意外と知らない、コンクリートは空気中のCO2を吸収する…インフラのこれからの課題
日本はこのまま崩れ去ってしまうのか? 道路、鉄道、水道、インフラ、橋……なぜ全国各地で次々に事故が起きるのか? お金も人も足りない……打つ手はあるのか?
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(本記事は、岩城一郎『日本のインフラ危機』の一部を抜粋・編集しています)
カーボンニュートラル社会の実現に向けて
20年ほど前まではあまり注目されていなかった問題があります。それは「地球環境と気候変動」への対応です。
近年、世界中で二酸化炭素(CO2)の排出と吸収を差し引きゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す動きが広がっています。日本でも2020年10月、当時の菅義偉総理大臣が「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言し、それ以来、脱炭素社会への取り組みが本格化しました。
この流れの中で、セメントやコンクリートをつくる産業はCO2を多く出す産業の一つとして大きな関心を集めています。
というのも、セメントの製造過程だけで世界全体のCO2排出量の約8.5%を占めているからです。さらに、セメントの約60%は橋や建物などのコンクリート構造物に使われており、これだけで世界全体の約5%を占めます。鉄筋や鉄骨も含めると、構造物として全体の約6%のCO2が排出されている計算になります。こうした背景から、セメントをつくる段階だけでなく、建設、使用、解体までの一連の流れ(ライフサイクル)全体でCO2を減らす取り組みが求められています。
セメントは原料の石灰石を約1450度という高温で焼いてつくられます。このとき化学反応や燃料の使用によって大量のCO2が出ます。日本では、セメント1トンあたり約700キログラムのCO2が排出されるといわれています。
一方で、あまり知られていませんが、コンクリートは固まったあとも空気中のCO2をゆっくりと吸収する性質があります。これは「中性化」と呼ばれる現象で、通常は内部の鉄筋がさびてしまう原因として問題になりますが、鉄筋を使わない無筋コンクリートや、さびない補強材を使えば、CO2を吸収して固定するというメリットだけを活かすことができます。
研究者の間では、森林(グリーンカーボン)やマングローブ林(ブルーカーボン)に続く「第3のCO2吸収源」として位置づける考え方もあり、実際、その吸収力は森林の約10分の1、マングローブの約5分の1と試算されています。
カーボンニュートラルを実現するためには、まず製造工程そのものを見直す必要があります。
エネルギー効率を高めたり、廃熱を再利用したり、廃プラスチックやバイオマスといったCO2排出の少ない燃料を使う工夫が有効です。また、セメントの量を減らし、高炉スラグ微粉末やフライアッシュといった副産物で代用することも有効です。さらに、製造時に出るCO2を回収・再利用する「カーボンキャプチャー」技術の開発も進んでいます。コンクリートを高濃度のCO2環境で固める「炭酸化養生」という方法で、内部にCO2を積極的に固定する試みも始まっています。
もう一つ重要なのは、コンクリート構造物をできるだけ長持ちさせることです。橋や建物が50年、100年と使えるようになれば、解体・撤去・更新の頻度が減り、その分CO2排出も減らせます。このように、つくる段階から使い終わるまで、あらゆる場面で工夫を重ねることが、これからの社会にとって欠かせない課題となっています。
さらに、「日本はこのまま崩れ去ってしまうのか…意外と気づかない「インフラ危機」本当の実態」」では、いま大問題として迫っているインフラ老朽化問題をひきつづき見ていく。
