現場の苦労は…(写真はイメージ)

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職業ドライバーへのカスハラ最多はタクシー

 客が大勢いる飲食店やデパートなどでの店員に対するカスハラと違い、職業ドライバーのそれは、閉鎖的な空間で起きやすい。

【写真で見る】交通関係労働者の中で最も「カスハラを経験した」比率の高いタクシードライバーの現実

 陸・海・空で働く、交通関係労働者のための組織「全日本交通運輸産業労働組合協議会」が2021年に取ったアンケート調査によると、回答者の46.6%が直近2年間で迷惑行為の被害を受けたと回答。なかでもその傾向が顕著なのが「タクシー」だ。

 業界ごとに「カスハラを経験した」と回答したドライバーの割合をみてみると、バスが54.4%、鉄道52.4%、航空41.8%、トラック26.3%のなか、タクシードライバーは58%と最多である。職業ドライバーのなかでも「サービス業」の色の強いタクシー。その働く現場には、世間で知られていない苦労が多い。

現場の苦労は…(写真はイメージ)

 今回は、彼らが受けるカスハラや迷惑行為のほか、長距離客、給油など、あまり知られていないタクシードライバーの働く現場を前後編に分けて紹介したい。

タクシーが受けるカスハラ

 前出のアンケートで、全体の被害内容で最も多かったのが「暴言」(49.7%)、次いで「同じクレーム内容を繰り返す」(14・8%)、「威嚇、脅迫」(13.1%)「権威的(説教)態度」(9.4%)と続いた。ちなみに、86.4%が男性で、40〜60代が7割だという。

 タクシードライバーへのカスハラで目立つのは、暴力行為や土下座、金品の要求である。実際、現役ドライバーにこれまでどんな迷惑行為があったのか聞くと、

「行き先がナビに出てこず、場所を確認すべく声を掛けたら、助手席側の後部座席から無言で思い切り蹴られた」

「出発前に希望のルートを聞いたところ『道を知らない』とのことだったので、使い慣れた道を使って目的地へ到着。すると『遠回りしただろ、手元のGoogleマップと順路が違ったし到着予定時間も3分遅かった』と怒鳴られたあげく、支払いを拒否された」

 なかには、

「『黄色信号なんかで止まるなよ』と言われた」

「急いでいるんだから制限速度を守ってチンタラ走るな」

 などと、法律違反を強要する客も存在したという。しかも、タクシーが受けるクレームは、車内だけではない。乗客がSNSなどで主張している中でよく見かけるのが、「手を上げているのに止まらずスルーされた」という声だ。

客が立っている場所

 タクシーは公共交通機関であるため、道路運送法と運輸規則により、客への乗車拒否は禁じられている。もしタクシーが、手を上げている客を理由もなく素通りした場合、法律違反になるのだ。

 だが、ある現役のタクシードライバーによると、タクシーが止まらないことは実際にあるそうだ。ただ、そのほとんどが「乗客側」に原因があるという。

「最も考えられるのは、客が手を上げてタクシーを止めようとしている場所が『駐停車禁止エリア』の可能性があるということです」

 タクシーを捕まえようとする際、あまり意識されないのが客の「立ち位置」。道交法では、緊急車両出入口はもちろん、交差点内や横断歩道上から5メートル以内、バス停から10メートル以内は駐停車禁止になっており、たとえタクシーの乗客であっても、当該エリアでは乗り降りが許されないのだ。

「皮肉にも、乗客の多くは柵やガードレールのない交差点付近でタクシーを拾おうとするんですよね。なので僕はいつも少し進んだところで止まるようにしているんですが、こうした法律を知らないお客さんからは『無視して行こうとしただろ』と勘違いされ、怒鳴られたこともあります」

営業区域

 タクシーが乗車拒否する理由は他にもある。それは、「営業区域外」の場合だ。

「営業区域」とは、タクシー会社や営業所の所在地にもとづいて、国土交通省が指定した営業許可区域のこと。タクシーは日本全国、客が手を上げていればどこでも自由に営業してもいいというわけではない。企業ごと(個人タクシーの場合は事業者の住所を基準)に営業していい区域が決められており、営業エリアでの乗車または降車でないと、客を乗せてはいけないことになっているのだ。

「つまり、自分の営業区域で乗せたお客さんを営業区域外まで乗せることはできるんですが、そのお客さんを降ろした後、別のお客さんを乗せる時はその人が営業区域内に行く人じゃないといけないんです」

