きっかけは、まさかの「百人一首」! 九九もできない「いわくつき」の小学生が算数で100点をとるまで

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かつて長谷川博之氏が取材した、ある若手教師のエピソードを紹介する。学級崩壊を経験した彼が救いを求めて手を伸ばしたのは、なんと「五色百人一首」だった。ところがこの教材がきっかけとなって、子どもに驚くべき変容が起きたのである。その一部始終を取材に基づいてお届けする。

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若手教師が味わった挫折と復活

サークルの新卒3年目の男性は、2年前に学級を崩壊させてしまった。その時、「子どもたちが仲良くなる」「クラスがまとまる」という五色百人一首に助けを求めた。しかし、である。新卒の年、百人一首に挫折した。彼への取材をまとめる。

初めて担任を持った年、学級が荒れた。

子どもは言うことを聞かなかった。指示も通らない。好き勝手をしていた。「静かにしなさい」と大声で怒鳴った。全く効果はなかった。

藁(わら)にもすがる思いで、百人一首を手にとった。実際に荒れているクラスで行った。一番やんちゃな男の子は「つまんなー。こんなものやんねーし」と札を投げた。自分の仲間になりそうな子を連れ、後ろでふざけ合っていた。周りの子の邪魔ばかりした。

百人一首を行う度に「えー。またかよ」と言う。そう言われるのを恐れ、百人一首を行うことを止めてしまった。その年は、最後まで、上手くいかなかった。

これが、現実だった。嫌がる子どもや面倒だというポーズをとる子どもはどの学級にもいる。その子たちを巻き込み、全員を熱中させるのが教師の仕事である。全員を巻き込み熱中させることを可能とするのが五色百人一首である。

しかし、初任で荒れた子どもたちを「担任させられた」彼に、それは無理なことであった。

結果として、子どもの声に負け、彼は百人一首の取り組みを止めた。

2年目に得た、確かな手ごたえ

崩壊状態に悩む中、彼は私のサークル「TOSS埼玉志士舞」の催しに参加する。そこでTOSSの実践に衝撃を受ける。

ユースウェア(効果的な使い方)の重要性を初めて知ったのだ。

ほどなく彼はサークルに参加する。例会で、セミナーで、模擬授業にチャレンジし始める。次は、2年目を終えた彼の報告である。

「先生、勝ったよ!!」

昨年度小学校3年生を担当した。そのクラスのS男という児童の言葉だ。

S男は前年度からの引き継ぎで、いわゆるいわくつきの児童だった。友達への暴言・暴力が激しく、学力も、九九が覚束ない状態であるとのことだった。

始業式を迎えたその日。百人一首を行った。

一時一事で指示をする。

「取る時は、『はい』と言うんですよ」

「話し声が聞こえたら、お手付きです」

「同時の時は、じゃんけんをします」

彼は一つひとつそのルールを受け入れていった。その度に彼を褒めていった。

「『はい』という返事がとてもいい!」

「話し声が聞こえない、偉い!」

その日の彼は惨敗。取れた札は一枚だった。

「初めてなのに、一枚取れるなんてすごい」

彼を何度も褒めた。彼は笑顔だった。

朝の会の隙間時間を使って、毎日百人一首を行った。毎日、彼は負けた。

しかし、彼の友達に対する暴言・暴力はなかった。彼は、一枚、また一枚と得意な札を増やしていった。

周りの子は、それまで彼のそばにいくと意地悪なことをされるからと、彼を避ける態度をとっていたそうだ。家庭でも愛情をかけられていなかった上に、学校では問題のある子とレッテルを貼られ、叱られ続けていた。

そんな彼が、ルールを守り、懸命に百人一首を行うようになった。

百人一首は男女関係なく、毎日いろいろな級友と対戦する。終わった後、自然と会話が生まれる。

彼は次第に周囲にとけこんでいった。休み時間、一緒にドッジボールをしたり、鬼ごっこをするようになった。女子も含めてだ。

初めて、彼が勝ったのは、6月の終わりだった。すぐに私に報告してくれた。

「毎日、よく頑張ったからね」と頭をなでた。

熱中でき、しかも級友との関係性の中で取り組むことができる百人一首。百人一首は、彼にルールの守り方を教えてくれた。しかも、それを押し付けるやり方で、ではない。

ルールを守った方が楽しいということを実感させつつ、育んでいけるのである。

彼はその後、苦手だった算数のテストでも百点満点を取った。彼を変えたのは初日から毎日行った百人一首に他ならない。

「ユースウェア通り」の一言の重み

取材の最後に彼は言った。

「百人一首は素晴らしいツールであるが、それをただ行えばいいというものではない。付属するユースウェア通りに行わなくては、初任の時の私のように失敗する」

たった一年間で彼の取り組みに天地の差が生じたのは、ユースウェアに忠実に実践したか否かの差なのである。

しかし、だ。ユースウェア通りと言っても、必ず我流が入る。読み方一つとっても、その間やリズムは体験しないと分からない。

彼は向山洋一氏の実際の音源を手に入れ、何十回も聴いた。サークルで模擬授業にチャレンジし、修正意見に真摯に耳を傾けた。セミナーで数十名の参加者を相手に百人一首をし、我流を修正してもらった。そういう修業の末に、ひとりの子どもを「救う」ことができ、その子どもの周りの子どもたちをも育むことができたのである。

うまくいかない原因は、常に自らの中にある。

*初出『教育トークライン』2011年6月号。一部に加筆修正を行った。

【後編を読む】直すべきは「教師の対応」…”学級づくり・人間関係づくり“に役立つ教材「五色百人一首」を効果的に使うコツ

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