横綱が「品格力量抜群」の者であればこそ、「横綱になってしまったがために辞めざるを得なくなってしまった者」など存在しないと思う件。
横綱とは!品格!力量!抜群の者!
僕はスポーツにおいて思案するとき相撲を見ることにしています。興行化されてからでも数百年の歴史がある、神代の時代から行なわれてきたこのスポーツは、この世のあらゆることを通過してきています。人間のやりそうなことはすべて経験してきています。相撲に必ず答えはある、そう思っています。
相撲が教えてくれたことのひとつに、「一番すごい選手とはどういう存在なのか」というものがあります。なんとなーくイメージはできているけれど、簡潔に言い表すのが難しかったものをハッキリとイメージさせてくれたのが、近代において横綱の基準とされる「品格力量抜群」です。ピーンときた。ビビビときた。これだと思いました。
力量が秀でていることは当然であるけれど、品格も抜群であってこそ一番なのだと。モヤモヤと言語化できずにいた部分は、グラウンドやコートの外側にある資質だったのです。力量だけでは不十分な、世の中を動かし、人々を牽引するような前向きで清らかなチカラ、スポーツの持つ尊さは「品格抜群」をも求めているのだと。「勝てば官軍」といった価値観に僕が与しないのも、勝利は必ずしも品格を約束するものではないからだと腹落ちしました。
そんな尊い存在である横綱が進退の瀬戸際に追い込まれています。横綱・白鵬、横綱・鶴竜、ふたりそろって仲良く三月場所を休場。右ひざ故障で3日目から休場となった白鵬はこれで5場所連続の休場となり、鶴竜においては5場所連続休場に加えて直近4場所全休となる見込み。丸一年で鶴竜が土俵にあがったのは一日だけ、白鵬も似たりよったりという体たらくでは、「注意」を超えた「勧告」というものが見えてくるところです。
そんな状況に「おっ、言ってやるチャンスだな」とウキウキしたでしょうか。テレビ解説者の舞の海さんからは「罪を作った」という強い表現も飛び出しました。「舞の海のターン」は在宅勤務に集中することにしていたので、半分くらいまで何を言っているのか聞いていなかったのですが、「罪を作った」と聞いた瞬間にはまさか休場の話だとは思わず、「あー、ついにアヤしい健康食品でも売ったか!」と思ってしまったほど。いよいよ白鵬もそこまで言われる状態に追い込まれたか…仕方ないことですが、いたままれない気持ちになりました(※鶴竜はさておき)。
↓NHKもこのテーマは「横綱」に聞きなさいよ!横綱の苦労も重みも知りゃしないんだから!(※袋叩きを承知の素人の意見)
舞の海:「驚きましたね〜」舞の海:「初日・2日目の相撲で怪我をしたのではないと思うんですよね〜」舞の海:「そういう相撲内容ではなかったですよね〜」舞の海:「場所前からそういう悪い状態なのであれば?」舞の海:「最初から休場していたほうがよかったですよね!」舞の海:「3日目から休場というのはぁ」舞の海:「これはもう!ファンの期待を!裏切ったし!」舞の海:「罪を作ったなぁ(ハァ)」舞の海:「と思いますよね」舞の海氏、白鵬はファンの期待を裏切った「罪を作った」/春場所 https://t.co/ncGecI1u77
- サンスポコム (@SANSPOCOM) March 16, 2021
舞の海:「ま、」舞の海:「横綱、でもない、私が?」舞の海:「袋叩き(笑)を承知で言わせてもらうとですね」舞の海:「過去には、おそらく!」舞の海:「一年くらい休ませてもらったらもっとやれるのにな!」舞の海:「と思いながら去っていった横綱って」舞の海:「い る と 思 う ん で す よ ね」舞の海:「でも!」舞の海:「何故やめたか???」舞の海:「っていうところですよね!」舞の海:「それは!自分の!事情とか!感情よりも!」舞の海:「この横綱の地位とか!」舞の海:「名誉とかいうものを!」舞の海:「守ってきたくぁらくぉそ」舞の海:「それを大切に思ったくぁらくぉそ」舞の海:「だと思うんですよね!」舞の海:「そして!見てる『ファン』はですね?」舞の海:「横綱になってしまったがために」舞の海:「辞めざるを得なくなってしまった」舞の海:「ま、そこにですね、あのー」舞の海:「無念さとか、悲劇というものに」舞の海:「『ファン』は共感すると思うんですよね〜!」舞の海氏「袋だたき承知で」横綱休場の「名誉」言及 #sumo #大相撲 #白鵬 #鶴竜 #春場所 https://t.co/r1XDy1gXv7
- 日刊スポーツ (@nikkansports) March 16, 2021
同じことを稀勢の里が言うなら相応の態度で聞きもしますが、稀勢の里は同じことを言わないと思う!
それが「品格力量抜群」だから!
