁護士会所属)に混浴減少の要因の1つである「ワニ」の実態や、マナーについて聞きながら混浴の未来について考えた。(ライター・国分瑠衣子)

●女性用出入口の近くで視線を送り続ける「ワニ」たち

混浴の数の推移をまとめた公式のデータはないが、温泉家の北出恭子さんによると、混浴施設は28年間で半分以下に激減しているという。

混浴が減っている理由の1つが、「ワニ」と呼ばれる湯舟の中で、女性が来るのを待ち構えている男性の存在だ。

「温泉博士が教える最高の温泉」(集英社)の著者の小林裕彦弁護士は、以前から「ワニ」の姿を目撃してきた。小林弁護士は30年以上にわたり約3000カ所ある全国の温泉を巡っている。

「東北地方のある混浴に入っていた時に、男性が女性用の出入口の前に陣取っていたので、注意をしたことがあります。中国地方の混浴でも男性の団体が若い女性に『どこから来たの』と声をかけていました。礼節をわきまえず、自分本位の情けない行為で本当になげかわしい」と話す。混浴に入った女性の後をつけるように移動する男性も見たこともある。

小林弁護士が訪れる温泉地でも仕切りを設けたり、湯浴みの着用などを義務づけたりする温泉は増えている。旅館業法などでは新しく混浴を設けることを事実上認めておらず、本物の混浴の数は減る一方だ。

小林弁護士によると本来、混浴では女性が入ってくると男性は背中を向け、話しかけないのが礼儀だという。小林氏は「幕末に日本に来た外国人が混浴を見て驚いたという話もあるほど、混浴は日本人の大らかさ、寛容さと日本国の安全さを象徴する文化だと思います。日本の良き文化を壊さないためにも一人一人の気遣いやマナーが必要です」と話す。

●酸ヶ湯温泉で湯あみ着実験、女性利用比率上がる

性別に関係なく混浴を楽しんでもらい、湯治文化を残そうという取り組みも始まっている。 青森県青森市の名湯・酸ヶ湯温泉の「ヒバ千人風呂」では2021年11月の5日間、利用者全員が湯あみ着を着用する実証実験が行われた。

ヒバ千人風呂ではもともと女性専用の入浴時間を設け、湯あみ着も使える。全員が湯あみ着を着用することで、より入浴しやすい環境をつくる狙いがある。

実証実験の結果、利用者数に違いはあるものの、全員が湯あみ着を着用した日は普段より女性の利用比率が増えた。入浴者に対して行ったアンケートでは「抵抗なく入浴できた」という女性の声など、おおむね好評だった。

一方で湯あみ着の着用感に戸惑う声もあり「湯治で来たが気持ちよさが半減する」「お湯の汚れが気になる」といった意見もあった。湯あみ着の実証実験は今年1月と2月にも行われた。

酸ヶ湯温泉での実証実験は環境省の十和田八幡平国立公園管理事務所が進める「10年後の混浴プロジェクト」の一環だ。同公園内には昔からの湯治場が14軒あり、多くが混浴だ。

●プロジェクト担当者「混浴は平和の象徴」

同事務所でプロジェクトを担当する山瑞季さんは、自身も混浴に入りにくさを感じた経験がある。山さんは「老若男女問わず、さまざまな年齢の人が一緒に利用する混浴は平和の象徴だと思います。湯治文化を守るために、どのような形であれば利用しやすいのか考えていきたいと思っています」と話す。

プロジェクトでは、公園内の湯治場との意見交換や専門家らを招いた勉強会も行っている。意見交換では、宿泊施設側から「女性がより気楽に入れる環境があってもいい」「女性専用時間を守らない男性への対応が必要なので、湯あみ着の日を設けたい」という声が上がった。

一方で「衛生面が気になる」「外国人観光客など初めての体験を喜ぶ利用者も多く、湯あみ着の義務化をしない場所も必要では」と一律で湯あみ着を導入することには違和感を感じる意見も出たという。

プロジェクトは2022年度も継続する計画だ。