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若くして亡くなったSF作家、伊藤計劃氏の作品を劇場映画化する企画『Project Itoh』3部作の最後の作品として、2月3日(金)に劇場公開される『虐殺器官』。

【虐殺器官】中村悠一&櫻井孝宏、口を揃えて“難しい役だった”と語る舞台裏【撮り下ろしインタビュー】

多くのアニメファンが知るように、本作は3部作の第1作として2015年10月の公開が予定されていたものの、制作スタジオの倒産というトラブルに見舞われてしまい、一時は作品の完成すら危ぶまれました。

しかし、本作を手がける山本幸治プロデューサーは新たに「ジェノスタジオ」を立ち上げて制作を継続。倒産から新スタジオ設立までのいきさつや、アニメーション映画として作られる『虐殺器官』のこだわりをお聞きしました。

スタジオ倒産、乗り越えなくてはならなかった“ハードル”

――多くのファンが気になっているところからお聞きできればと思います。この作品を制作していたスタジオであるマングローブが2015年に倒産してしまい、その後新たにジェノスタジオを立ち上げて本作を完成へと導いていると思うのですが、倒産から新スタジオ設立まではどのような経緯がありましたか?

山本:倒産したのは突然だったんですけど、倒産リスクというか、制作体制がグチャグチャなこととお金のことで苦労していることはある程度知っていたので、かなり念入りにチェックはしていたんです。

チェックとともに、現場まわりの改善処置は当時から考えていて、局プロデューサーとしては普段あまりしないのですが、別の制作会社の仲間に声をかけて人を呼んだりということもしていました。逆に言うと倒産した時に、すぐにこの作品をほかのプロダクションに移して作れる状態に無いことはわかっていたんですよね。まずそういう状態でした。

――かなり混乱していたんですね。

山本:制作現場はすごく混乱していて、乗り越えなくてはならないハードルがいくつかあったのですが、素材とか制作工程などの制作状況が霧の中で把握できないという大きなことがひとつ。

また、本当なら『虐殺器官』より1年後くらいに予定していた『GANGSTA.』というTVシリーズが出来なくなって、スタジオが倒産したんです。なので『虐殺器官』の制作を再開するためには、両方の作品に参加していたスタッフの方々に納得して続けてもらうため『GANGSTA.』含めた未払い問題を解決しないと、という金銭的なハードルもありました。

あと、スタッフの皆さんはフリーの人が多いので、すでに次の作品が決まっていたんですよね。それらを調整して、メインスタッフが入れ替わるにしても制作継続可能なのか? という問題がありました。

そのため逆に、あらゆる手を考えたというよりは、制作途中の素材を持って大手のスタジオで再開するのはまず無理なので、スタジオを新設するしかない。そのうえで、先ほどのお金の問題がある。フジテレビが払えるお金でもないので、特殊なビジネススキームを組まないとダメでした。

それができるかどうか2週間くらいかけて動いて、その線でいくとしたらどういう問題があるというのを最後の1〜2週間でつぶして、約1ヵ月で再開のジャッジまでこぎつけたんですが、僕のプロデューサー人生の中でも大変な時期でしたね(苦笑)

――制作をあきらめるという考えはなかったのですか?

山本:やりきってダメだったらあきらめるのもありかと思いましたけど、制作中止した時のダメージが、何億全損というデカいダメージなんです。制作を再開するにはそもそも無理めな解決策でしたが、そのウルトラC的な解決策が着地しなければ、制作継続は不可能とわかったので、ひとまずやれるだけやってみようと思いました。

「すごく難しいと思った」ある衝撃的なシーン

――それでは改めて本作の制作面の話をお聞きできればと思います。原作となる小説は伊藤計劃氏の処女作ですが、読まれた時の感想はいかがでしたか?

