NHK受信料滞納が6年ぶり減少、督促アナウンス効果も「楽観できない」
NHK受信料の滞納者数が2025年度末時点で、前年度末より3000件減り、6年ぶりに減少に転じた。
昨年秋から滞納者に対して支払いを求める民事手続きを強化。それによるアナウンス効果がじわじわと現れ始めたと言えそうで、NHKが悲願とする受信料収入の下げ止まりに光明が見えた感もある。しかし、支払いの土台となる契約数自体は当初見込みを上回る減少傾向となっており、今後の事業運営の方向性を示す27〜29年度経営計画の策定にも影響しそうだ。(文化部 旗本浩二)
批判が強かった戸別訪問の廃止で事態が悪化
受信料を1年以上滞納している未収件数は、19年度末時点で72万件だったが、年を追うごとに増え、24年度末時点では174万件にまで膨張。25年度も9月末時点では177万件にまで増えていた。それが4月28日に公表された25年度の第4四半期業務報告書によると、未収数は3月末で174万件に縮小。細かく言えば、24年度末より3000件減っており、6年ぶりに減少に転じたことになる。
NHKはこうした滞納者に対しては、公平負担の徹底の観点から、簡易裁判所を通じた支払い督促申し立てという民事手続きを06年度から実施してきた。しかし、コロナ禍で戸別訪問が制限され、その後、強引な契約などへのクレーム批判が多かったことも踏まえ、営業経費を削減しようと戸別訪問自体を廃止した。だが、現場で不払いの実態を把握できなくなったことで、申し立て件数が減ることとなり、滞納が増え始めた。これを憂慮したNHKは昨年10月から民事手続き強化の方針を打ち出した。同11月になってそれを報道発表したところ、滞納者の支払い再開が相次いだ。
こうしたNHKの毅然(きぜん)とした姿勢は視聴者心理に与えた“アナウンス効果”になったと考えられ、井上樹彦(たつひこ)会長も4月15日の定例記者会見で「報道発表後、2月末までに未収の方からの支払いが前年度の同時期に比べて2倍近くの実績になっている。3月の実績も取りまとめ中だが、2月までと同様、未収の方からの支払いが増加している傾向には変わりない。さらに新規契約の申し出も大幅に増えており、着実に効果が表れていると見ております」と述べている。
支払い督促の申し立てを過去最大に
支払い督促の申し立ては今年度、過去最大となる2000件超を実施する方針を打ち出しており、さらなるアナウンス効果により、未収数削減に拍車がかかるものと思われる。こうした状況を予測し、すでにNHKは今年度予算の中で、受信料収入を5910億円と見積もり、25年度の決算見込みとして算出した5900億円を上回るとそろばんをはじいている。これにより、ここ数年の悲願だった「受信料収入の下げ止まり」を実現するとの計画だ。

だが、受信料の滞納が減り始めたからといって、全体の収入が底上げされるかどうかは依然、不透明だ。NHKの最高意思決定機関である経営委員会の古賀信行委員長も、第4四半期の営業状況について執行部から説明を受けた後の4月28日の記者会見で、「改善の方に向かっているかなという、それを示すような数字はありましたけど、趨勢(すうせい)的に下げ止まって底打ちしたな、という形にはまだなっていない。数字上もう少し確認できないと、楽観はまだできない」と慎重な姿勢を示した。
一つには、依然として大元となる契約総数の減少トレンドが続いているからだ。今年度予算を発表した今年1月、NHKは25年度末の契約総数の年間減少数を30万件と見込んでいた。ところが、実際には3月末時点で34万件減で、契約総数は4033万件。どうやら、そもそもの見込みがやや甘かったようだ。このうち地上契約よりも高額の衛星契約は15万件減少。契約総数が減少に転じた20年度末以降の年間減少幅としては大きい方だ。
世帯数減少、テレビ離れ…受信料収入回復するか
井上会長は3月のインタビューで「これまで契約確保に躍起になっていた」と指摘。契約後にきちんと受信料を支払ってもらうようフォローする重要性を強調し、未収対策に軸足を置く方針を示している。ただ、契約数は収入の土台となるだけに座視はできない。25年度の受信料収入が見込み通り、5900億円となるかどうか、6月の決算が気になるところだ。
契約総数減少の大きな要因は、受信契約の単位となる世帯数の減少だろう。ただ、テレビを必要としない人が若年世代を中心に増えているのも事実だ。「滞納者に対してあまり強硬な姿勢を見せ過ぎると、契約自体を解約されるのではないか」との懸念は、NHK幹部の間からも聞かれる。財政の立て直しは、詰まるところ受信料を負担する視聴者相手のアナログかつセンシティブな作業に基づくだけに慎重な対応が求められる。
NHKONEでNHKBS配信ができるかカギ

連休明けには、27〜29年度の経営計画の策定作業が始まる。喫緊の課題として綿密な検討が必要なのは、収支構造の改善に加え、インターネット業務が必須化されたことで事業構造をどう変えていくかだ。要は、昨年10月にスタートした配信サービス「NHKONE」のみでNHKのコンテンツに触れる利用者も受信契約が必要となったこともあり、放送も配信も同等の事業として実施するという意味だろう。
だが、テレビ放送には地上契約と衛星契約があるが、ONEは現状、地上波(総合、Eテレ)番組のみアップされているため、受信料額は地上契約の料金だ。衛星放送番組についても必須業務として配信が求められているが、現状、権利処理やコスト面で課題があるとして、NHKは衛星放送番組のONEでの配信を猶予されている。こうした課題がクリアされれば、当然、NHKBSなどの番組がONEでも見られるようになるだろう。となれば、料金をどうするかについても改めて検討テーマとなるはずだ。
とはいえ、ONEの登録アカウント数は3月末で362万件で、契約総数の10分の1にも満たない。毎日使っている身からすれば、番組放送中に冒頭からの追いかけ視聴もできるし、ニュースなどでは興味のないネタを飛ばせるので、実に使い勝手がいい。それだけに利用が広がらないのがある意味、不思議だ。だから登録件数をどれだけ増やすか、それこそが何よりの課題なのだろう。
逆に言えば、ONE開始から半年を経てもこの程度の登録数というのは、NHKが打ち出す番組自体が、やはりかつてほど視聴者に魅力的に響かなくなっているのかもしれない。こうした状況下、支払い督促の申し立てを拡大するのなら、NHK自身が視聴者に対して公共放送の必要性や価値を丁寧に説明し、受信料制度や番組内容に対する様々な疑問にもきちんと答えていく真摯(しんし)な姿勢を見せることが不可欠だろう。
