アメリカが主導する有人月探査計画「Artemis(アルテミス)」で初めての有人ミッションとなる「Artemis II(アルテミスII)」。NASA(アメリカ航空宇宙局)によると、ミッション4日目を迎えた宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」は地球から月へと向かう往路の中間点をすでに通過し、現在は地球よりも月に近い位置を順調に航行しています。


【▲ Orion宇宙船の太陽電池パドルに取り付けられているカメラで撮影した宇宙船の“セルフィー”(Credit: NASA)】

打ち上げ時の高い精度とOrion宇宙船の良好な状態を報告

NASAは現地時間2026年4月4日に定例の記者会見を開催しました。SLSプログラムマネージャーのJohn Honeycutt氏は、打ち上げ時の大型ロケット「SLS(スペース・ローンチ・システム)」の軌道投入精度が99.92パーセントという非常に正確なものであったことを報告。この極めて高い飛行精度により、ミッション4日目に予定されていた2回目の軌道修正燃焼(OTC-2)も前日に引き続き不要と判断され、スキップされています。


また、Orion副プログラムマネージャーのDebbie Korth氏によれば、太陽電池パドルに搭載されたカメラを用いた宇宙船の外部点検の結果、耐熱タイルなどに損傷は一切なく、無人テスト飛行であった2022年の「Artemis I(アルテミスI)」ミッションの同時期と比較してもさらに良好な状態であることが確認されました。ミッション管理チームに新たなリスクは報告されておらず、飛行は極めて完璧に進行しています。


【▲ 月へ向かう軌道に乗ったOrion宇宙船の窓から地球を眺めるNASAのReid Wiseman宇宙飛行士(Credit: NASA)】

トイレの凍結や“謎の匂い”といった小さなトラブルも

一方、Orion宇宙船の船内ではテスト飛行ならではの細かなトラブルも発生しており、クルーと地上チームが協力して対応に当たっています。


NASAによると、トイレの廃水を船外へ排出する管が凍結している可能性が懸念されましたが、軌道修正燃焼がキャンセルされて機体の姿勢を自由に変更できるようになったため、排水管を太陽の方向に向けて直接温めるという機転を利かせた操作が実施されました。この結果、タンクの廃水の半分を排出することに成功しています。


なお、トイレ自体は完全に稼働しているので「大」の使用は問題ありませんが、「小」についてはタンクの容量を確保するため、排水管のトラブルシューティングが完了するまでの間は予備の携帯型容器を使用しているということです。


また、クルーから船内の一部で「埃っぽいヒーターのような匂い」がするという報告があったものの、ガス分析計による調査の結果、有害物質や生物学的な要因は検出されておらず、テープなどの素材から揮発した気体が原因とみられています。


さらに、ミッション初日から不具合が出ていたChristina Koch宇宙飛行士の端末が完全に故障してしまいましたが、船内には他に3台の端末があるため、クルー間で共有してミッションを継続しています。


【▲ Orion宇宙船の船内で作業を行うクルー。左から:NASAのVictor Glover宇宙飛行士、CSAのJeremy Hansen宇宙飛行士、NASAのReid Wiseman宇宙飛行士(Credit: NASA)】

ミッション5日目の予定とフライバイへの期待

ミッション4日目の夜には、Christina Koch宇宙飛行士とCSA(カナダ宇宙庁)のJeremy Hansen宇宙飛行士により、姿勢制御スラスターの2つのモード(3自由度と6自由度)の違いを検証する手動操縦のデモンストレーションが実施されました。


続くミッション5日目には、Orion宇宙船はいよいよ月の重力圏へと進入します。この日は、緊急時にクルーを保護する船内用宇宙服の着用テストなどが予定されています。


【▲ Artemis IIミッション4日目に手動操縦のテストを行うクルー。左から:NASAのChristina Koch宇宙飛行士、CSAのJeremy Hansen宇宙飛行士、NASAのVictor Glover宇宙飛行士(Credit: NASA)】

また、ミッション6日目に控える月面への最接近(フライバイ)に向け、クルーは観測計画の学習を進めています。フライバイ時のOrion宇宙船と月面の最小距離は、約4066マイル(約6540キロメートル)となる見込みです。


NASA科学ミッション本部のKelsey Young氏によると、探査機の高解像度カメラで撮影した月面のデータはすでに存在しますが、訓練された人間の目は「微妙な色の違い」を瞬時に見分ける能力に長けており、かつて「Apollo 17(アポロ17号)」で月面を歩いたHarrison Schmitt宇宙飛行士(当時)がオレンジ色の土壌を発見した時のような、地質学的な新発見が期待されているといいます。


フライバイの終盤では、Orion宇宙船から見て太陽が月の後ろに隠れることで約53分間の「日食」が発生する見込みであり、この機会を活かした太陽コロナの観測も予定されるなど、いよいよミッションの科学的な活動のハイライトが目前に迫っています。


【▲ Artemis IIミッション2日目にOrion宇宙船の太陽電池パドルに取り付けられているカメラで撮影した宇宙船と月(Credit: NASA)】

 


文/ソラノサキ 編集/sorae編集部


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