ファミリービジネスが世界のリーディングカンパニーを生み出す母集団に

写真拡大

 同族企業という言葉には、どことなく古くさいイメージがつきまとう。しかし世界的に見れば、同族によるファミリービジネスが長期的な成長で再評価されているのも事実。実際、グローバルなリーディング企業を見渡すと、国内外を問わず同族企業が決して少なくない。それでは同族企業にはどのようなガバナンスが適しており、どのように世代交代や事業承継を進めていけば良いのか。早稲田大学大学院商学研究科ビジネススクール(MBA)教授で、国際ファミリービジネス総合研究所所長である長谷川博和さんに聞いた。

 ―ファミリービジネスという学問分野があるのですね。
 「一族で株式を所有している企業が同族企業と呼ばれるが、その中でも成長を志向している企業をファミリービジネスと位置づけている。新しいビジネスモデルで成長しようとする企業にはベンチャー企業があるが、こちらは皆1代目。ファミリービジネスは方向性は同じだが、2代目、3代目というジェネレーションの要素がここに加わってくる」

 「ファミリービジネス学会では、さまざまなファミリービジネスのケースを研究し、同族企業ではない企業とどのような違いがあるのかを分析している。また後継者をどのように育て、事業を承継していけば良いのかなども研究している。海外ではスイスのIMDや英国のオックスフォード、ケンブリッジ、米国のケロッグ経営大学院やバブソン大学がファミリービジネスの研究で進んでいる」

 ―研究はどのように生かされているのですか。
 「大半の同族企業は株主総会さえやったことがないのではないだろうか。ただ2代目、3代目まではそれで通用しても、代を重ねるごとに経営にはタッチしていないが株主ではある親族も増えてくる。欧米では、一族のあり方を示すためにファミリー憲章を策定し、一族間の問題の解決にはファミリーオフィスを設けるのが一般的になってきた。日本でもファミリービジネスを成功させるためには、これらのような仕組みが必要となる」

“三方良し”こそ優れた点
 ―日本にも長い歴史を持つ同族企業は存在します。
 「日本のファミリービジネスにも優れた点はある。その一つが、近江商人の“三方良し”の考え方で、特に三つ目の世間良し。例えば、中小企業が最新設備を入れて生産現場を合理化した場合、欧米では必要でなくなった従業員は解雇し、生産性を向上した分を、収益や配当のアップにつなげる。それが日本だと、業績が良いのに従業員をクビにしたとなれば、その地域で出歩けないという意識になる。だからこそ、余剰となった人員のために新しい事業に乗りだそうとする」

 ―多くの中小企業で後継者不足が深刻です。子どもがいても継がないケースが少なくないです。
 「企業理念と夢があるのかという点がファミリービジネスでは大切。それがあれば、ファミリービジネスにはチャンスは多い。大企業と違ってスピードのある経営判断ができ、一致団結もできる。またベンチャー企業と違って人材や事業という基盤がすでにある」

 「一般的な上場企業やベンチャー企業では、どうしても短期的に業績を上げていかなければならないが、ファミリービジネスであれば20〜30年という長期的視点で成長を狙うことができる。日本でもグーグルやフェイスブックのようなベンチャー企業が生まれてほしいとは思うが、それ以上にファミリービジネスが世界のリーディングカンパニーを生み出す母集団になり得るのではないだろうか」

 ―ただ多くの企業では、思うように成長できていないようにも見えます。
 「いくつかの先駆的な企業は高いパフォーマンスを示しているが、大半の企業がポテンシャルを生かし切れていない。まだまだファミリービジネスに対する知見が深まっていないし、ファミリービジネスの経営を学べる場も少ない。同族企業というと、相続時の節税対策などがどうしても中心になってしまう。金融機関も運転資金を融資しながらも、実際は相続時に大きな金額が動くことを狙っていたりする。ただ最近では地方銀行などでも取引先に対して二世塾や三世塾などの勉強会を組織しているところが出始めており、少しずつ状況は変わっている。ファミリービジネスを成功させる政策も増えてほしい」