外食大手のワタミ株式会社が、弁当宅配事業「ワタミの宅食」の営業所長を務める女性社員Aさんに対し、残業代の未払いがあったとして、高崎労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが9月末に報じられた。

 時間外労働は最長で月175時間に上り、出退勤記録を上司が書き換えて休日の出勤記録が消されていたこともあったという。

「ワタミの宅食」は、主に高齢者を対象として、ワタミの工場で製造した弁当などを、一週間ごとにまとめて予約を受け、毎日配達員が自宅まで届けるサービス。コロナ禍をはさみ、こうした宅食事業は急成長しているとも言われている。

 過労死問題で注目されることが多かったワタミ。今年1月には「ホワイト企業大賞特別賞」を受賞したが、結局は何も変わっていなかったのか。10月2日に厚生労働省で会見を開いたAさんに、その実態を聞いた。


インタビューに応じたAさん ©文藝春秋

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週7日勤務で月の残業が170時間を超えた

――苛烈な長時間労働は、いつから始まったのでしょうか。

Aさん きっかけは、今年2月に2つの営業所の所長を掛け持ちで担当するようになったことでした。

 所長といっても、営業所には他に社員がいません。「ワタミの宅食」は、契約したお客様分のお弁当が営業所に届き、10人から20人の配達員が個人事業主としてそれぞれ担当するお宅に配達する形をとっています。所長はそうした配達員の仕事の管理や商品の管理、販促キャンペーンなどを担っているのです。

 しかし、配達予定をキャンセルする配達員が出てしまうと、「代配」が必要になります。これをやるのは結局、社員である所長しかいません。私の担当していた営業所は群馬県にあり、自家用車に30軒分のお弁当を詰め込み、100キロ以上運転しなければいけませんでした。ガソリン代は当然、自腹です。

 さらに、ワタミの宅食は「職」の提供も掲げていましたが、人を採用するばかりで研修は現場任せ。中には配達先への道筋を覚えられない人や配達先とトラブルになる人もいて、そうした配達員たちのフォローやクレーム対応も所長がこなしていました。その中で、配達員の人ともトラブルになることもありましたし、お客様の家に土日に謝りに行くこともありました。

 本来、土日は所長の休日なのですが、私の営業所は土日にも配達がありましたから、土日はそうした謝罪などの対応以外にも、電話対応や「代配」で働かなければいけません。

 結果、週7日働く日々が続き、6月から7月にかけてはまったく休憩が取れない状態で27連勤。その間、残業時間は175時間を超えました。いつの間にか、「このまま倒れたら楽になれる……」と頭によぎるようになり、休職を余儀なくされました。

親切な行為であるかのように勤怠を「修正」

――いつ、残業代の未払いに気がついたのでしょうか。

Aさん 休職にあたって、休暇の申請を確認しているうちに、出したはずの休日出勤記録が消えていることに気がつきました。

 もともと、会社には労働時間短縮の「目標」があり、上司のエリアマネージャーから、残業時間を月30時間以内に抑えるように指示されていました。

 もちろん、長時間の残業をしないと、この業務量は片づきません。ですから、私自身も実際の労働時間よりも少なく修正していました。

 ただ、それでも時間がみなし残業時間を超えてしまうこともある。そんなときは、エリアマネージャーから「私がいじります」と、まるで親切な行為であるかのように勤怠の「修正」を宣告されることまでありました。

 ワタミの宅食では、記録した出退勤時間に本社の人間が手を加えられるシステムとなっていました。休日出勤記録の消去も、そこで行われていたのだと思います。

 エリアマネージャーは「残業時間が月に50時間を超えると、労基に目をつけられる。そうなったら会社が潰れる」といっていました。業務量はそのままに、時間だけをあくまで「労基署対策」として調整していたんです。

「ありえない」とお思いかもしれませんが、どこか納得している自分もいました。「修正」宣言はショックではありましたが、私自身もタイムカードを少なく見積もって提出していましたし、いまから思えば「会社に洗脳されていた」のだと思います。もしかすると、上司が私にしたように、当時の私も同僚を「洗脳」していたかもしれません。その意味ではまさに、“異常な環境”でした。

相談しても「何の返事もなかった」

――業務量の多さを会社や労働組合に相談したことはなかったのでしょうか。

Aさん 休日も深夜も電話がかかって来る状況があまりに連日続いたので、「せめて土日は電話を切れないか」と上司に相談しました。

 しかし、「お客様第一主義だから」と取り合ってももらえず、さらには「業務量が多いのはあなたの配達員教育がなっていないから」と逆に批判されることさえありました。

 社内には「ワタミヘルプライン」という相談窓口はありましたが、社内では「彼らは社員ではなく経営の味方だ、形だけの存在だ」といわれていました。

 なので、直接、支社長や事業部長といった上司にも手紙を書いて、このままだと限界です、なんとかこの状況を変えて欲しいと訴えました。

「会社あっての労働者だ」と言わんばかりの回答

 それでも会社からは何の返事もありません。ゼロ回答が続くばかりだったのです。

 そんなある日、突然、エリアマネージャーから「Aさんの言動が原因で一部の配達員の方とトラブルになっている」と告げられ、異動が言い渡されたのです。

 完全に青天の霹靂でした。というのも、私にはまったく事情聴取のようなことがなかったからです。

 あれだけ私が労働状況の改善に声を上げても耳を貸してくれず、「トラブルがあった」と一方的に言うばかりで私の話を聞こうともしてくれない会社……。日々の労働で追い込まれていた気持ちの糸が、ぷつんと切れたような気がしました。

