自衛官募集で住民情報を提供…福岡市の投稿に反発「勝手に渡すな」 自治体に広がる名簿提出、その法的根拠は?
「自衛官募集事務のため、令和8年度に18歳、22歳になる方の氏名と住所の情報を、自衛隊に提供します」
福岡市の広報戦略室がXに投稿した内容に、反発が相次いでいる。
高校や大学を卒業するタイミングに合わせて、自衛官募集の案内を送付するためのものとみられる。個人情報の提供を望まない人は、6月1日までに手続きをする必要があるという。
しかし、SNSでは「勝手に個人情報を提供するな」「個人情報提供を希望する方は申し出てください、が筋ではないですか?」といった声が広がっている。
実は、こうした住民情報の提供は福岡市だけではない。全国の自治体でも広くおこなわれており、2025年には横浜市の同様の投稿も話題となった。
とはいえ、「気づかないうちに個人情報が提供される」という構図に気味の悪さを覚える人がいるのも無理はないだろう。なぜ、こうした運用が可能なのか。
●名簿提供を可能にしているのは「自衛隊法」
福岡市はホームページで、次のように説明している。
<自衛官等募集事務については、市町村の法定受託事務と定められており、自衛隊法施行令第120条には、「防衛大臣は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる。」と定められており、この法令を根拠に、毎年、防衛大臣から各市町村長に対し、募集対象者情報の提出について、依頼があっています。>
根拠となるのは、自衛隊法97条とされる。
<防衛省と総務省より、自衛官等の募集に関し必要となる情報に関する資料の提出は、自衛隊法第97条第1項に基づく市区町村の長の行う自衛官等の募集に関する事務として自衛隊法施行令第120条の規定に基づき、防衛大臣が市区町村の長に対し求めることができること、募集に関し必要な資料として、住民基本台帳の一部の写しを用いることについて、住民基本台帳法上、特段の問題を生ずるものではないことが通知されています>
つまり、自治体が自衛隊に住民情報を提供すること自体は、法令に基づく枠組みの中でおこなわれているということだ。
●安倍晋三氏の発言が注目を集めた
自衛隊への名簿提供をめぐっては、政治の場でも議論されてきた。
安倍晋三首相(当時)は、2019年2月の自民党大会で「都道府県の6割以上が協力を拒否している悲しい実態がある」と発言し、注目を集めた。
その後、2020年12月には、自衛官募集に必要な資料の提出について、防衛大臣から求められた場合、「市区町村長が住民基本台帳の一部の写しを提出することが可能であることを明確化し、地方公共団体に令和2年度中に通知する」ことが閣議決定された。
こうした流れの中で、名簿提供は広がっていったとみられる。
●福岡市の「除外申請」、2025年度は185人
ただし、名簿提供をしている自治体でも、すべてが一律というわけではない。「除外申請」によって、個人が提供を拒否できる仕組みを設けているケースもある。
福岡市もその一つだ。
同市によると、2025年度に自衛隊に名前や住所を提供した住民は3万954人。一方で、除外申請をおこなった185人については、情報提供の対象から外したという。
●裁判になるケースも
こうした名簿提供のあり方をめぐっては、法廷に持ち込まれるケースもある。
神戸市では、市民グループがプライバシー権の侵害を理由に国を提訴。奈良市でも、自衛隊に個人情報を提供された高校生が同様の訴訟を起こすなど、制度の是非を問う動きも出ている。