山本:僕は伊藤さんが亡くなられた後に『ハーモニー』から読んで、それから『虐殺器官』を読みました。『ハーモニー』は女子的な同調圧力に生きづらさを感じる人にピンとくる話で、『虐殺器官』も似たような生きづらい感じに焦点を当てた話だし、予言的な内容だと思っています。僕も比較的生きづらいので、すごく惹かれたっていうところはありますね(笑)

――具体的にどこに面白さ感じましたか?

山本:そういったテーマ的なことと、“物語の縦軸とガジェットが混ざる仕掛け”ですね。これらをミックスすることは、アニメのオリジナル企画をするときもすごく考えるんですよ。テーマって最後にどこかに感じるくらいでいいと思うので、実際の物語の躍動感と、ガジェットが1個いるといつも思っています。

それは『天空の城ラピュタ』でいうところの「飛行石」みたいなウソですよね。『ハーモニー』だと脳内にある「WatchMe」というシステムで。それがあまりに壮大なSF仕掛けだと、それ自体の説明に時間がかかるんですけど、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の「ゴースト」のようなものだと、ピンときてなんとなく体感しやすいですよね。

『虐殺器官』は、ガジェットとテーマの融合点、それと物語という3つのセットが非常によくできた原作だなと、最初からわかっていました。ただ母親というテーマも入っていて難解さがちょっとあったので、映画化するうえで最初の文芸の話では、そこをちょっと整理しようというところから始まったという感じですね。

――文芸面ですと、『ハーモニー』と『屍者の帝国』では山本さん自ら脚本を書かれていましたよね。

山本:ジェノスタジオの代表という立場にもなりましたし、今回は全然さわってないですね。本作の脚本は監督の村瀬修功さんがほとんど考えられたので、僕らは壁打ちの相手をしていた感じです。

僕としては、「子どもが殺せますか」と聞かれた主人公のクラヴィス・シェパードが実際に少年兵を殺していくシーンがあって、そこを観ている人にピンとくるように作るのがすごく難しいと思ってたんですよ。

――確かに衝撃的なシーンでした。

山本:子どもを殺すという非日常的なことに対して共感することはないと思いますけど、「戦闘前感情適応調整」をされているクラヴィスたちの心理状況の悲哀を、観ている人にわかるところまで導かなければならないので、文芸的にすごくハードルの高い作業なんですよね。

甲子園に出たいとか、好きな子に想いを伝えたいといった日常的に共感できる感覚からかけ離れているので、どこに気持ちを持っていけばいいのか調整するのが大変な作品だったと思います。でもそこを転機に物語がちょっと変わるので、そこはうまくいっているなと。

――映像的にも村瀬監督の魅力が出ている作品だと思いました。村瀬さんのお仕事はプロデューサーとしての目線から見ていかがでしたか?

山本:村瀬さんはアニメーターとしての評価が高いんですけど、とにかく文芸分析能力が高くて、映画とはどういうものかということをすごくよくわかっていらっしゃる方ですね。アニメーターを封印して監督仕事に集中しても超一流だと思います。

山本:作画はもちろん、光や色など撮影部分のフィルムメイクに対する技術もすごく高くて、それらを全部活かした作品ってなかなかないと思いますけど、(村瀬さんが監督した)『Ergo Proxy』はフィルムとしてすごくよかったのですが、それに匹敵するくらい村瀬さんの能力が発揮された作品になったんじゃないかなと思います。

――原作の雰囲気ともマッチングしていますよね。

山本:村瀬さんは各工程に対しての要求値が高すぎするので、それに全面的にこたえられる作品制作はなかなか難しくて大変なんですが(苦笑)

――本作はキャラクターデザインも村瀬さんがされているのですか?

山本:原案としてはredjuiceさんがいますが、最終的な落とし込みは村瀬さんがやって、恩田尚之さんなど何人か凄腕のアニメーターさんが一緒にやってくれています。クレジットを見ると人数がたくさんいるのでわかると思いますが、苦労もありました。

――苦労を乗り越えて制作されているんですね。キャストの方々のアフレコは制作が中断する前に撮られていたんですよね。

山本:そうですね、そこはやり直していないです。

――キャスティングでこだわったところや、クラヴィス役の中村悠一さんを始めとする声優の方々の印象などをお聞かせ頂けますか?

