歌舞伎俳優の尾上右近さん(左)と俳優の篠井英介さん(右)(撮影:岡本隆史)

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男性が女性を演じる意味とは何か。現代劇と歌舞伎それぞれで女性を演じてきた篠井英介さんと尾上右近さんに、2人の舞台を長年観続けてきた関容子さんが切り込みます。(撮影:岡本隆史 聞き手:関容子)

【写真】2003年にブランチ役を演じた時の篠井さん

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<前編よりつづく>

子どもがいきなり本気を出した

右近 僕は3歳で『鏡獅子』を観て、すぐに尾上墨雪先生、当時の菊之丞先生に入門し、日本舞踊の稽古に通い始めました。

篠井 藤間流の踊りをやっている身からすると、右近さんの踊りは、振りと振りとの間がものすごく充実しているんですよ。

右近 それは(坂東)玉三郎のお兄さんにもずいぶん言われました。点と点の間の線が重要だってことを。でも僕にとって『鏡獅子』に関しては別物なんです、感覚的に。踊りっていうよりも何か、《空気の連続》という感じなんですよね。

六代目菊五郎のイメージはすごく大きいです。やはり古典の世界ですから、それぞれのお役にそれぞれ先輩たちのイメージはあるんですけど、『鏡獅子』に関してはもう自分自身でいかないと、という気持ちが昨年の歌舞伎座での公演から強くなりました。それは不思議な感覚でしたね。

篠井 素晴らしい。突き抜けたんですね。右近さんは邦楽の、清元のおうちに生まれて、役者のほうに行きたいと思われたのはいつ頃からなんですか。まぁ、二刀流で、両方の世界でご活躍ですけど。

右近 父の延寿太夫が出演している歌舞伎の生の舞台を「観に行きたい」ってついて行くと、芝居より踊りのほうがわかりやすいし、色彩がきれいだったんです。

とくに憶えているのが『吉野山』。静御前と狐忠信の道行きなのですが、なぜか花四天(はなよてん)の印象がとても強かった。この人たちは身体を使ってこんなすごいことをするんだ、って。

その時の忠信が天王寺屋さん(中村富十郎)で、静が京屋のおじさん(四代目中村雀右衛門)でしたけど、5歳やそこらの子どもがそれを観て、やっぱりこれをやりたい、って思って真似してました。

篠井 清元の真似は?

右近 それもしていました。でも清元の家の子どもが清元の真似をしていても、別に当たり前の話なので。それが役者のほうの真似をしてるので、じゃあちょっと舞台に出してみようか、ということになった。それが7歳、岡村研佑の初舞台です。

大人たちはちょっと面白半分のつもりが、子どもがいきなり本気出したんでびっくりして、困って。想定外のことだったようです。(笑)

篠井 その時の演(だ)し物は?

右近 『舞鶴雪月花(ぶかくせつげっか)』で、松虫の踊りでした。親たちにしてみれば子どもの思い出作りのはずが、自分は本気のデビューだと思い込んでいて……。今さらそれは勘違いだと言えない大人たちのことを思うと、おかしいですね。

篠井 そこから今日まで来たんだからすごいよね。


「女方さんは。性別を超えて表現している時点で、精神的に乗り越えるべきものが立役より圧倒的に多いと思う」(右近さん)

性別を超えた表現に挑む

――篠井さんと右近さんの唯一の共演は、『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』(2018年)。スプーン一杯の水が、一歩を踏み出すための人生のレシピとなる……という作品だ。

やや重いテーマで、右近さんの役はイラク戦争での負傷から麻薬中毒になった過去を持つ青年。篠井さんはその母親で、ドラッグ中毒者の集まるサイトの管理人の役を務めたという。

右近 最初に英介さんとのご縁をいただいたのがこの翻訳劇で、あの時はものすごくもがいたし、どうやって切り開いていけばいいかもわからない。でも篠井さんは泰然として、品格もあって、圧倒されましたね。

篠井 もしそうだったとしたら、それは日本舞踊然り、歌舞伎の女方的な要素が僕のベースにあるからなのかもしれない。日本人が日本語で日本のお客さんに観せる時は、翻訳劇であろうと私のベースはやっぱり日本の古典なんです。

だから振袖もロングドレスもちゃんと着こなせなくちゃいけない、って思っている。つまりどっちも同じことなんですよ。

ちなみに、この時はあんまり仲のいい親子の役じゃなくて、嫌われてるお母さんなんだけど、お稽古の時に、息子を殴るか殴らないかみたいなシーンがあって。

右近 ありました、ありました。

篠井 ね、僕が手を振り上げて、結局殴らなかったんだけど、最初の稽古で拳を振り上げた時、右近さんは微動だにしなかった。やっぱり歌舞伎の人は肝が据わってるなと思いましたよ。

右近 そうでしたか。よくわかってなかっただけだと思う(笑)。上演中に地震がありましたね。あの時、篠井さんも微動だにしなかった。

篠井 僕が湯船に入っているシーンで、その状態のまんま客席に、「大丈夫ですから、そのまま席でお待ちください」って。(笑)

右近 僕はあの時が初めての主演で、座長だったのですが、ああいう時にどうしたらいいかまったくわからなかったので、ありがたかったし、勉強になりました。咄嗟にパッと対応できるのは、まさに《女方さん》なんですよ。立役(たちやく)って、あんまりほかのこと考えてないから……。

篠井 女方は立役さんのことを慮ったりして、それがまた楽しいのかもしれない。

右近 アクシデントに対して、肝が据わっているんですよね、女方さんは。性別を超えて表現している時点で、精神的に乗り越えるべきものが立役より圧倒的に多いと思う。立役はそのままの自分でいられるけど。女方はストレスがたまります。(笑)

篠井 そう、ストレスがたまるから女方は深酒をする人が多い、って言われるけど、僕は全然。女方をやっている時は晴れ晴れと、せいせいとしてますね。むしろテレビとかで、意地の悪い男の役とかを演じている時のほうが、すごくストレスがたまる。(笑)

右近 そういう時はどうしてるんですか?

篠井 撮影現場に行っても黙ってるの。話すと、この柔らかい感じが出ちゃうから。だから別の場所でその時の共演者に会うと、「あの時は感じ悪かったよ〜」って言われます。(笑)

<後編につづく>