赤ちゃんの泣き声が響く車内で睡眠することは困難だが…(まちゃー/PIXTA)

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ある日の深夜0時頃、Xに「夜行バスに赤ちゃん連れてくなよ…流石に…」「夜泣きやばい」との投稿があった。

この投稿をしたアカウントは翌日の昼、「舌打ちが聞こえてくる殺気立った車内だったな」と振り返り「他人の赤ちゃんの夜泣きを夜行バスでは仏でも許されないと思う」と意見を表明している。

車内に赤ちゃんの泣き声が響いていたら、多くの乗客は就寝を妨げられるだろう。翌日の仕事や予定に支障が出たり、体調にも影響が出るかもしれない。夜行バスに赤ちゃんを同乗させる行為に法律的な問題はないのだろうか。

受忍限度を超えれば親の「監督義務違反」だが…

主要な高速バス会社のホームページを確認すると、「大阪バス」(本社・東大阪市)のホームページには「夜行バスに関しましては乳幼児の方はお断りさせていただいております」と明示されている。

しかし、「WILLER EXPRESS」(東京都江東区)や「JRバス関東」(江東区)、「西日本JRバス」(大阪市)などの大手を含む、ほとんどの高速バス会社のホームページには「夜行バスに赤ちゃんを連れて乗ることは禁止」という旨の記載がない。

民法に詳しい佐藤竜介弁護士によると、そもそもバス会社は道路運送法13条に基づき、原則として運送の引受けを拒絶できない「運送引受義務」を負っている。乗車を断ることができるのは「正当な事由」がある場合に限られるが、基本的に、赤ちゃんを連れている点のみを理由に断ることはできないという。

つまり、夜行バスに赤ちゃんを乗せること自体は、法律的には問題なく、禁止される行為ではないのだ。

より具体的に言えば、夜行バスに赤ちゃんを乗せることは、親(保護者)が旅客運送契約を締結することによって法的に可能となる。

なお通常、自動車の運転者が6歳未満の児童を乗せる場合には、チャイルドシートを使用しなければならない(道交法71条の3・3項)。

しかし、バスについてはその義務が免除されており(道交法施行令26条の3の2・3項6号)、必ずしもチャイルドシートが設置されているわけではない。したがって、赤ちゃんの安全を確保するために、親はきちんと赤ちゃんを監督する必要がある。

そして、赤ちゃんの泣き声などが「社会生活上の受忍限度」を明らかに超え、かつ親がその事態を予見可能でありながら、赤ちゃんをあやすなど事態を回避するための適切な対応を怠ったといった事情がある場合には、親の「監督義務違反」による不法行為に基づく損害賠償責任が発生する可能性がある(民法714条1項、709条)。

なお「受忍限度」は、夜泣きの大きさ、持続時間や時間帯、被侵害利益の性質、被害回避措置の有無などの諸要素を総合的に考慮して判断される。

逆に言えば、受忍限度を超えない限りは、赤ちゃんの泣き声を迷惑に感じる人がいても、違法行為とは言えないのだ。

トラブルを避けるための注意点

違法ではなくても、赤ちゃんの泣き声のせいで寝られなかったら、やはり困る。

「うるさいですよ」「静かにさせてください」といった注意や要望を親に伝えるだけなら、ただちに法的問題になることはない。しかし、単なる注意の限度を超えて、相手の人格的利益や身体・精神の安全を侵害するような言い方や行動をした場合には、不法行為に該当する可能性がある。

「ちなみに、赤ちゃん自身には責任能力がなく、いくらうるさく泣いていたとしても不法行為には該当しません。

また、どの程度の発言や行動が不法行為に該当するかという明確な基準があるわけではありません。そもそも、親に注意したところで、赤ちゃんがそれを理解して泣き止んでくれるわけではありません。

どうしても寝られないような場合であっても、まずは運送人(バス会社など)に対応をあおぐことが、法的トラブルを避けるためにも大切だと考えます」(佐藤弁護士)