山本:いつも驚くのは声優さんの技術の高さと、読解力の高さですね。特にアフレコのときは(映像が完成していなくて)真っ白なので、本当にすごいなと思うんですよね。

僕はプロデューサーとして物語のアウトラインの把握はしていたし、監督がリテイクしているときの意図についてわかる部分もありましたが、ただでさえ難解な話なので、どこにチューニングを合わせるかという軸をすごく手探りしてやっていったんだろうなと思います。本当に、声優さんによって成り立っている作品っていっぱいあるなと思いますね。

――今回も主題歌はEGOISTさんが歌われていますが、そのあたりも山本さんが選出されているんですか?

山本:僕はEGOISTさんの関わっているアニメ作品は『ギルティクラウン』から『甲鉄城のカバネリ』まで全部やっています。時代のトレンドと硬質なかたちの融合が象徴的に行われていると思っているので、毎回頼んでいますね。

失われてしまった、3作連続で出す「意義」

――現在の制作状況についてお伺いします。昨年12月15日に行われた「ノイタミナプロジェクト発表会2017」で冲方丁さんたちがご覧になって、「あとは絵がつくだけ」といった話が出たと思うのですが。

山本:あれからはだいぶ進んでいますけど、まだ(1月16日時点)完成はしていないですね。

――2月3日までには完成しますよね……?

山本:もちろんもちろん。アニメはリテイクしてなんぼなので、キリがないですけど、どんどん良くなっていると思いますよ。『東京国際映画祭』の『TIFF アニ!!』で上映されたものは冒頭15分だけ見るのに見やすい形で落としたカットもあるので、カットしたところが追加されたりするものもあります。

――今回アニメーション映画『虐殺器官』が完成すれば、伊藤計劃さんが残した3作すべてが劇場映画化されますが、3作を手がけてみての心境はいかがですか?

山本:3作連続して出していく意義のようなものは『虐殺器官』の制作中断によって失われてしまったところがあるので、完成させて初めてその辺も語れるのかなと思います。

『虐殺器官』から観てもらいたかったところはあります

山本:『屍者の帝国』は円城塔さんが書き継いだ別のストーリーが付いているので、それはそれで特別なんですけど、伊藤計劃さんの作品の魅力である人を揺する感じとか予言的な部分は、まず『虐殺器官』があってその次に出てくるところがあるので。そういったところまでお客さんに伝える機会は、失われてしまったかなと思っています。

――お客さんに観て頂きたい順番としては、やっぱり『虐殺器官』から?

山本:順番を揃えて観ないと話がわからないということは全くないんですけど、やっぱり伊藤計劃さんという人を知ってもらうといった、映画を観るということから作品周辺への波及においては、トラブル抜きに『虐殺器官』から観てもらいたかったところはあります。

今回のプロジェクトの意義みたいなものってそういうことだと思うんですよね。自分の中で「映画を観る」ということがちょっと変わったとか、この作品をきっかけによく映画を観に行くようになったとか、そういうこともエンタメの効能だと思うんですけど、トラブル続きで、マイナスのほうがいまのところ大きい。『虐殺器官』でいい結果が出れば報われたりはするんですけどね。

当初思っていたプロジェクトは、世の中的にはその瞬間のトレンドではないものだけど、いま注目してほしいというものを連続して出していこう、というような意図があったので。……うまく言えないのですが、複雑ですね。

――過去2作品について、ご自身の中での満足度や、こういうところを観てほしいというところはありますか?

