歌舞伎俳優の尾上右近さん(左)と俳優の篠井英介さん(右)(撮影:岡本隆史)

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男性が女性を演じる意味とは何か。現代劇と歌舞伎それぞれで女性を演じてきた篠井英介さんと尾上右近さんに、2人の舞台を長年観続けてきた関容子さんが切り込みます。(撮影:岡本隆史 聞き手:関容子)

【写真】2003年にブランチ役を演じた時の篠井さん

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雷に打たれたような衝撃で

――現代演劇の嫋やかな女方でありながら、映像では非常にアクの強い男の役も演じる篠井英介さん。少年の頃に杉村春子が演じる『欲望という名の電車』の主人公・ブランチをテレビで観て、「将来この役を演じたい」と強く願ってそれを実現させた。

一方、近ごろの目を見張るような活躍ぶりがまぶしい歌舞伎若手花形の尾上右近さん。3歳の時、母方の曽祖父、六代目尾上菊五郎の『鏡獅子』を映像で観て、「僕は今にこれになるんだ」と宣言。昨年、歌舞伎座の檜舞台でその夢を叶えている。

初志貫徹のお二人に「女方の芸」について聞いてみた。

篠井 おかげさまでこの3月に『欲望という名の電車』のヒロイン、ブランチ役を久し振りに演じることが決まって、本当に幸せに思ってます。19年ぶり、4度目なんですよ。

右近 おめでとうございます。初演はいつ頃だったんですか?

篠井 ちょうど右近さんくらいの年齢の時に、上演の権利が取れたんです。それで大喜びして稽古して切符まで売り出した時に、著作権所有者から突然撤回されて。主演が男優だということが向こうに知れたわけなんですね。

右近 なんで、それがいけないのか。


「それから私のブランチで何年かおきに3回上演したので、もう終わりにしようと思ったんだけど、今回また魔がさして(笑)」(篠井さん)

篠井 リアリズム演劇の金字塔的作品を、ジェンダーの枠を超えてやることに抵抗があったんでしょうね。35年くらい前の話だから。それで急遽別の作品を書いてもらって、それを上演したの。

右近 女方で、ですか?

篠井 ええ、女方で、オリジナルの芝居。そこから僕が『欲望〜』を上演できるまでに、9年かかりましたからね。

右近 どうやって著作権者を説得したんですか?

篠井 だんだん世の中が変化してきたこともあるし、アメリカでは別のテネシー・ウィリアムズの作品で男性が女性の役を演じたという情報を得たので、すぐに交渉して許可をもらったの。

それから私のブランチで何年かおきに3回上演したので、もう終わりにしようと思ったんだけど、今回また魔がさして(笑)。だって杉村春子さんは80歳でブランチを演じてたんだから、67歳の僕もやれないことはないだろうと思って。

右近 大丈夫ですよ。

篠井 ありがとうございます。今日はここへ来る前に歌舞伎座昼の部の右近さんの八役早替り、『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』を拝見してきましたけど、まぁお見事でした。

最初、可愛らしい禿(かむろ)で出て、座頭になったり、傾城(けいせい)になったり、最後は蜘蛛の精になって押戻(おしもどし)の荒事まで演じちゃうんだから、それは見事なものでしたよ。

右近 お褒めいただくのはそのくらいでいいですよ。(笑)


2003年にブランチ役を演じた時の篠井さん。青山円形劇場にて(撮影:落合高仁)

――篠井さんは高校の演劇部で、テネシー・ウィリアムズの作品を演じたとか。

篠井 そうなの。『欲望〜』の前身にあたる一幕ものの『あるマドンナの肖像』という作品があって、顧問の先生にこのヒロインを演じたいと言ったら、「お前、頭おかしいんじゃないの?」と言われた(笑)。

それでクシューンとしちゃって、その役は女子にゆずって僕は脇役と演出に回りましたけど。

右近 すごい。その頃から演出されていたんですね。

篠井 まぁ、学芸会だからね。僕は子どもの時に杉村春子さんの『欲望〜』のテレビ中継を録音して、そのカセットテープをずうっと寝る時に聴いてたからね。それが鳴海四郎さんの訳で、やっぱりちょっと昭和初期の、古めかしい感じがして。

僕が初演した時の『欲望〜』は小田島雄志先生の訳でしたけど、僕には鳴海四郎の杉村春子調が結構出てましたね。それから3回目が雄志先生の御子息の恒志先生の訳になって、今回はG2さんの訳になりました。

右近 そのたびに憶えなおすのは大変ですよね。それにしても、最後に精神科病院へ送られるような暗い役を、よく子どもの時にやりたいと思いましたね。変わってる。(笑)

篠井 ええ、母親も気持ち悪がってました。変な子ね、こんな芝居が好きだなんて、と。

右近 なんで好きっていうのがわかったんですか。

篠井 とにかくもう、雷に打たれたような衝撃を受けたんですよ。右近さんが六代目の『鏡獅子』の映像を観て、衝撃を受けたのも同じだと思うけど。でも右近さんのおうちはご理解があるけど、僕のところは芸能とは関係のないうちだから結構大変でしたよ、ここまで来るのが。

<中編につづく>