才色兼備の″カリスマ読モ″から一転、田舎帰省にまで追い込まれた女。SNS風評被害の脅威とは
女同士の闘いなんて、くだらない?
美貌・財力・センスのすべてを手に入れた女たちが繰り広げる、ヒエラルキー争い。
男からは求められ、女からは妬まれ、そして羨望の的となるカリスマ読者モデルの世界。
己の自己顕示欲を隠すことなく曝け出す彼女たちは、時に結託し、時に競い合う。
くだらない、と思うならどうか覗かないで欲しい。
優雅で美しくも、水面下で死にもの狂いで闘う、女たちの醜い生き様をー。
そして、ライバルの景子がフォロワーを購入している件を告げ口してスタイルブック発売の座を手に入れるが、本の売上げ低迷を気にした読モ仲間の一人が、卑劣な行動を起こす。

「木下さん。お話があります。」
副編集長の大沢から折り入って話がある、と呼び出された時に感じたイヤな予感が的中した。
編集部に向かうと、編集長が珍しくデスクに座り真剣な表情をしている。大沢にも笑顔はなかった。
ーもしかして。
2週間ほど前に、広告代理店勤務の真奈美が、後輩を使いSNSで景子のスタイルブックの売り上げを妨害するような噂を流し始めた。
どんな手を使ったのかは知らないが...その結果は、目を覆いたくなるようなものだったのだ。
景子のInstagramには普段の倍量のアンチコメントが押し寄せ、twitterには景子の写りの悪い画像が 「#フォロワー購入!エセインフルエンサー 」というハッシュタグで流布されている。
真奈美からの報告を受けてチェックすると、景子の本のAmazonのレビュー欄は荒れに荒れていた。そんな異常とも言える景子叩きの風潮に、他の読者モデル達が気づかないワケがない。
彼女達を中心に、それが「あおいの仕業ではないか」という噂がまことしやかに流れていることも、耳に入ってきている。
内密な話だからと別室の会議室に移動した途端、普段あまり話すことのない編集長が口を開いた。
「今日、なぜ木下さんをお呼びしたのかお分かりですか?」
あおいがGLORY編集部に呼び出された理由とは...?
...私のせいじゃない。
「なんでって...」
心当たりは、有りすぎるほどだ。だが、あれは真奈美が勝手にやったことで、自分の意思ではない。
それを早く、知らせなければー。
だが、焦れば焦るほど、何を伝えたら良いのか分からなくなってしまう。口ごもるあおいを見て、大沢が口火を切った。
「高田景子さんに対する度を越した中傷を、GLORYの読者モデルの誰かがネット上に悪意を持って流している、という話が編集部に入ってきています。例えば写真の画像加工をし過ぎていて、本物とは似ても似つかない、だとか...」
大沢が、こちらをジロリと見据える。
「フォロワーを購入している、だとか。」

たしかに大沢に告げ口をしたのは事実だが、SNSで勝手に噂を流したのは自分ではない。真実を分かって欲しく、あおいはつい大きな声を出してしまう。
「違います、私じゃありません!高田さんのフォロワーを購入の件はうっかり森田真奈美さんに話しましたが......噂を流したのは彼女です!彼女が会社の後輩に頼んで勝手にやったことで、私は止める間も無かったんです!!」
それは、嘘ではない。
そして、罪悪感もなく人を蹴落とす真奈美や珠緒を見て、自分のような中途半端な意気込みではこの世界で生き残れないことも悟った。
だが、あおいの言い分を聞いた編集長は大きく咳払いをした。
「木下さん、まだ事の重大さが分かっていないようですね。実は、もう既に”誰がやったか”というレベルの問題では無くなってしまっているんです。」
予想以上の大事になってしまい、戸惑うあおいに更なる衝撃が...?
まさかの、クビ宣言
「...どういうことですか?」
厳しい表情を見せる編集長に、あおいはもう自分が無傷では済まないと予感する。
「他社で出版されている高田さんへの中傷が明らかに度を越しており、個人情報すら晒されている状況で、しかもそれがGLORY側の人間によるものという噂もかなり広まっています。ここまでくると、個人間のトラブルでは済まなくなり、会社間の問題に発展するかもしれない。のちのち訴訟問題等に発展した時に、うちでは木下さんを守れないんですよ。」
ー訴訟問題...?
血の気が引く、というのはこういうことだろうか。平静を装っているつもりだったが、手がカタカタと震えてしまう。
「まぁ...木下さん。こちらは現状をお伝えしたいだけで、あなたを脅すとか、疑う訳ではないんです」
あまりに震え上がるあおいの様子を見かねたのか、大沢が少し表情を和らげながら言った。
しかし、景子がこんなにもネットで叩かれていること、それを景子が自分のせいだと思っていると想像しただけで、どうしようもなく胸が痛んだ。今後の対応についての説明も、全く耳に入ってこない。
「...そういうことなので、しばらく木下さんには当誌へのご登場を控えていただくことになります。既に発売済みのスタイルブックについても、後ほどご連絡いたします。」
ークビ、ってこと...?
そう言って、2人はそそくさと出て行ってしまう。会議室に取り残されたあおいは、あまりのショックにその場に突っ伏してしまった。
◆
「やっぱり東京って違う!」
宮崎から遊びに来ている妹・梢は、学生のようにはしゃいでいる。今日はどうしても『ELLE café 青山店』に行ってみたいというので、表参道にやって来た。

すでに人妻とはいえ、子供のいない専業主婦である梢は、まだまだ娘気分が抜けない。
楽しそうにしている妹を見て、読者モデルをクビになったことで落ち込んでいた気持ちが少しだけ癒された。
でも…。
少し前までは「才色兼備の“カリスマ読モ”」ともてはやされていたのに、最近は仕事でも単純なミスを連発し、厳重注意すら受けている。
何より辛かったのは、自分がGLORYに出なくなっても紙面は相変わらず華やかで、あおいのポジションには何事もなかったかのように他の読モがアサインされていることだ。
かつては仲間だと思っていた真奈美や美由紀からも、一切連絡はない。もちろん...景子からも。
ー私がいなくても、何も変わらないんだ。
仕事も上手くいかず、友人は一人残らずいなくなった。
目の前で嬉しそうに「ストロベリーボンボン」を頬張る梢を見て、資生堂パーラーでスイーツを頼もうとした優のことや、G3メンバーと仲が良かった頃にこの店に来た時の思い出が蘇り、涙が滲みそうになる。
あれだけ東京の華やかな生活を誇りに思っていたのに、すべてが一気に崩れ去った今では、いっそ宮崎に帰りたい気持ちに駆られてしまう。
「あっ、そうだ!そういえば木村のおばさんが、この間お姉ちゃんにお見合の話を持って来ちょったよ。」
「お、お見合い...?」
タイミングが良すぎる妹の提案に、あおいは思わず息を飲むのであった。
▶最終回:4月6日金曜更新予定
何もかも失ったあおい。故郷・宮崎で人生をやり直すー?
