境界知能の受刑者たちをどう矯正するか…多くの人が知らない「カリキュラムの中身」

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7人に1人、日本に約1700万人いるとされる「境界知能」の人たち。

言語化が苦手、仕事の段取りを覚えられない、行動がワンテンポ遅い、対人関係の距離感が極端、金銭管理ができない、ダマされやすい……困っているのに気づかれなかった人々の実態とは?

発売即重版が決まった話題書『境界知能の人たち』では、当事者を見てきた第一人者の医師が、全体像をわかりやすく解説する。

(本記事は、古荘純一『境界知能の人たち』の一部を抜粋・編集しています)

市原青年矯正センター

千葉県にある市原青年矯正センターは、おおよそ26歳未満の知的障害などを有する男子受刑者に対し、特性に応じたきめ細やかな処遇を行うことを目的に、少年院を転用した刑事施設として2023年に設置されました。

入所している受刑者は、知能検査を受けており、35人中13人が境界知能領域であるとのこと。境界知能の受刑者も処遇対象となっているのです。

刑務官、教育専門官、心理専門官、福祉専門官、就労支援専門官、作業専門官、医療職といった多分野の職員が連携し、小規模施設の特性を生かした手厚い処遇を展開しています。

具体的な処遇の特色としては、半開放寮における処遇環境(個室に鍵をかけず受刑者自らが時間管理を行い、自発的に行動して生活する)、複数担任制、個々の特性をふまえた作業・職業訓練、改善指導、教科指導などです。集団処遇に加えて、個別面接、日記指導、個別課題など生活状況に応じたきめ細やかな処遇が実施されています。

これらの処遇は科学的知見に基づいて行われています。特に、刑執行開始時の調査には、知能検査の結果もふまえて障害特性に関する綿密な評価を行ったうえで、処遇要領を策定し、受刑生活への動機付けを図り、目標達成に向けた自発的な取り組みを促しています。

教科指導から体育、日記指導まで

また、矯正処遇のカリキュラムが組まれており(図表11)、施設内でその様子を見学することができました。受刑者の多くは不登校経験があり、体験学習の機会も少ないとのことですが、カリキュラムの内容は、不登校児の支援で行われているものに類似していると思いました。

見学当日には、教科指導が行われていました。個々の受刑者の学習上の進度やつまずきが多様であることをふまえ、ICT教材を導入して個別的学習を行っています。

全員がパソコンを使って別々の課題に黙々と取り組んでいました。前方1台のパソコンで教官が全員の学習内容とつまずいている箇所を把握し、受刑者のところには刑務官が巡回して個別にアドバイスを行っています。

入所時には小学2年〜3年レベルの学習から行っていますが、このプログラムによって基礎学力が引き上げられ、自発的な学習意欲もわいて、高校卒業程度の学力を身につけた受刑者もいるということです。

個々の受刑者には時計が貸与されており、自分で考えて動く「時間管理能力」の育成にも取り組んでいます。

週3回、運動・体育指導の時間が設けられていますが、単に基礎体力の向上を目指すだけでなく、チームでのコミュニケーション能力、主体性、チャレンジ精神、目標設定と達成に対応する力を育成するように工夫されていました。改善指導では、詐欺や窃盗などの犯罪類型に特化したプログラムが実施されていました。

日記指導は「文字による対話」という認識のもと、個別担任、面接、集団指導と組み合わせることで、より重層的かつ綿密な働きかけを行っています。

子どもにとって、日記は受動的体験で苦手意識が強いものですが、空欄に自由に記載するのではなく書きやすいような工夫がなされていました。

睡眠、体調、今日の気分、今日の出来事などの項目があり、最も大きなスペースに「自分の言動を振り返り、昨日よりできるようになったこと、困ったこと、明日対応したいこと、相談したいこと、周囲の人の為にしたいこと、被害者のこと、明日への決意など」を記載する形になっていました。その下には職員のコメント欄があり、複数の職員からのコメントが書き込まれていました。

実際に日記を見せてもらいましたが、枠に入りきらず追加で記載していたり、土日も自主的に書いたりする受刑者が多いことも印象的でした。言語化が苦手、表現に時間がかかる受刑者も自分のペースで日記を書き、職員との文面による対話を行っており、大きな効果があると実感しました。

さらに「日本に1700万人いるとされる「境界知能」の人たち…当事者を見てきた医師が明かす「その実態」」では、7人に1人いるとされ、知的障害と平均値のボーダーにある境界知能の実態に迫っていく。

【つづきを読む】日本に1700万人いるとされる「境界知能」の人たち…当事者を見てきた医師が明かす「その実態」