鈴木保奈美「子どもだって血がつながっていても違う生き物。白黒つけず、ピンクも黄色もあると思えるようになったのは子育てを経験したから」
20代で『東京ラブストーリー』『愛という名のもとに』など大ヒットドラマに出演。妊娠・出産を経て2011年に俳優に復帰した鈴木保奈美さん(59)。明るく知性的なキャラクターで、ドラマに舞台、読書番組のMCと活躍の場を広げてきた。医大入試における女子一律減点の疑惑を追う記者を主人公に、それぞれの女性の様々な闘いを描いた社会派ドラマ『対決』(NHKBS、毎週日曜日午後10時・全5回)では、理事として医大を守る立場の神林晴海役を演じる。原作は月村了衛さんの同名小説。読書家で知られる鈴木さんは、オファーと同時に原作を読んで心を動かされたという。鈴木さんに作品に込めた思いを聞いた。(取材・文:婦人公論.jp編集部 撮影:本社・武田裕介)
* * * * * * *
考えが違うのは当たり前
劇中では、松本若菜さん演じる新聞記者の菊乃と神林の対決をはじめ、さまざまな対立が描かれます。対立するようなことがあった時、自分自身は、白黒つけるというよりも、グレーもあるし、ピンクや黄色もあると考えるようになってきました。「そりゃそうだよね、そういう言い分もあるよね」と相手の事情を想像します。そう考えるようになったのは、子育てを経験したことが大きかったのかもしれません。自分が生んだ子どもでも、自分と同じようには考えていない。「血がつながっていても違う生き物」という発見がありました。子どもでさえ、自分とは違うのだから、血がつながっていない世間の人と考えが違うのは当たり前だと考えています。白黒つけたい人が間違っているわけでもないし、「白黒つけたくない」ということを誰に気遣うことなく表明できる。そこが目指すところじゃないかな。
<新聞記者の檜葉菊乃(松本若菜)は、社会部の検察担当。別の事件を追う過程で、統和医大入試で女子受験生が一律減点されているという噂を聞く。菊乃が医療現場を取材すると、「結婚や出産で現場を外れる女医は戦力にならない」と当たり前のように発言する医師たちばかり。女性医師までもが減点を容認していたのだ。菊乃は、事務畑出身で理事になった神林を取材の突破口にしようとする。一方、神林は医大の理事会で、女子一律減点問題の担当理事に指名されてしまい…>
神林役のオファーをいただき、原作の小説を読みました。社会的メッセージの強い作品。この内容を映像にしようと思っている人たちのパッションを感じました。神林という、これまであまり演じたことのないタイプの役に呼んでくださったことも本当にうれしかったですね。「ぜひ」とお受けしました。
自分に問いを突き付けられた
<医学界という男性優位社会で、理不尽に直面する女性たちの戦いが描かれる。統和医大の理事会のメンバーは男性ばかり。神林以外の唯一の女性理事、北加世子(高畑淳子)は、処世術に長けた人物で、かつては医大の副理事長の愛人だったという噂もあり、神林とは全く異なるタイプだ。大学にはびこる差別やハラスメントへの憤りを感じている神林だが、理事の1人として大学を守る立場となり葛藤する>

(『対決』/(c)NHK)
『対決』は、シンプルなタイトルですが、男女の性別間の対決、世代間の対決、組織の上下間での対決が含まれています。正義とは何か、正しさとは何か。誰にとっての正しさなのか、自分にとっての正義とは何か。正しいことを選択することは正しいのか…。自分に問いを突きつけられているような撮影期間でした。
でも苦しいことではなくて、『対決』という作品の撮影をチームで走り抜けられたことは自分の糧になりました。視聴者の皆さんに、今度は同じような体験をしていただきたいと思っています。
強い女性ではなくて
原作を読んだ時の神林晴海の印象は、ポーカーフェイスでものすごくクール。自分の信念を持って一直線に向かっていく人でした。菊乃から探られても全部バッサリと切っていくような強いタイプの女性を想像したんです。でも、池田千尋監督と話しているうちに、自分のやっていることに常に悩んで、正しさを探している人であり、自問自答を続けている人だとイメージが変わりました。シーンごとに悩む1人の女性とし存在していきたいと思うようになり、強い女性というよりは、その都度探し物をしているような女性を意識しました。

