『江戸前の旬』原作者が語る「寿司はどれから食べるべきか?」

マンガ雑誌『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)で、1999年から今も連載が続く、“老舗” の寿司漫画『江戸前の旬』。寿司の具である “タネ” のエピソードを中心に、すでに100巻が発売されている。原作者の九十九森先生が、「寿司ウンチク」を存分に語ってくれた。
*
「カウンターの寿司屋に行ったら、最初は『おツマミにしますか? 握りにしますか?』と聞かれると思いますが、ふつうのところでは、何品かおつまみで頼むのがいいですね。
ただ厳密に言うと、本当はツマミとにぎりでは、使うタネが違います。それは、寿司ダネは熟成させたほうがウマいものが多い一方で、刺し身はあまり熟成させないほうが美味しいからです。
日本橋(東京)にある『はし本』っていう日本料理屋のご主人に教えてもらったんですが、和食の場合は、『店主の目利きをみてもらうために魚は熟成させない』そうなんです。『今日はこんないい魚が入りましたよ』っていうのを味わってもらうために、あえて熟成させずに出す、という。寿司屋のツマミの刺し身も、この考え方ですね。
だから実際、『うちは寿司のタネをおツマミにできません。刺し身はあまりすすめません』という寿司屋もあります。とくに『熟成ずし』を売りにしているお店がそうで、銀座(東京)の高級店『やまだ』も、ほとんどお客さんには刺し身を出さない。私は、『マコガレイを2〜3日寝かせたあと薄造りにして、ネギとポン酢で食べさせて』と無理を言って頼んだりしますけど(笑)、それは常連の楽しみのひとつですね」
ツマミを食べたあと、「寿司はなにを頼んだらいいか」も、初心者の悩みのタネだ。
「マナー本を読んでいると、『 “おまかせ” よりも、並・上・特上なんか “お決まり” で頼んだほうが、嫌いなものが出てこない。だから “お決まり” を頼むべきだ』ってよく書いてあるんですが、たぶん違います(笑)。
“おまかせ” だと勝手に出されるイメージがあると思うんですが、良心的なお店だったら必ず『嫌いなものはありませんか?』って聞かれるんですよ。そしたら、たとえば『貝類が苦手です』って言えますよね。ところが “お決まり” だと、貝類は最初から入っています。
内容がわからずに頼んで、嫌いなものが入っていたらイヤですよね。どうしても値段優先のときは、 “お決まり” を頼むときに何が入っているか聞いてみてください。それで教えてくれないところには、二度と行かなければいいんです(笑)」
いざ寿司が出てきたら、「どれから食べるか」も気になるところだが……。
「本でもお店でも、『淡白な白身から食べましょう』といわれることが多いですが、『わかってないじゃん、ふざけるな!』と(笑)。白身が “淡白” なわけないんですよ、いちばん旨味が強いんですから。赤身より強い。
白身の特徴は、最初それほど感じなくても、白身特有の旨味が後味にすごく残るところ。だからずーっとあとに引くんですよ。赤身にはそれがなくて、食べた瞬間はガツンとくるんですが、旨味が消えちゃう。
“淡白が先” なんだったら、イカから食べるのがいいと思います。イカは間違いなく淡白ですから、そっちのほうが理にかなっている」

ただ、「白身から食べよう」という風潮が広まっている理由もある。
「新鮮な魚を寝かせずに、そのまま出す店が多いからだ思います。新鮮なままだと、甘みも旨味も足りないので、たしかに淡白かもしれない。ちょっと熟成させるだけで旨味は強くなるんですが、そうしていないということ。
とくに地方のお寿司屋さんは、タネを朝買ってきて、そのまま使いますから、淡白と思っているのかも。最近、東京で『熟成ずし』がちょっとしたブームですが、それでも地方にはあまりないのは、お客さんの “新鮮好み” に合わせているからです」
実際に地方では、こんなケースもある。
「新鮮な魚貝類をそのまま食べる文化の函館(北海道)の、とある大きなお寿司屋さんの若旦那が、東京で修行しました。その人が、『函館に帰って、ちょっと寝かせたタネを出したら、最初はすごく不評でした』と言っていて。
函館では、江戸前の熟成の基本ともいえる、シンコやコハダ(ともにコノシロの幼魚、若魚)も食べられていません。そもそも北海道では獲れないので、その若旦那は、築地から仕入れてシンコを出していた。
シンコやコハダ、それからマグロなんかは、だいたい東京に一番いいものが集まります。そうしたタネは、地方のいいお寿司屋さんですと、近くの魚河岸ではなく、築地から直接仕入れていることが多いですね。
ちなみに、函館の若旦那が握ったお寿司でいちばん美味しかったのは、漫画でも何回も描いていますが、タラコの握りです。タラコを切って、形づくりのためのシソの葉に乗せて、握って出してくれるだけの寿司。ただ、タネのタラコは、わざわざ業者に頼んで、自分の好みに塩加減にしてもらったそうです。市場に出ているタラコを出すと、しょっぱすぎるから」
「白身から」以外にも、「“お決まり” は左手前から食べよう」という説も普及している。
「これはたしかに本当で、寿司屋で “おきまり” を出すときは、『左端手前から食べるように』と置くそうです。そして、そこに白身が置いてあることが多いのも、『白身から食べるように』という “迷信” が広まった理由のひとつです。
でも、トロから食べようがウニから食べようが、そんなの勝手ですよね。個人的には、『なんのためにお茶やガリがあるんだ!』と思います(笑)。
そうそう、お店によっては “おまかせ” でもトロから出すところもあります。『うちのトロはどうだ!』という、喧嘩腰の姿勢らしいんですが(笑)。
そういうお店にかぎって、『お前のところはどんな寿司を出すんだ』と、挑戦したがるお客さんが来る(苦笑)。“決戦” に居合わせてしまったら、そそくさと退散しましょう。寿司屋はあくまで、会話もふくめて “楽しむ場” というのを大切に!」
つくもしん
青森県出身 漫画原作者 作画担当のさとう輝先生とコンビで週刊漫画ゴラクで連載中『銀座「柳寿司」三代目 江戸前の旬』、スピンオフ作品の『寿司魂』『旬と大吾』『ウオバカ!!!』などを執筆。メディアへの出演は、連載20年で「ほとんどない」そう
(C)九十九森/さとう輝・日本文芸社
※『江戸前の旬DELUX』1巻が、日本文芸社より2020年1月29日に発売