「地元(地方)から東京に向かうお客さんを乗せたことがある。都会のど真ん中でお客さんを降ろした直後、別の人が乗ろうとされたので、行き先を聞いたら、わずかひと駅先。営業区域の関係上乗せらない旨を話したところ、急いでいたようで不機嫌に。よく聞こえませんでしたが、何か捨て台詞を吐かれた後、思い切りドアを閉められました」

 こうして営業区域外で客を降ろした後、営業区域へと戻る際は「回送」にして戻る。ちなみにこの「回送」、タクシー業界では「ワカメ」というとのこと。

「『回送(かいそう)』と『海藻(かいそう)』をかけた、ただのダジャレです。職業ドライバーの現場には本当にこういう業界用語多いですよね(笑)」

おいしい「ロング客」

 このように、営業区域を越える長距離で乗車する客のことを、現場では「ロング客」と呼ぶ。

 先述通り、ロング客の場合は自分の営業区域まで戻る際に客を乗せられない可能性が高いため、営業区域内で乗車率を上げ、コツコツ売上を積み上げたほうがいい場合もあるが、それでもやはり1回で高い単価が狙えるロング客は、ドライバーにとってはいわゆる「おいしい客」になる。

 特に運賃が1万円を超えることを「万収」と言ったりするそうだ。そのようなおいしいロング客は頻繁に捕まえられるわけではないが、捕まえやすい場所や条件などはあるという。

「高級ホテルでスーツケースを転がしている人は、空港まで行く可能性がある」

テレビ局前ですね。取材記者さんを捕まえられると、稀に1日同行というケースもある」

「病院もロング客が出やすいです。体調が悪いなか、患者さんは公共交通機関を使うよりタクシーで家の玄関まで帰ろうとするので」

 ちなみに、通常ではロング客に遭遇するとは考えづらいところで、突然ロング客を捕まえられることを「お化け」と言うそうだ。

「ドライバー同士の雑談で『◯◯(地域)でお化けが出たんだよ』なんて使われます。“お化け”との遭遇は怪奇現象レベルですからね(笑)」

泥酔客を起こす方法

 もう1つ、「ロング客」または「万収」に繋がりやすいのは、深夜の繁華街だ。

「終電を逃した客はやはりロングになりやすいですね」

 だが、繁華街で終電を逃した客の多くは「酔っ払い」だ。酒に酔った客を乗せる際は、リスクを伴う。

「嘔吐は言うまでもなく、厄介なのは爆睡して起きてくれない人です。何せお客様に触れることはご法度なので揺り動かすことなんてもってのほか。特に女性客なら大問題ですから。ひたすら声を掛け続けたり、スマホのアラームを耳元で鳴らしたり、冬場などは窓を全開にして冷気を入れる等々……。泥酔客は乗車拒否もできるんですが、酔ってタクシーで帰宅する人はやはり運賃が高い場合が多いんですよね。根気よく対応してます」

 ちなみに回送のことを「ワカメ」と言うと紹介したが、この酔っ払い客のことも「ワカメ」というそうだ(ゆらゆら揺れていることから)。

ガソリンではなくLPガスを使う理由

 こうしたロング客に備えて、タクシードライバーが常に気にしておくことがある。燃料の残量だ。

「自分は隔日勤務で15時〜翌朝8時が定時、時間が長いこともありその日の進捗具合によっては途中で給油しています。朝イチ『空港まで』と言われて『燃料少ないので行けません』なんて勿体ないことしたくないので」

 しかし、タクシーの給油は一般車ほど容易ではない。それは、一般のガソリンスタンドが使えないからだ。実は、思いのほか知らない人が多いのだが、ほとんどのタクシーは、一般車のようなガソリンではなく、LPG(LPガス)が使用されている。

 日本にLPガス車が登場したのは1940年ごろのこと。戦争によって不足したガソリンに代わる自動車用燃料として採用されたのがきっかけだ。タクシーにLPガスが使用されているのは、ガソリンよりも6〜7割ほど安価なうえ、環境にもいいからだと言われている。1日中走り回るタクシーにとっては、都合がよかったのだろう。

「ガソリン等と併設のスタンドもありますが、オートガススタンドやLPGスタンドという名称のLPガス専門の施設があるんです。自分は流しメインで走っていますが、250〜300km/日、給油22、3Lなので13km/Lぐらい。車種によっても差があるかと思いますが」

 LPガスを使用するうえでは、もう1つこんなメリットもあるという。

「ガソリンスタンドで給油ができないので、車が盗難に遭う危険は少ない気がします」(タクシー企業経営者)

 次回は、タクシー業界に存在する「謎ルール・慣習」や、ライドシェアなどについて紹介したい。

橋本愛喜(はしもと・あいき)
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許を取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働問題、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆中。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)、『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』(KADOKAWA

デイリー新潮編集部