「墓じまいして良かった。だけど…」63歳長男、費用70万円で両親も眠るお墓とお別れ。「肩の荷が下りた」はずが、心を覆う一抹の後悔【CFPの助言】
近年、「管理が大変」「費用がかかる」といった理由から墓じまいを検討する家庭が増えています。しかし、実際に墓じまいをしたあとに、「これで本当によかったのだろうか」と心に引っかかりが残るケースも見られます。今回はトータルマネーコンサルタント・CFPの新井智美氏が、50代男性の体験をもとに、墓じまいにかかる現実的な費用や心理的な変化、後悔しないためのポイントについて解説します。
片道2時間かけて墓参りへ…猛暑の中で草むしりや掃除の重労働
地方で会社員(再雇用)として働く佐藤誠一さん(仮名・63歳)は、ある年の夏、お盆の墓参りを終えた帰り道、強い疲労感を覚えました。
そのお墓は先祖代々のもので、亡くなった両親の遺骨も納められています。場所は、かつて実家があった近くの山間部にあり、車で片道約2時間かかる距離です。炎天下の中での草むしりや掃除が、年々体にこたえるようになっていました。
「あと何年これを続けられるだろうか」
そう考えたとき、頭に浮かんだのは、離れて暮らす子どもたちの姿でした。都内で働く息子と、結婚して他県に住む娘。どちらも地元に戻る予定はありません。
両親が亡くなってから10年以上。親に対する引け目がないとはいえませんが、「自分の代で何とかしないと、次の世代に距離やお金(年間1万5,000円程度の管理費や法要費)の負担を残すことになる」という思いが、墓じまいを現実的な選択肢として意識させたのです。
想像以上だった「お金」と「手続き」の重み
墓じまいにあたり、まず誠一さんは複数の石材店に相談し、見積もりを取りました。そして、最終的にかかった費用は合計で約70万円。おおよそ以下のような内訳です。
・墓石の解体・撤去費:約50万円
・閉眼供養:約3万円
・遺骨の取り出し・合祀費用(簡易な合祀プラン):約7万円
・離檀料:約10万円
株式会社鎌倉新書(東京都中央区)が運営するお墓の情報サイト「いいお墓」が実施した「第4回 改葬・墓じまいに関する実態調査(2026年)」では、墓じまいの費用は31万円〜70万円が最多という結果でした。
そこからすれば一般的な範囲に収まっていますが、それでも老後を前にした誠一さんにとって、決して小さな出費ではありませんでした。
永代供養には「最初から合祀されるタイプ」、「一定期間後に合祀されるタイプ」、そして「個別安置が続くタイプ」がありますが、誠一さんは最初から合祀されるタイプを選択。
最も悩んだのは離檀料でした。明確な金額基準がないため、寺院に相談しながら決める必要があり、精神的な負担も大きかったといいます。
肩の荷が下りたあとに訪れた現実
すべての手続きが終わった日の夜、誠一さんは久しぶりに肩の力が抜けた感覚を覚えました。
「これでようやく終わった」
気がかりだった問題を一つ片付けた達成感と安心感。しかし、その感覚は長くは続きませんでした。数週間後、ふとした瞬間に思い出したのは、あの山の中の墓の風景でした。
苔むした石段、子どもの頃に祖父と手をつないで登った記憶、線香の匂い。
「ああ、もう、あの墓はないんだな」
そう気づいたとき、胸の奥にじわっと広がる寂しさを感じたのです。
これまでは、そこに行けば「家族の場所」がありました。けれど合祀された今、同じように向き合える場所はもうありません。単に墓がなくなったというだけではなく、誠一さんが親や祖父母と静かに向き合う“拠り所”が失われたということでもありました。
誠一さん自身と妻も、亡くなったら合祀墓に入ることを決めています。ですが、そのとき、自分の子どもたちには、かつて自分がそうしてきたように、個別に手を合わせられる場所はありません。
また、誠一さんを悩ませたのは、親戚との関係でした。墓じまいから数ヵ月後、法事の席で、父の弟である叔父から「墓をなくすなんて、親や先祖に申し訳ないと思わないのか」と言われたのです。
墓じまいをするにあたり、事前に兄弟や子どもとは話し合って理解も得ていましたが、親戚全体への説明は十分とはいえませんでした。そのため法事の場で思わぬ反発を受け、「伝えたつもりでも、きちんと理解を得なければ意味がなかった」と実感したのです。
墓じまいは「正解」ではなく「選択」
この経験を振り返り、誠一さんは「やらなければよかったとは思いません。ただ、少しの後悔はありますね。もっと丁寧に向き合うべきだったとは感じています」と話しています。
墓じまいは、費用や管理の問題だけではありません。そこには、家族の記憶や価値観、人とのつながりが深く関わっています。
例えば、年間1万5,000円の管理費も、30年で45万円になります。さらに交通費や時間を含めれば、負担は決して小さくありません。一方で、「その場所に行けば思い出せる何か」を失うことの重みは、数字では測れないものです。
墓じまいを検討する際には、次のような考え方が大切です。
まず、「なぜ墓じまいをするのか」にきちんと向き合うこと。費用なのか、距離なのか、それとも後継者の問題なのか。理由が曖昧なまま進めると、後から迷いが生じやすくなります。
次に、親族との共有です。「報告」ではなく「相談」という形で関わることで、感情的な衝突を防ぎやすくなります。
そして、供養の形を具体的にイメージすること。合祀墓なのか個別安置なのかによって、後からの選択肢は大きく変わります。
気持ちの整理にも時間をかける
墓じまいは手続きを進めれば完了しますが、気持ちの整理はそれとは別の時間軸で進みます。誠一さんは今でも、年に一度はお寺に行き、元の墓があった場所まで足を運ぶことがあるそうです。
「お墓はないとわかっていても、あの場所に行くと少し落ち着くんです」
その行動は、合理性では説明できないものかもしれません。しかし、それもまた自然な感情です。
墓じまいは、将来の負担を減らすための現実的な選択肢の一つです。一時的に費用はかかるものの、将来における管理面の負担軽減というメリットもあります。一方で、感情的な喪失感や親族関係への影響など、目に見えない側面も無視できません。
重要なのは、墓じまいをすることが「正しいかどうか」ではなく、「自分や家族が納得できるかどうか」です。時間と対話を重ねながら選んだ結論であれば、その選択はきっと後悔の少ないものになるはずです。
新井智美
トータルマネーコンサルタント
CFP®