何となく「被る部分がある意見を言うのはイヤだなぁ」と直感で思うので、なるべく舞の海さんには全然別の意見だけを言っていてほしいのですが(キャラメルコーンのピーナッツを増やせとか減らせとか)、ある程度の部分において近いことを考えもしますし、この意見にうなずく人も多いでしょう。SNSでは「正論」という評価もあるようです。「こんなに休んでいる状態なら辞めるしかないよね、横綱なんだから」というのは、横綱に付きまとう宿命のようなものだと思います。
ただ、僕は「休んだら辞めろ」と短絡的に思っているわけではありません。確かに「もっと休めたら、もう一度力量を発揮できた」と思いながら土俵を去った横綱もいるかもしれません。しかし、それを不本意に思うようなら、横綱の態度ではないと僕は思うのです。横綱という存在が「品格力量抜群」であればこそ、不本意のまま辞めるようなことにはならないと思うのです。
怪我をしました、土俵にあがれません、一年くらいかかります。そういう事態はどんなスポーツにもあり得ます。そのとき白鵬はこうしてダラダラと出たり休んだりを繰り返している一方で、二場所くらいでパッと辞める横綱もいます。そこには「抜群」の差があります。白鵬が好きでない人も含めて、白鵬が抜群に強い力士であったことは認めざるを得ないはずです(※鶴竜はさておき)。幕内最高優勝44回、通算1172勝はともに歴代第1位。ただの抜群ではない「超抜群」です。
今でも体調万全で出てくれば強いだろうと思いますし、小さな怪我や病気であればもう一度休めばいいと思います。それぐらい白鵬は超抜群であり、ちょっとやそっとでその信頼が揺らぐものではありません(※鶴竜はさておき)。だからこうして何年も休みを繰り返しながらも、出てきたときはサクッと全勝優勝ということもやってこれたのです。その意味では今回の右ひざ手術というのも治るまでじっくりと治療すればいいと思います。それだけの力量を見せてきた力士です。
一方で、それをヨシとしないのもまた横綱です。休んでいる自分、横綱の責任を果たせない自分、かつてのチカラをもう一度示すことはできないだろうと悟ってしまった自分、そういう自分がいるときに「品格抜群」であればこそ、自分に嘘をつけないのが横綱です。生活のためになるべくこの地位に留まりたいとか、どうせクビにならないなら2年でも3年でも休んでやろうとか、そういう見苦しい根性の横綱などいるはずがない。
天賦の才とたゆまぬ努力で力量をつけ、
土俵と己に向き合うなかで心を鍛え、
品格力量抜群に至った者はそうは考えない。
まだ力量を示せると心の底から思うのなら何年でも休むでしょうし、もうその見込みはないと悟ればひとつの負けでも土俵を去るでしょう。問われるのは「力量抜群」であるかどうか。抜群ではないと思う瞬間が訪れるのに、何場所休んだかなどという数字は関係がないのです。その意味で、今の白鵬と歴代の横綱たちの引き際とには何ら矛盾はないのです(※鶴竜はさておき)。
と同時に、自らの本心ではまだやれると思っていても、現実として何年も力量を示すことができず、横綱とはそういう見苦しいものなのかと世間に思わせてしまうようであれば、やはり進退を懸けるのが横綱なのです。見苦しいと思われるようでは、いかに力量抜群の自信があっても、品格抜群が損なわれてしまうのです。品格抜群であればこそ、品格抜群の横綱ではなくなっていく自身のありようが許せなくなる、僕はそういうものだと思います。ゆえに、進退を懸けることに「不本意」などないはずだと。「横綱になってしまったがために辞めざるを得なくなってしまった」なんて思いはないはずだと。
僕は白鵬をまだやれると思っていますし、まだやれる者が怪我や病気を懸命に治療することによって横綱の名誉が傷つくとは露ほども思いません。白鵬の品格力量抜群はまだ揺らいでいません(※鶴竜はさておき)。ただ、舞の海さんの意見が「正論」と持ち上げられる状況を見ると、品格抜群の揺らぎは近いなと思います。おそらく次に土俵に上がる場所、本人筋からは「七月場所」というコメントが出ていますが、近いタイミングにおいて「怪我が治ろうが治るまいが」出場する場所があり、そこで進退を懸けることになるのでしょう。
それは追い込まれたからではなく、横綱だからです。
ルール云々ではなく、横綱だからです。
誰よりも厳しく「品格力量抜群や否や」を自問自答する横綱だからです。
パッと辞めるのも、一年くらい休むのも、怪我も治りきらずに進退を懸けるのも、品格力量抜群の横綱として何ら矛盾ある態度ではないのです。むしろ「横綱になってしまったがために辞めざるを得なくなってしまった者」こそいるはずがない。そういう思いで横綱をつとめた者がいるなら、選んだ側の目が節穴だったと僕は思います。禅問答のようですが、横綱であればこそ、そんな思考になるがずがない。決断を任され、委ねられるに足る存在である横綱は、「得なくなってしまった」などと思うはずがない…僕はそう思う者なのです。
↓進退は何回も懸けるものではなく、決めた1回で「足るや否や」を天と自分に問うべきだと思います!
鶴竜、初場所休場 陸奥親方「来場所、引退を懸け」#sumo #大相撲 #鶴竜 #初場所 #大相撲初場所 https://t.co/dgHa11qR3J
- 日刊スポーツ (@nikkansports) January 8, 2021
「進退を懸ける」
「と思ったが一旦ナシ」
「次こそは進退を懸ける」
「と思ったらコロナか…」
「コロナが落ち着いたら進退を懸ける」
「つもりだったが、腰がちょっと」
「治ったら今度こそ進退を懸ける」
「のはずが、腰がまだダメ」
「今度は絶対に進退を懸ける」
「あー、また怪我したからダメ」
「今度は必ず絶対確実に進退を懸ける!」
という一連の流れが横綱っぽくないです!
事前に懸けなくていいから、出られたときに渾身の進退を懸けましょう!
ちなみに、念頭に置かれていそうな横綱は「一片の悔いなし」だそうですよ!
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