「住宅ローンは今すぐ固定金利に借り換えろ」金融のプロが警告する"前例なき金利暴騰"の衝撃シナリオ
※本稿は、藤巻健史『物価高・円安はもう止められない!』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

■「資産効果」が物価高を加速させる
政策金利を上げられず、為替介入も効果がなく、円安を抑制することができなければ、円安がさらに進み、輸入インフレが進み、国内の物価も一層上昇していくことでしょう。円安は強いインフレ要因ですから。
そして、「資産効果」が物価の高騰を加速させます。
図表1は、1982〜92年のバブル期前後まで含めた「消費者物価指数(除く生鮮食品)」の全国総合、東京都区部総合、ドル円相場、日経平均株価、NYダウの5つの推移の表になります。

日経平均株価は、約8000円から最高値約4万円まで5倍近く上がりました。
不動産価格は、場所によって大きく違うので、実態を的確に表す指標がないのですが、ざっくり10倍ぐらい上がったと私は思います。株価や不動産価格といった資産価格が急上昇して「狂乱経済」と言われたのがバブル期です。
消費者物価指数の全国総合を見ると、86年、87年、88年は0.5%と非常に低いことがわかります。経済が狂乱していたのに、物価はそれほど上がらずに安定していたということです。なぜでしょうか。
■バブル期と現代の決定的な違い
株や不動産など資産をもっている人たちは、その時価の高騰を見て、お金持ちになったつもりで、お金をバンバン使いました。
製品やサービスがどんどん売れれば、売る側の企業の利益は増え、社員の給料も増えます。株価も上昇しますから、さらに儲かったつもりでさらにお金を使う人が増え、製品やサービスが売れ……、といった好循環によって好景気が加速していきます。
好景気は、本来はものすごい物価上昇要因、インフレ要因なのですが、それを相殺してしまうほどのデフレ要因が、バブル期にはあったのです。それが円高です。
表のドル円相場を見るとわかるように、84年に1ドル約252円だったのが、90年には約135円になっています。100円以上も円高が進んだのです。
現在は、逆に円安が進んでいます。つまり、資産効果というインフレ要因を相殺するデフレ要因は何もなく、円安という強力なインフレ要因がさらに加わっています。
■日銀が「世界の常識」をねじ曲げた
ベン・バーナンキ元FRB議長は「長期金利は、中央銀行ではなく、奥深く賢明なグローバル金融市場の参加者によって決められる」という言葉を残しています。
これは金融を学んだ人にとっては常識で、長期金利を決めるのはマーケットです。
この常識を日銀は変えてしまいました。日銀のホームページに「教えて!にちぎん」というページがあり、以前はそこに「長期金利は市場が決める」と書かれていたのですが、異次元金融緩和後、「長期金利は日銀がコントロールする」に変更してしまいました。ヒドイ話です。
長期金利は、本来、中央銀行がコントロールできるものではなく、長期国債を爆買いしたことでゼロ金利状態にしたに過ぎません。これをコントロールと呼ぶとは!
長期金利は、短期金利のように日銀が金利を上げ下げできるわけではないため、日銀が長期国債の保有を減らしていけば、長期金利は上がっていきます。
長期金利は市場が決めるという世界の常識に、日本も回帰していくことでしょう。
その一方で、「短期金利は中央銀行が決める」という常識が覆され、「短期金利を中央銀行が決められない」という非常識な事態を招く可能性が日本にはあります。どういうことか、説明しましょう。
■住宅ローンは固定金利の一択
これまでは、日銀が政策金利を上げ下げすることで市中の短期金利をコントロールしてきました。しかし今後、政策金利が上がらなくても、市中の短期金利が上がる可能性があります。
なぜなら、インフレ期は基本的に好景気なので、お金を借りて事業を行えば、借金以上の利益を出せるからです。一杯700円だったラーメンが1000円になり、1500円でも売れるようになれば、借金を返しても十分な利益が残ります。
こうして事業資金の需要が増加し、金利を上げても借り手がいるのであれば、資金を貸す銀行は貸出金利を上げるでしょう。そのほうが銀行は儲かりますから。
住宅ローンなどの金利もそれにつれて上がることになり、日銀が政策金利を上げずに低く据え置いていても、市中の金利は上がっていくことになります。
中央銀行が市中の短期金利をコントロールできない歴史上世界初の事態に、日本がなるかもしれないのです。
もし、住宅ローンを変動金利で借りているなら、すぐにでも固定金利に借り換える方が賢明だと私は思います。日銀が政策金利を上げられなくても、市中の短期金利は上がっていく。そうした事態に備えるためです。

■トヨタすら「ジャンク債」になる恐怖
日本国債のS&P(スタンダード&プアーズ)の格付けは、「A+」です。「BB」以下になると投資不適格債という評価になります。イタリアは「BBB」です。投資不適格債はジャンク債と呼ばれます。
日本はまだA格を保っていますが、その理由は「日銀が国債を買っているからだ」とS&Pの担当者が日経新聞の取材に答えていました。それが本当なら、日銀が国債を買わなくなったら、格付けが下がる可能性があります。
大きな問題は、民間企業は国の格付けを超えられないという大原則がある点です。日本国債がA+である現在、日本で最も企業価値が高いトヨタ自動車の社債であってもA+です。
日本国債の格付けがBBBに落ちると、日本企業はジャンク債しか発行できなくなってしまいます。ジャンク債になると、年金基金など安定的な運用を目指す機関投資家には買ってもらえなくなります。
日本国債の格付けは、日本企業の資金調達にも大きな影響を及ぼすことからも、今後、S&Pなどの格付け機関の発表に注意を払う必要があるでしょう。
加えて、「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)レート」にも触れておきます。CDSは国のデフォルトリスクに対する一種の保険であり、そのレートが低いほど、デフォルトリスクも低いことを表しています。
■格付けが「A+」でも円資産は危ない
日本のCDSレートが低いことを根拠に、日本の財政は健全であると主張する人がいますが、CDSレートが示しているのは、デフォルト――債務不履行の可能性だけです。CDSで保険が支払われるのはデフォルトになったときだけだからです。

格付けにしても、CDSにしても、表しているのは、その国のデフォルトする可能性、企業で言えば倒産確率のようなものです。日本国債は、日銀が買っているからデフォルトしない。それがA+にとどまっている大きな理由だとS&Pの担当者は言ったのです。
日本の財政がどんなに悪くても、日本国債がデフォルトするか、日本が資金繰り倒産するかと言えば、それはしないでしょう。資金が足りなくなったら、日銀が通貨を発行しまくることができるのですから。
しかし、日本国債がデフォルトしなくても、日銀が債務超過に陥り、日銀の信用が失墜すれば、日本はハイパーインフレになる可能性があります。このハイパーインフレになるかどうかのリスクは、格付け会社もCDSにも関係ないのです。
したがって、格付けがA+だから、CDSレートが低いから、日本円で資産をもっていても安全だということにはなりません。格付けがA+でも、CDSレートが低くても、円の価値が暴落する可能性は十分にあるのです。
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藤巻 健史(ふじまき・たけし)
フジマキ・ジャパン代表取締役
1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年に行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。85年米モルガン銀行入行。当時、東京市場唯一の外銀日本人支店長に就任。2000年に同行退行後。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師。日本金融学会所属。現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。2013年から19年、24年から25年までは参議院議員を務めた。2020年11月、旭日中綬章受章。
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(フジマキ・ジャパン代表取締役 藤巻 健史)
