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4月24日、衆議院第一議員会館でAV新法の見直しを求める院内勉強会が開かれた。AV女優や制作会社の関係者が国会議員に現場の苦境を訴え、議論が行われた。「1カ月ルールを緩和してほしい」「二次利用料を払ってほしい」--要望は切実だった。

2022年に施行されたAV新法(AV出演被害防止・救済法)は、意に反した出演や強制的な行為による被害を防ぐために成立した法律だ。契約から撮影まで1カ月、撮影から公表まで4カ月を義務付けるという内容で、「出演者を守る法律」として鳴り物入りで導入された。

ところが施行から4年、現場からは悲鳴が続いている。制作期間が延びてキャッシュフローが悪化し、仕事が減った女優が反社勢力に接触して海外に流れるケースも出ているという。だから「改正してほしい」と国会に陳情に来た。

ではAV新法が改正されれば、業界は救われるのか。

答えはノーだ。新法がどうなろうと、現在のままでは日本のAV業界は終わると言われても仕方ない。

従来の日本のAV業界の仕組みはこうだった。制作会社が女優を集めて撮影し、FANZAというプラットフォームが独占的に販売する。女優はプロダクションに所属し、メーカーから仕事をもらう。この「制作会社→FANZA→消費者」という流れが長年続いてきた。

自ら撮影して自ら世界中のファンに直接売れるOnlyFans

これがOnlyFansの登場で根本から崩れた。OnlyFansは女優が自分で撮影して自分で世界中のファンに直接売れるプラットフォームだ。制作会社もプロダクションもFANZAも要らない。売り上げの80%が本人の手元に残る。

旧来の業界構造では、撮影・流通・販売の各段階で中間業者が抜いていく。どちらが得かは、一目瞭然である。結果、従来のアダルトコンテンツ産業は世界規模で変化しているのだ。

OnlyFansやPornhubなど世界からアクセスを集めるプラットフォームはいくつかある。中でも、OnlyFansの規模は凄まじい。OnlyFansの親会社がイギリス政府に提出した2024年度の公式報告書によると、同プラットフォームの年間売上は72億ドル(約1兆円超)。登録クリエーター数は463万人、ファン数は3億7000万人だ。

こうしたプラットフォームへの移行が急速に進んでいる理由は、経済的な合理性だけではない。参入のハードルが極めて低いことも大きい。

学術誌「Porn Studies」に掲載されたWarin、Gott & Grahamによる「惑星規模の性市場--カム配信、OnlyFans、そしてセックスワークのグローバル化」(2025年)は、こうしたプラットフォームが従来の産業では働けなかった人々に収入の機会を与えていることを明らかにしている。

発達障害があって決まった時間に職場に通うのが難しい人、移民で現地語が十分に話せない人、身体障害がある人……そういった人たちが自宅から自分のペースで働ける場として機能しているのだ。

海賊版への無断転載、ファンからの恐喝など問題点も

しかし、だからといって新たなアダルトコンテンツ産業はバラ色の世界ではない。

これまでの研究が明らかにしているのは、プラットフォームへの移行後に別の形の搾取が待ち構えているという現実だ。

自分で撮影して自分で売る。権利も自分にある。一見、自由に見える。ところが実際には、海賊版サイトへの無断転載、ファンからの恐喝、著作権侵害が日常的に起きている。自分がアップした動画がいつの間にか無料で拡散され「削除してほしければカネを払え」と脅される。

こうした被害に遭った場合に、出演のハードルが下がってはいるものの、社会に認められた職業とはいえない以上、警察に駆け込むことも難しいと多くの研究者たちは指摘している。

トラブルだけではない。OnlyFansで稼ぐには、コンテンツを作るだけでは足りない。XやInstagramで宣伝して、ファンを獲得して、個別メッセージに返信して、投稿のタイミングを計算して……そういった作業のすべてが、無収入の労働だ。しかもアルゴリズムは常に変化し、昨日まで有効だった宣伝方法が今日は通用しなくなる。

結果、収入の格差は極端だ。上位1%のクリエーターがプラットフォーム全体の収益の約3分の1を独占しており、大多数のクリエーターの月収は数万円程度にとどまる。「誰でも稼げる」という夢は、現実には一握りにしか当てはまらない。稼げる水準に到達する前に、大多数のクリエーターは疲弊して消えていく。

旧来のAV業界では、少なくとも制作会社が撮影・編集・販売を全部やってくれた。OnlyFansではそれを全部一人でやらなければならない。自由を手に入れた代わりに、すべての重荷も自分で背負う構造だ。

つまりプラットフォーム移行後の世界は、旧来の業界より良くも悪くも「自己責任」が徹底している。つまり移行が不可避である以上は、そこで何が起きているかを把握することこそが、出演者保護を語る上での出発点のはずだ。

産業構造が変わる中、労働条件の話に終始

ところが冒頭の院内勉強会では、そうした議論は一切出なかった。出てきたのは「撮影当日に体調不良でも代役を立てられないから困る」「バラシ(当日キャンセル)の補償をメーカーが払わなくなった」といった話ばかりだ。世界規模で産業の地図が塗り替わっている最中に、現場の細かい労働条件の話だけをしていた。

木を見て森を見ず、という言葉がある。森がなくなりつつあるのに、木の手入れを議論している……それがこの日の勉強会だったというわけだ。

なによりも問題なのは、こうした議論をしながら、そもそも彼らが守ろうとしている「AV業界」の実態が、数字として何一つ明らかになっていないことだ。

市場規模はいくらか。出演者は何人いるか。制作会社は何社あるか。誰も知らない。業界団体も、政府も、一度も統計を出したことがない。

対照的なのがOnlyFansだ。親会社Fenix InternationalはイギリスのCompanies House(企業登記局)に毎年52ページの財務報告書を提出している。年間売り上げ72億ドル、クリエーター数463万人、ファン数3億7000万人……これらは、すべて公開情報になっており、日本からもアクセスして無料で閲覧することができる。

一方のFANZAはどうか。日本の販売シェアの多くを握り、有名メーカーを傘下に収める同社だが、その内実はすべてブラックボックスだ。合同会社であり、決算を一切公開していないためだ。売り上げも、ユーザー数も、コンテンツ数も、何もわからない。

既成のAV業界から「アングラ」と呼ばれるOnlyFansが財務を公開し「国内合法業者」のFANZAが何も出さない。透明性という意味では、完全に逆転している。数字のない業界が国会に保護を求め、数字を出している「アングラ」が世界市場を席巻している。これが2026年の現実だ。

文/昼間たかし 内外タイムス