鈴木保奈美さん
<第1回で、女子受験生一律減点問題の担当理事に指名された神林。なかなか感情を表に出さない神林の本心を、無言の間とわずかな表情の変化で表現した>
ポーカーフェイスな人として描かれているので、神林の迷いをどう表現するのか悩みました。ただ、池田監督はコンマ3秒くらいのちょっとした表情もちゃんと捉えて生かしてくださる。だから、池田監督を信頼してお任せしていました。
松本若菜の芝居に「なるほどそう来るか」
<タイトルが示す通り、対決シーンが見どころだ。女子一律減点問題を記事化するためには関係者の証言が必須。神林が突破口になると感じた菊乃は、繰り返し神林に接触する>
菊乃との長い対決シーンは、攻守交替しながら大きく3回ありました。菊乃を演じる松本若菜さんとの対決みたいな雰囲気もあって、お芝居をしていて「なるほどそう来るか」と感じることもあり、演じていて楽しかったですね。

鈴木保奈美さん
私自身は昔から、対決するというよりも、何かを解決するために作戦を練るタイプです。神林は、調子よく逃げられるタイプではなく、ものごとに真正面から向き合って対決する人。本当に大変だと思いますよ。
<劇中ではさまざまな女性が登場する。シングルマザーの菊乃は苦労しているようでいて、ある人から見たら仕事も子どもも手に入れた恵まれた女だと指摘される。理事の北は、政治力を駆使し、男性社会を生き抜くために『女を使って何が悪い』という信念を持った人物。それぞれの正義がぶつかっていく>
どの人物の中にも自分はいるなと思いました。ある場面では自分は、北先生のようだし、ある画面では「それはおかしい」と詰める菊乃のよう。人は多面的なので、観ている方も登場人物それぞれに共感できる部分があるのではないでしょうか。
知らないことを知る楽しさ
<読書家として知られ、2023年には読書番組『あの本、読みました?』(BSテレ東)のMCに就任。作家や編集者、書店関係者を招き、話を聞く。自身のインスタグラムには毎月読んだ本を投稿。2025年にインスタグラムで読了を報告した本は104冊に上る>
幼いころから読書が好きでした。読むなら絶対に紙の本派です。物語が進むにつれ、ぺージの残りが少なくなっていく。「そろそろ犯人がわかるかな」とか思える。やっぱり、モノがあった方が楽しくて。昨年は100冊以上本を読みました。番組の準備のためにたくさん読まなくちゃいけないので、意地で読み進めたこともあります。でも、読書に時間を割いて損をすることはないし、自分のためになりますから。

鈴木保奈美さん
<インスタグラムでは、読んだ本から仕事の告知、プライベートまで投稿し、気さくな素顔が垣間見える。今年1月には大学入試の英語に挑戦したことを報告し、反響を呼んだ>
中学生の頃から、新聞に掲載される大学入学共通テストの英語の問題に挑戦していたんです。インタビューでテストのことを聞かれる機会も多いけれど、聞かれたから答えているだけで、自分でアピールしているんじゃないんですよ(笑)。学び続けたいというよりも、知らないことを知るのが楽しくて。YouTubeも、博物館の館長さんが面白い解説をしてくださっているものをよく見ています。
<近年は舞台にも力を入れる。4月からは主演舞台『汗が目に入っただけ』で還暦を前に突然亡くなり、幽霊になった女性を演じる>
今年8月で60歳になります。年齢について深く考えたり、意識したりしていることは特にないんですよ。「60になるんだな」というくらい。ただ、今年は丙午イヤー。私は丙午が気に入っているので、記念すべき年だとは思っています。とにかく、体力だけはちゃんとキープしてどんなオファーがあっても楽しめるようにしたいですね。
