日曜劇場『リブート』©TBS

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 日曜劇場『リブート』(TBS系)は、警察や政界をも巻き込んだ裏社会の大きな闇や莫大な金額の裏金に1人のパティシエが、翻弄されながらも極限の愛を貫くダイナミックなサスペンスドラマである。そして、毎週毎週新たな真実や衝撃の事実が明らかになっていく、視聴者を飽きさせない驚異的なスピード感も今作の大きな魅力の一つであった。またその上で、今作の本質であり最も重要なポイントであったのは、やはり家族愛の尊さや深い夫婦愛を正面から描き切ったところにある。

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 そもそも、現在の令和ドラマのラブストーリーにおけるトレンドは“リアリズム”にあるといえるだろう。

 例えば、2026年1月期の話題作『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)は、カップルのお別れから物語が始まり、ラストは相手を思う故にお互いの道を行く展開が描かれていた。2人のカップルが無事に結ばれて終わるというような価値観ではなく、数々の出会いや別れを通して、社会的な人間の多様な関係性を映し出すストーリーが、ドラマに限らず映画においても多く描かれている。

 1月期では特に『冬のなんかさ、春のなんかね』(日本テレビ系)がその流れにある作品として挙げられるだろう。決して一世一代のラブストーリーではなくとも、人生の中で誰にでも訪れうる失恋、生まれうる恋心や人間同士のすれ違いは『冬のなんかさ、春のなんかね』にも通底している令和的なテーマである。さらに、毎週、劇伴を多用しない従来のドラマらしからぬ長回しや、CMを驚くほどナチュラルに跨ぐアトラクション性の無さは、どこまでもリアルなこのドラマの特徴であった。

 そんな令和のリアリズムを新たに突き詰めた異色なヒューマンドラマもある一方で、夫婦、家族の愛を真っ直ぐに描いた壮大でドラマティックな王道作の進化系が今期の日曜劇場『リブート』なのである。

 特に昨今では、夫婦関係を扱うドラマにおいては不倫や略奪愛や復讐などといったテーマが多く語られる。こういった、得てして成就して終わりではないラブストーリーにおける現実的なテーマの選択もまた令和的なリアリズムの一つであるといえるだろう。そんな現代であるからこそ、ここに余命的な設定もタイムスリップ的な要素も永遠の死別といった制限も用いずに、家族愛の尊さと夫婦愛の復活と永続をまた新しい形で見事に描きだした部分にこそ『リブート』の凄みがあるといえる。

 また、そんな最新のドラマティックを更新した『リブート』と最新のリアリティを更新した『冬のなんかさ、春のなんかね』とを比較してみると、両作品ともに毎週、1話ごとに新たな事実が判明し、1話ごとに深みにハマっていく作りとしてのドラマ全体の軸は同じながら、そのアプローチは全く真逆である非常に対照的な作品であったともいえる。

 『リブート』の前半は常に現在を描きながらその先で新たな真実に突き当たるという、主人公はその真実を視聴者と同時に知るかたちである。他方、『冬のなんかさ、春のなんかね』の前半では、回を追うごとに新たなモノローグと過去を交えて描くことによって、徐々に別の角度の真実やパーソナリティが明らかになるという形となっていた。そのようにして『冬のなんかさ、春のなんかね』がやはり、出会ったばかりのまだよく知らない人と会話をしているかのような特殊なテンポで構成されていたことなどを考えると、『リブート』の前半は特に、令和の最新ドラマとして堂々たる王道サスペンスの様相を見せていたといえるだろう。

 1話も見逃せないテンポで走り続けた『リブート』は、第6話では第1部の締めくくりといえるような「終幕」を迎え、早瀬陸(松山ケンイチ/鈴木亮平)が儀堂歩として生きていくことを決意した第7話から新たなパートへ突入しする。そしてついに、第8話では、これまで常に圧倒的なスピード感で描かれてきたリアルタイムの裏にあった、一香(戸田恵梨香)の過去と正体が判明することで早瀬夫婦の関係性が変化し、ここからエクストリームなサスペンスドラマは壮大なラブストーリーという重心を伴い、生まれ変わっても一緒であるという愛の究極を「リブート」という形で体現していくことになる。

 そして出会いから始まった『冬のなんかさ、春のなんかね』の物語はかたや、お別れの方向へ舵を切り、別れから始まった『リブート』の物語はかたや、家族と愛の再生の方向へ舵を切っていくこととなった。

 現代的な恋愛や人間関係へと物語の方向性がアップデートされていく令和ドラマにおいて、社会の裏で動く金銭や貧困、闇バイト、居場所のない子供たちなどといった、時代に即した社会問題が複雑に絡まり合うリアリティを保ちながら、さらにその先へ行くドラマティックを見せた『リブート』。最新鋭の技術を使った一人二役という設定の妙に加え、輪をかけて大きくなっていく事件の規模や闇の深さが壮大であればあるほど、そこに立ち向かう2人の夫婦と、たとえ大切な人には気づかれなくてもただ陰で支え続けるという見返りを求めない愛やその絆がさらに強く美しく映るという、サスペンスとラブストーリーの相乗効果が爆発しつつ見事に融合しながら、家族愛の尊さと強さを象徴した新たな形の作品であった。

 リアルなタッチで描かれるドラマや、結婚や恋愛に夢を見すぎるでもなく、それをゴールととらえるでもない等身大のようなラブストーリーも、特に今の時代にとっては大切であり、多様性などと共に認められ、求められているものでもあり、たしかに大きく人の心を救う作品になりうるであろうが、綺麗事でも夢物語でも「金や権力なんかに縛られている連中より、小さな家族を必死で守ってるやつのほうが強い」というメッセージを胸を張って伝えてくれるようなテレビドラマである『リブート』もまた、令和という現代、今の世の中において改めて必要で重大な傑作であるといえるだろう。(文=矢吹=幹太)