愛子さま

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 皇室に関わる長年の懸案が大きく動き出した。衆参両院の安定的な皇位継承に関する全体会議が、4月15日、約1年ぶりに再開。5月15日に開かれた第2回の会議では、唯一見解を示していなかった中道改革連合が意見を表明し、各党の意見が出揃った。「立法府での総意」を目指して2024年にスタートして以来、議論がなかなか進まなかった同会議だが、いよいよ今国会中の皇室典範の改正に向けて取りまとめが動き出したことになる。同会議では、悠仁様までの皇位継承については、男系での皇統維持の立場で議論が進められている。一方で、報道機関の世論調査では、「愛子様を次の天皇に」との声が変わらず高いままであるのは周知の通りだ。全体会議と世論との乖離が気になるところである。

愛子さま

 国士舘大学の百地章・名誉教授(憲法学)は、皇位継承の男系維持を唱える代表的な論客だ。会議に先立つ政府の有識者会議にも参考人として呼ばれ、女性天皇、女系天皇に異議を唱えてきた。百地教授は、世論調査で賛成が多く出ている「愛子天皇論」は問題が少なくないと主張している。その理由を改めて伺ってみた。

【前後編の前編】

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報告書の中身とは

 そもそも安定的な皇位継承を巡る議論がスタートしたのは、上皇陛下の退位がきっかけだ。2017年、退位を定めた特例法が成立した際、国会は、「安定的な皇位継承を確保する諸課題と、女性宮家の創設など」を政府が検討し、国会に報告するとの付帯決議を採択。これを受け、政府は2021年3月から有識者会議を計13回開催。専門家からヒアリングを行い、12月に報告書を答申している。

 その報告書では、基本的な考え方として、「天皇陛下から秋篠宮皇嗣殿下、次世代の悠仁親王殿下という流れはゆるがせにしてはならない」「皇位継承の問題と切り離して、皇族数の確保を図ることが喫緊課題」としている。

 その上で、皇族数確保の具体的方策として、

(1)女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する一方、配偶者と子は一般国民とする
(2)養子縁組による旧宮家の男系男子の皇籍取得

 の2案の検討を呼び掛けた。

 全体会議ではこの報告書をベースに議論が進む見通しだ。

悠仁様までの皇位継承は論点となっていない

 上記から明らかなように、会議は悠仁様までの皇位継承については、現行通り、すなわち男系男子による継承を前提として進んでいる。この点については、2024年5月の時点で13会派中、8会派が賛成し、反対したのは共産党、社民党、沖縄の風のみであった。

 すなわち、そもそも全体会議では悠仁様までの皇位継承の是非については、論じる対象になっていないというわけだ。

 一方で、国民世論を見ると、そこに真っ向から反するように、愛子様を天皇にとの声が変わらず高いままである。今年に入っても、毎日新聞の調査(3月28、29日)で61%が賛成と示しているように、女性天皇を認めることに前向きな意見は、近年はおおよそ70〜80%の割合で推移しているのだ。公務に携わる愛子様の立ち居振る舞いなどに称賛が高まる一方、秋篠宮家を巡っては、長女、小室眞子さんの結婚に関わる経緯や、秋篠宮邸の改修工事にまつわる混乱が続き、それが影響していると考えられる。

 では、なぜ、百地教授は世論に異を唱えるのか。以下、Q&A方式で意見を聞いてみた。

移ろいやすい世論

――なぜ、愛子天皇の実現には問題があると主張するのでしょうか。

 愛子様は本当に素晴らしい成年皇族になられました。ご公務も立派にこなしておられます。しかし、愛子様が品格を備えておられることと、天皇になられるべきかどうかということは、まったく次元の異なる問題です。メディアは、神々しいから天皇になってほしいなど、きわめて主観的で情緒的な議論を盛んに行っているような気がします。こうした取り上げ方には大きな問題があるように思います。

 いま、メディアは愛子様称賛の報道一色です。しかし、今から15〜20年ほど前はどうだったでしょうか。学習院初等科での不登校問題が起きていた時、長期間にわたってバッシング報道を続けていました。それが、小室眞子さんの結婚問題以降、秋篠宮家へのそれへと移り変わっています。メディアや、その映し鏡である世論というのは、このようにその時々の状況によって、非常に移ろいやすいものです。そのようなものによって皇位が左右されてはいけない、というのが私の考えです。

