相続放棄するか否かは3か月以内に決めなければならないが…(Luce/PIXTA)※写真はイメージ

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悪知恵の働く親族による不当な財産搾取は、個人の財産的権利を侵害するだけでなく、その人が本来自立して生活できたはずの費用を公的負担に転嫁して、社会的にも損失を生む悪質な行為です。「自己責任」で済ませてよい問題ではありません。

生活保護法2条は、「無差別平等の原理」を定めており、生活困窮に至った原因(過去の事象)を問うことはありません。たとえだまされて財産を失ったとしても、今、現に困窮しているのであれば、生活保護を受けることができるのです。

このことを逆手にとり、資産を放棄させたうえで生活保護の受給を事実上強要するという、制度の悪用が見られるのです。

本来であれば親の遺産を活用して自立した生活を送れたはずの人が、他の親族にだまされ搾取されたことによって生活保護に陥ることは、個人の悲劇であると同時に、公的負担を不当に増大させる社会全体の大きな損失です。

悲劇を未然に防ぐための予防法務

このような非道な搾取に対抗するには、「家族の情」や「口約束」といったものを信じる「性善説」に依存してはなりません。本人が元気なうちに法的な防衛網を構築しておく「予防法務」が不可欠です。

第一に、最も基本的かつ強力な対策は、公証役場において「公正証書遺言」を作成することです。誰に何を相続させるかを明確に記載し、遺言の内容を確実に実行する「遺言執行者」を指定しておくことで、悪意ある親族が勝手に自分たちに都合の良い遺産分割協議を主張することを物理的に防げます。

第二に、判断能力に不安がある場合における「成年後見制度」の活用です。後見人が本人の代わりに財産管理を行えば、親族による財産の横領や不当な権利放棄を未然に避けることができます。

ただし、この制度の利用には注意も必要です。家庭裁判所によって弁護士等の専門職後見人が選任された場合、本人の資産の中から後見人報酬を支払わなければならず、結果的に本人の生活資金を圧迫するリスクがあるからです。

そこで、第三の選択肢として、近年注目されているのが「家族信託(民事信託)」です。あらかじめ信頼できる相手(受託者)に財産管理を託し、その財産から得られる利益を障害のある子(受益者)に給付し続ける仕組みを構築することで、柔軟かつ安全な財産保全と生活保障が可能になります。

ずる賢い者が私腹を肥やし、支援を必要とする正直者が搾取される理不尽を許さないためには、生前から法的な防衛策を幾重にも張り巡らせておくしかありません。正しい知識は、身を守る強固な盾となります。

この記事を一人でも多くの方が読み、安全な財産承継の重要性に気づかれることを願ってやみません。



■三木ひとみ
行政書士(行政書士法人ひとみ綜合法務事務所)、社会保険労務士(ひとみ社労士事務所)。官公庁に提出した書類に係る許認可等に関する不服申立ての手続について代理権を持つ「特定行政書士」として、これまでに全国で1万件を超える生活保護申請サポートを行う。著書に『わたし生活保護を受けられますか(2024年改訂版)』(ペンコム)がある。