山本:ちょうど地上波で深夜に放送するので、それで観てもらいたいなと思います(『屍者の帝国』は放送済み、『ハーモニー』は2月4日(土)26時20分からフジテレビにて放送)。映画なので興行収入はもう少しいきたかったから正直満足はしてなくて、『虐殺器官』でどれだけそれを取り返せるかというのが勝負ですかね。中身のことはお客さんが感じることなので、僕がどうこう評価してもしょうがないです。

――実際に観てもらわないとですね。

山本:そうですね。前売り券の数字だけを見ていても、『虐殺器官』はいい数字なので、予定していた順番で公開できなかったことがほかの2作には申し訳なかったと思います。

『ノイタミナ』が生まれた背景

――2016年のアニメーション映画界は『君の名は。』や『この世界の片隅に』といった作品が大ヒットして、これまでアニメーション映画をあまり観ていなかった若い層やご年配の層がたくさん劇場に足を運ばれ、より一般化した年だったと思います。

山本さんはかつて『ノイタミナ』において「アニメで月9を作る」というような意気込みで手がけられていたと思うのですが、そんな2016年という年をどのように見られていましたか?

山本:「アニメの月9」っていうのは当時から矛盾したビジョンだと思っていたとこがありました。ずっとアニメのメインだったゴールデンタイムの『ONE PIECE』みたいなものと、深夜アニメの乖離みたいなものが起こっていた間でやっていたのが、『ノイタミナ』だったんです。

その両方にいけるようなものを作るというのが『ノイタミナ』は宿命的にあったので、まさに『君の名は。』は、ずっとある映画文化・娯楽的な文化と、『ガールズ&パンツァー』のように同じお客さんが何度も観に行くような作品という間の乖離を、力でねじ伏せたような作品だったと思います。

――トラブルがあったとはいえ、その流れを汲む2017年の2月に『虐殺器官』が公開されます。山本さんにとって、いまアニメーション映画を作ることについて、どういう風に思っているかお聞かせ頂けますでしょうか。

山本:『虐殺器官』は『君の名は。』のような作品では正直なくて、よりコアなものなんですよね。僕はいつも作品を作るときに、第1ターゲットとしてどういう人が本当に観たがっているのか、ということをちゃんと考えるとともに、ターゲットに入らないようなプラスアルファの層ってどこだろうということも考えるんです。

そういうときに本作は社会派的な方向をすごく考えていて、アニメファンではなかった人が観るということが――その数は『君の名は。』ほどのことにはならないかもしれないですが――そういうプラスアルファみたいな人たちを取れるといいなと思っている作品ですね。

今この瞬間のアニメのトレンドには興味がないけど、これをきっかけにアニメを観るようになった、という作品をいかに作れるかというのが使命だと思っているので、そういう意味では『ノイタミナ』との共通性はそこですね。

――仮に『虐殺器官』をTVである『ノイタミナ』でやる方向性は考えられないですか?

山本:どんどんTVが弱くなっていく中で、企画の特別性やどうやってみんなの注目度を浴びるのか、という中でいうと、こういったテーマ性のものをやる可能性は、今後あるんじゃないですかね。

いまのニーズでいうと、『虐殺器官』をTVでやったときにみんなが観たがるかというのはちょっとわからないです。TVアニメはずっとそうですけど、いま視聴者は特に癒しを求めていますから。疲れるじゃないですか、『虐殺器官』は(笑)

――骨太ではあるけれど、そういう意味でも劇場でじっくりと。

山本:そうですね。TVだと、癒しとノリですよね。みんなで盛り上がれるノリが大事なんですけど、『虐殺器官』はノリがいい作品ではないので。ノリよくバンバン殺すみたいなところはあるかもしれないけど(笑)なので、結果的に劇場っぽい作品だと思います。

――ありがとうございました!

トラブルに見舞われるも、それを乗り越えて作り上げるスタッフの情熱――。完成された骨太な作品を劇場でご覧になって、伊藤計劃氏が残したものや作品に込められたさまざまな想いをぜひ感じ取ってみてください。『虐殺器官』は2017年2月3日(金)より全国劇場にて公開中です。