【水泳】メダルの可能性十分。15歳・渡部香生子、進化の秘密
水泳界の新星、15歳の渡部香生子(かなこ)が、競泳・日本選手権(東京辰巳国際水泳場)でロンドン五輪のキップをつかんだ。
すさまじいデッドヒートだった。女子200m平泳ぎ決勝。150mは4選手がほぼ同時にターンした。大歓声の中、4コースの鈴木聡美が伸びる。3番手で折り返した5コースの渡部が追う。
164cm、55kgの小柄な体を逆に武器とし、抵抗の少ない泳ぎでピッチを上げていく。いわばイカやタコのようにふわっと足を動かし、ムチのようにしならせる「イカタコキック」。ラスト50mを36秒39でカバーし、ゴール直前で川辺芙美子をかわした。まさにタッチの差。3位との差はわずか0秒27だった。
お立ち台に立つと、渡部は顔をくしゃくしゃにした。涙があふれる。止まらない。
「2位の(電光掲示板の)表示が信じられなかった。ほんとうにオリンピックにいけるとは思っていなかったので…。最後、死ぬ気でがんばりました」
崖っぷちに立たされてのレースだった。3日前の100m平泳ぎ決勝では6位に沈んだ。高まる周囲の期待に押しつぶされそうになっていた。招集所でテレビカメラを向けられると、ぷいと露骨に嫌悪感を示した。
でも15歳の心は強かった。その悔しさをバネとし、自身の泳ぎに徹した。「最後は誰にも負けない」という自信の裏付けは、冬場の徹底した泳ぎ込みだった。逃げ場のない1カ月のグアム合宿。時には泣きながら、自身の限界に挑戦した。
「100mで悔しかったことは忘れて、200mに集中することができました」
修正したのは、ひじの角度だった。スタートとターンに注意し、手足のバランスを意識した。見事、プレッシャーをはねのけた。最後の追い上げと若さを見れば、1992年バルセロナ五輪での優勝の岩崎恭子(当時14歳)を思い出す。
奇しくも、表彰式では、今や一児の母である岩崎恭子さんがメダルを渡部に渡し、なぜか、もらい泣きする。
「私と違って、プレッシャーの中で結果を出したことは立派だと思う。落ち着いた泳ぎでびっくりした。伸びシロは大きい。ロンドンが楽しみです」(岩崎恭子さん)
進化のヒミツは負けん気の強さと素直さにある。泳ぎの柔らかさにある。もとは個人メドレーがメインだったけれど、中学1年の秋に右肩痛がきっかけで平泳ぎに転向した。昨年、早くもブレイクし、ジャパン・オープンで平泳ぎ3冠に輝いた。世界ジュニア選手権では200m平泳ぎで優勝した。
実は昨年秋から筋力強化に努めた。だがパワー頼りの泳ぎは繊細な動きとはマッチせず、かつての手足のバランス重視に戻した。麻積隆二コーチは言う。
「抵抗の少ない泳ぎを追及してきた。水中での推進効率は一番いいのではないか。いろんな経験をして、精神的にも随分、成長したと思います」
もちろん素材がいいのだろう。父は高校時代にボクシングで鳴らし、母が元スイマーというスポーツ一家に育った。何より、若さが魅力である。平泳ぎ歴としては、まだ2年半なのだ。どこまで伸びるのか。
世界をみれば、この種目には昨年の世界選手権金メダルのレベッカ・ソニ(米国)が君臨し、あとは横一線である。鈴木を抜けば、おのずと表彰台が見えてくる。
渡部の涙が乾く。ロンドンの目標を聞かれると、15歳に笑顔がパッと浮かぶ。
「オリンピックに向け、頑張って練習して、表彰台を目指します」
ピカピカの高校一年生(東京・武蔵野高)。過度な期待は禁物だけれど、どうしても岩崎恭子の再現をロンドンで見たくなる。
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