 私としては、いきなり「あなたの言動が問題を起こした」と告げられただけですから、せめて私の意見も聞いて欲しい。そう思って、労働組合に問い合わせたこともありましたが、「本社に問い合わせましたが、現在対応中ですという回答を得ました。労組としてはこれ以降の取り組みはしません」という返答があるばかり。

 ワタミ労組の中央執行委員長に電話で相談すると、「お答えできない」「何もできない」「(タイムカードを改ざんした)エリアマネージャーも組合員の一人で、多くの方が関わるから、会社と(歩調を)合わせないといけない」「会社寄りと言われるかもしれないが、ワタミ労組は会社とスタンスが同じと捉えてもらって問題ない」と、にべもなく対応を拒否されてしまいました。

 さらに、ワタミ労組が加盟しているUAゼンセンに問い合わせた際に至っては、〈組合員の雇用と生活は会社あってのものであり、会社の成長(生産性向上)に協力する事で雇用の安定と労働条件の改善がかなうことを重視〉するのが自分たちの立場であるとメールがありました。「会社あっての労働者だ」と言わんばかりの回答に唖然としました。会社の対応に加えて、二重に裏切られた気がしました。

「あ、組合費を払い続けてきたけど、彼らは困ったときに味方になってくれないんだな」と、“外”の人に助けを求めることに決めたのです。

これまでの“無回答”ぶりが嘘のように

――会社の対応が変わったのはいつからでしょうか。

Aさん 実際に風向きが変わったのは、9月28日に、労働基準監督署から是正勧告を受けたことを取り上げた今野晴貴さんの記事(「ホワイト企業」宣伝のワタミで月175時間の残業 残業代未払いで労基署から是正勧告)が公開されてからです。

 即日、ワタミは公式ホームページに「謝罪文」を公開しました。私のもとにも、現社長の清水邦晃氏から直筆の謝罪文が速達で送られ、連日に渡って対応がとられるようになりました。

 また、UAゼンセンやワタミの労働組合からも、これまでの“無回答”ぶりが嘘のような対応がとられるようになりました。

 たとえば、ワタミの労組の担当者から夜の8時頃に突然電話がかかってきて、「家から30分くらいのところにいるので、いまから会えないか」というのです。用件を聞いても要領を得ず、しまいには「あなたの体調が悪いようであれば、ご家族の方と話し合いたい」と、私の家族まで巻き込むようなことをいわれました。

 あれだけほったらかされたのが嘘のように、こうした連絡が毎日のように何度も続いています。

 ただ、ワタミ労組を通じて自分が具体的に何ができるかを知りたいと思い、労働組合の規約やユニオンショップ協定などを見たいと労組に求めたところ、1週間以上たったいまも音沙汰はありません。

「末端で何が起こっているのか知っていますか?」

――ブラック企業批判を経験したワタミは、ホワイト企業へと変わったことをしきりにアピールしていました。今後、ワタミは変われると思いますか。

Aさん 思いません。問題を正せるような組織になっていないからです。

 今回、ワタミは「是正勧告を重大に受け止め、経営責任を明確にするため」として、代表取締役会長兼グループCEOの月額報酬を6ヶ月間50%減俸、代表取締役社長兼COOの月額報酬を同じく6ヶ月間30%減俸するという処分を発表しました。

 しかし、問題は上層部が責任をとればいいという話ではないと思います。そもそも、会長の渡邉美樹氏をはじめ、会社の上層部は末端でどういうことが起きているのか、ご存じないのではないかと思うからです。

 現場の所長たちはギリギリのところでがんばっていますし、配達員の方も決して高くない手数料で働いています。この現場の実情が適切に共有される仕組みにならない限り、状況は何も変わりません。代表取締役の減給で解決する問題ではないのです。

 何より変えるべきは、こうした状況や問題の共有が進まない体質です。9月28日に記事が公開されるまで、私が何度労働環境改善を訴えてもロクな回答がなかったのに、記事が公開された途端、手のひらを返したように「謝罪したい」「問題を解決しよう」と相次いで連絡が来るようになっています。

 どうしていままでは放置していたのに、世間に騒がれたら急に手のひらを返すのか。これでは、現場で働く人間は「会社は自分たちのことを見ていない、世間からの評判だけ気にしているんだ」と思ってしまいます。

 こうした不誠実な対応をとる体制を改めて欲しい、現場の置かれた状況が適切に上層部に伝わって欲しい。それが、いまの率直な思いです。

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 Aさんは現在、残業代の未払いだけでなく、違法な時間外労働や違法な休日労働についても、労働基準監督署に申告しているという。

 9月15日に労働基準監督署の是正勧告が出た後も、不誠実な対応が続いたというワタミ。Aさんの訴えは、どこまで届くのだろうか。

(「文春オンライン」編集部)