森への移住は決断の連続だった――作家・小川糸のとっておきの話〉から続く

『いとしきもの 森、山小屋、暮らしの道具』では、たくさんの撮りおろし写真を収録。初夏の爽やかな緑の葉に包まれた森の木々、木のぬくもりが優しい山小屋、実際に使っているキッチン道具や美しいアート作品など、小川糸さんならではのセンスに溢れたライフスタイルが注目を集めています。

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 そんな森の生活について小川糸さんが語った、未来屋書店須坂店でのトークイベントの模様をお届けします。


『いとしきもの』では、小川さんが日々の生活で使っている愛用品を多数ご紹介しています。撮影:鈴木七絵

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小川さんが会場で披露した「いとしきもの」

――せっかくの機会ですので、小川さんが生活の中で実際に使っている「いとしきもの」をお持ちいただきました。皆さんに見せてくださいますか。

小川 本にも掲載されていますが、これがインドで買ったタンブラーです。山小屋から少し離れたところの湧き水を汲みに行ったりするときに、よく使っていて、銅でできています。わたしは銅のものがすごく好きなんです。清潔に保てたりとか、冷たいものを入れれば冷たいまま保存がきくので重宝しています。

小川 この銅製のポットは韓国で見つけたもので、蓋に小鳥の形をしたつまみがついています。銅ってすごい熱伝導率がいいので、すぐに熱くなるんですけど、この取っ手のところだけはツルが巻いてあるので熱くならない。気に入って毎日使っています。森の山小屋の他にもう1軒、山梨の里にも土いじりをするための野良小屋があって、そこでも同じものを使っているんですけど、好きなものは常にそれを使いたい、と思ってがんばって探して見つけたものです。

小川 そしてこれはクルミ割り。長野にお住まいの方はクルミをよく食べると思うんですけど、この真ん中にクルミを入れて上から押さえつけると、殻がパリンとすごく簡単に割れるので、とても便利でおすすめです。これも気に入って同じものを2つ持っているのですが、ベルリンのクリスマスマーケットとフィンランドで見つけました。

 クルミは使い道が本当にたくさんあって、私はよく生野菜のサラダやスープに入れたり、お菓子づくりに使うこともあります。実を出した後の殻は薪ストーブの焚き付けにするとすごくよく燃えるので、燃やして使い切ります。

もったいない精神のドイツ事情

――森の生活は、「余すところなく使い切る」というスタンスでいらっしゃいますね。

小川 そうですね。もったいないことをするっていうのが自分の中では罪深いことなので、いかに無駄にしないか、ということを心掛けています。

――ドイツ・ベルリンでも生活されていましたが、そのもったいない精神は、そのときの影響もありますか?

小川 はい。ベルリンではたとえば使わなくなったものがあったとしたら、自分の住んでいるアパートの前に段ボールとかに入れて「どうぞ」と置いておくと、またそれを必要とする人が持ち帰って使ったりしていました。日本でもときどき見かけますが。

 食器や子どもの小さくなった靴とか、大きなものだと家具までいろんなものが置いてあって。これ、本当に持っていく人いるのかな? と思って見ているんですけれども、意外と最後、きれいに全部なくなる。「よいしょよいしょ」と若者たちがトラム(路面電車)を使って自力で運んでいる姿を見ると、ただ捨てるのではなくてじゅんぐりに活用していくというのが、すごくいい文化だなと思います。

――もしかして「長く使う」ということが、住宅にも言えますか?

小川 日本の住宅の寿命はたしか平均およそ30年くらいで、それでまた建て替えていくわけですけど、私がベルリンに住んでいたアパートは築100年を超えていて、もちろん古いしガタがきているけど、水回りで問題が起きたら修理して住んでいました。

 ヨーロッパは日本ほど地震がないので壊れなかったり、石でもともと頑丈に作ってあるというのがあるんですけど、代々引き継いで長く暮らしていく文化が根付いていて、建ててわりと早い段階で取り壊されてしまう傾向のある日本の住宅事情とは違いますね。ですので、山小屋を建てるときは頑丈で長持ちする家を建てたいという希望がありました。

(3回目に続く)

(小川 糸,「文春文庫」編集部/文春文庫)