いじめ、不登校、家庭内のトラブル。子どもたちの複雑な心の問題に向き合う「スクールカウンセラー」。学校現場になくてはならない専門家だが、彼らの労働環境は極めて不安定である。

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 子どもの心を守る専門家たちは、自らの生活の不安とどう向き合っているのか。ここでは、スクールカウンセラー、いじめ第三者委員会等を務める藪下遊氏の『スクールカウンセラーは何を見ているのか』(ちくまプリマー新書)の一部を抜粋。知られざるスクールカウンセラーの生活事情を紹介する。


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スクールカウンセラーは非正規雇用

 スクールカウンセラーという仕事は、基本的に非正規雇用になります。意外かもしれませんが、常勤でスクールカウンセラーの職があるのはごくわずかな地域と私立学校だけで、全体の割合としては低いです。

 非正規雇用なので、労働条件もそれに準じたものになります。たとえば、スクールカウンセラーは基本的に単年契約であり、来年度の仕事が前年度の後半(12〜2月くらい)に決まるのが一般的です。仕事が決まる時期としては、相当遅いと言えます。スクールカウンセラーの仕事を期待していたけれど年度末に不採用だった、ということになったら次年度の収入が百万単位で変わることだってあるのです。

 また、一度採用されれば安心というわけではなく、「来年度は契約しない」ということも起こり得ます。いわゆる「派遣切り」と同じような状態が考えられるわけです。本来、カウンセリングでは継続性が重要ですから、急に不採用になりスクールカウンセラーが変わることで、子どもたちや学校の混乱も招く恐れがあります。

 また、採用が決まったとしても、来年度に「どの学校を担当するか」「年間の勤務時間数はどのくらいか」ということは年度末にならないとわかりません。だから、なかなか「来年度の予定や生計の見通しが立てられない」ということも起こってきます。

 スクールカウンセラーとして働く場合、学校ごとに「スクールカウンセラーの配置時間や回数」が定められています。たとえば、A中学校は「週に1回、年計35回の勤務。1回6時間で年間の合計が210時間」、B小学校は「隔週で年計17回の勤務。1回2時間で年間の合計が34時間」などのように。配置形態(週に何回、1回の勤務時間、年間の勤務回数、総勤務時間など)のパターンは都道府県によって異なりますが、子どもの人数や課題が多い学校では、年間の勤務時間が多めに設定される傾向にあります。

 上記の通り、スクールカウンセラーとして勤務できるか、そしてその日数や時間数は、各都道府県の教育委員会から与えられる仕事に左右されます。「将来はスクールカウンセラーとして働きたい」と思っている人は、1週間ぜんぶ学校で勤務しているというイメージをもっているかもしれませんが、そういう働き方をしている人は少ないのです。

「来年度もスクールカウンセラーができるだろうか」「同じくらいの収入になるだろうか」…

 都道府県によっては、一人のスクールカウンセラーに任せる学校数を制限している場合もあります。ですから、スクールカウンセラーとして勤務しているのは週に1〜2回という人が多く、それ以外の日は別の領域でカウンセリング関係の仕事を掛け持ちしているというのが一般的だと考えておいてください。

 このように見てみると、スクールカウンセラーの雇用はやや不安定と感じられるでしょう。

 私自身も、年度末になると「来年度もスクールカウンセラーができるだろうか」「同じくらいの収入になるだろうか」と不安になります。もちろん、適切に働いていれば現場から良い評価がなされ、それが来年度の雇用につながるので滅多なことはありません(ただ、それも「絶対」ではない)。スクールカウンセラーの雇用を安定させようということで、常勤化の話も出ていますが実現する見通しは立っていません。この辺はスクールカウンセラー業界の今後の課題と言えそうですね。

スクールカウンセラーにまつわるお金の話

 お金の話もしておきましょう。スクールカウンセラーは時給制であることが多く、1時間5000円前後が平均です。たとえば、C中学校が1日7時間勤務、年間38回ということであれば、7時間×38回×5000円=133万円になり、それがC中学校に勤務することで生じる年間賃金になります(交通費は別に支給されます)。年度当初から賃金が明らかになっているという点では、「年俸制」がイメージとしては近いかもしれません。

 また、経験年数で時給に差をつけている(たとえば、1年目は3500円、2年目は4200円、3年目以降は5000円など)都道府県もありますが、経験年数に関係なく一律「時給5000円」と設定している都道府県が多い印象です。ですから、ルーキーであろうが、15年目のベテラン選手であろうが「同じ年俸」ということが生じ得るわけです。この辺は、新任の人にとっては、プレッシャーを感じるところかもしれません。

 お金と関連することですが、夏休み中は子どもが登校していないので、教員対象の研修を行う場合などを除いて、スクールカウンセラーは基本的に休みになります。ですから、夏休み中(8月)は勤務回数が減ることになり、次月(9月)の収入が減ります。場合によってはほぼゼロのときもあるでしょう。ちょっと「家計のやりくりが必要になる」のもスクールカウンセラーという働き方の特徴かもしれません。私は家計のやりくりが下手くそなので(お金を使っちゃうんですね)、毎月1万円ずつ貯金しておき、9月の収入がなくなるときにお金を下ろして対応しています。就く仕事によって生活にオリジナルな工夫を入れ込むのは、スクールカウンセラーに限らず大切でしょうね。

知識や経験の浅いカウンセラーにしてみると…

 スクールカウンセラーの労働条件として特徴的なのが「一人職場である」という点です。

 病院や福祉機関などであれば複数のカウンセラーが勤務していることも多く、先輩カウンセラーから指導や助言をもらいながら成長していく……という展望をもちやすいのですが、スクールカウンセラーではそうした一般的なイメージが当てはまりません。知識や経験の浅いカウンセラーにしてみると不安を感じるところかもしれませんね。

 ただ、悪いことばかりではなく、「自分でカウンセリングの場を設えることができる」という体験は一人職場ならではです。学校にはさまざまな備品(椅子や机、事務用品、机やソファにかける布、使っていないカーテンなど)があります。それらの使用許可を校長先生からもらった上で、カウンセリングを行う部屋に工夫を加えていくことができるのです。カウンセリングにおいて環境は重要な要素ですから、それをある程度調整できることは利点です。もちろん、いま現在カウンセリングの部屋を使っている子どもが戸惑うほどの急激な変化にならないようにすることも大切です。

 カウンセリングでは、さまざまなものが子どもに影響を与えています。たとえば、海外の風景が描いてある絵葉書がカウンセリングの場に置いてあると、子どもによっては「遠くに行きたい」「こんな場所に行きたい」と話題になることがあります。こうした発言の奥には、現在の状況の苦しさやそれを投げ出したい気持ちなどが控えていることがあります。また、子どもの語る「遠く」が、子どもの現実とつながっているか否か(たとえば、韓国のアイドルが好きだから韓国に行きたいのか、自分のことを知る人が誰もいない遠くに行きたいのか)によっても、その心象風景は異なることがわかるでしょう。

 カウンセリングの場を構成するものは、すべてがカウンセリングの一部です。大切なのは、その一つひとつがカウンセラーからのメッセージになり得ると自覚し、カウンセリングの場を設えていく意識をもつことです。スクールカウンセラーという仕事は、「カウンセリングに影響を与えている因子を把握する」「カウンセリングの場を細やかに構成する」というセンスを磨く上で絶好の場と言えるでしょう。

必修科目の体育を「見学もしない」と拒否する高1女子にどんな声をかけるのが正解?「卒業できないという現実を…」《“スクールカウンセラー”の見解》〉へ続く

(藪下 遊/Webオリジナル(外部転載))