 そもそもどなたが天皇にふさわしいかというのは、世論調査で決まるものではありません。それに、世論調査に回答した人たちが、皇室の伝統をどこまで理解しているのか。多くの人は、そこへの意識よりも、愛子様個人への愛着、また、女性の社会進出や男女平等などといった視点から、女性天皇・女系天皇に賛成しています。これは人気投票に近いものを感じます。本当にそれで良いのか。原点に立ち返って検証することは、極めて大事だと思います。

不文の憲法

――では、原点に戻りましょう。なぜ天皇は「男系」でなければならないのですか?

 皇位がなぜ「男系」によって継承されなければならないのか。明治憲法下の皇室典範の解説書である、「(旧)皇室典範義解」は、その理由を次のように説明しています。初代神武天皇から第32代崇峻天皇に至るまで男系の男子が即位しており、これにより上代において既に変えてはならない皇室の家法が成立した、すなわち「不文の憲法」が成立したからだ、と。

 これを私なりに解説すれば、「男系」は建国以来の「皇室の伝統」であり、初代天皇の男系の子孫であることこそが、天皇の正統性の根拠として考えられてきたということです。そして、それが不文のものではありますが、いわゆる「憲法」と認識されてきたから、ということです。

 明治より前は、男系継承の原則は、このように「不文の憲法」として位置付けられてきました。そして明治以降は成文憲法として定められます。まず、明治憲法では、第二条ではっきりと「皇位」は「皇男子孫」(男系男子)が「継承する」と定められています。これに対して、戦後にできた現在の憲法の第二条では「皇位は、世襲のもの」と定めているだけです。

 しかし、現行憲法は明治憲法を前提とし、それを改正して出来たものです。また、現行憲法の第二条に基づいて制定された皇室典範は第一条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と明記しています。そこで、新憲法制定以来、政府は憲法第二条の「世襲」は「男系」を意味する、少なくとも「男系を重視」するものと解釈してきました。この政府見解は、今日まで一貫しています。

 女系天皇の賛成派は「護憲派」の人と重なる傾向が強いですが、安易な女系天皇論の採用は憲法違反の疑いがあることを、しっかりと認識しておく必要があります。

先人たちの血の滲むような努力

――では、逆に、女系天皇はなぜ問題なのでしょうか。

 上記で述べたような「皇室の伝統」、すなわち、皇室の正統性の根拠を否定するものであるからです。逆に言えば、女系天皇が生まれれば、その天皇は、古来の統一性、継続性に疑義が呈されることになります。

 そのことの重要性がわかっているがゆえに、歴史を見ても、先人たちは、男系の伝統を守り伝えるために、血の滲むような努力をしてきました。

 そもそも、皇位は常に直系で継承されてきたわけではありません。8代以上にわたって直系継承されたのは、現在の天皇陛下に繋がる系統も含めて3度だけです。それ以外は、兄弟間、甥から叔父、離れた親戚などさまざまな形で継承してきました。

 さらに、皇位継承が危機に陥った時は、系譜を大きく遡って傍系の皇族によって皇位が継承されてきました。男系の皇統断絶の危機は主なものでも過去に4回ありましたが、それぞれ、10親等、8親等、8親等、7親等と遠く離れた傍系の男系男子によって継承が行われました。こうした先人たちの血の滲むような努力により、皇統断絶の危機を回避することでできました。

 今に生きる私たちには、まずこの世界にも例のないかけがえのない伝統を大切に受け継ぎ、それを後世にしっかりと伝えていく重大な責務があります。先人たちによって長い間伝えられてきた伝統というものに対して私たちはもっともっと謙虚であるべきです。その重みに耳を傾けるべきであり、逆に現代人の価値観を無条件に優先すべきというのは、歴史に対して余りにも傲慢な態度と言えるのではないでしょうか。

【後編】では、愛子天皇、すなわち女性天皇がなぜ問題をはらむのかについて詳述している。

デイリー新潮編集部